誤嚥性肺炎を舌の筋力トレーニングで防ぐ

水を飲む

誤嚥性肺炎の予防に
舌の力を鍛えるボトルが登場

熱中症予防は暑い夏の間の話と思いがちでしょうが、室内に暖房を利かせる冬も、熱中症には注意が必要です。カラカラになった喉に、コップの水を一気に飲みほしたくなるものの、誤って気管に入りむせたりしてはいけないから思いっきり飲むこともできない――。

こんな悩みを抱える方の間で、『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)という一冊の本が大ベストセラーとなったのは5年ほど前のこと。以来、この本で紹介された、のどの筋肉を鍛えて「飲み込む力」を強化するトレーニングが、高齢者を中心にちょっとしたブームになりました。

ちょうどその頃、永六輔さんや森光子さんなどの著名人が相次いで亡くなり、誤嚥(ごえん)による肺炎が原因だったと報じられたことも、このトレーニングをブームとして盛り上げる一因になっていたのだろうと思います。

この、のどを鍛える誤嚥性肺炎予防のトレーニング法は、最近では少し下火になっているようですが、代わって新たなトレーニング法として、一風変わったボトルが登場しているのをご存知でしょうか。

今日は、「このごろ食事中によくむせる」という方に好評で、製造が追いつかないほどの売れ行きだというこのトレーニングボトルの話を書いてみたいと思います。

食事中「むせる」「咳き込む」なら
誤嚥性肺炎に注意して

トレーニングボトルの話に入る前に、ちょっとだけ肺炎の話に触れておきます。

ご存知のように、かつて肺炎は、長きにわたり日本人の死因トップを走っていました。戦後に入りさまざまな抗菌薬(抗生物質)が登場したおかげで、肺炎による死亡者数は急激に減少し、死因順位ではいったん4位に下がりました。

ところが、高齢者人口の増加に伴い肺炎でくなる方が徐々に増えはじめ、2011(平成23)年には3位に浮上。その後、全人口に占める死因の割合としては、4位、5位近辺に落ち着いていたのですが、65歳以上に限って見ると、肺炎による死亡者数は年々確実に増加しており、80歳、90歳代では死因の2位を占めるに至っています。

すでにお察しの通り、その背景には「誤嚥性肺炎」があります。食べたり飲んだりするときに「ちょっとむせる」「咳き込む」といった症状から始まる誤嚥性肺炎は、高齢者にとっては死に直結する大問題です。

この誤嚥性肺炎を少しでも減らそう、それもできるだけ負担が少なく手軽にできる方法で、との思いから編み出されたのが、「タン練くん 」という名のトレーニングボトルです。

舌の筋力を鍛えるボトルで
誤嚥性肺炎を予防する

食べ物や飲み物を誤嚥する原因の一つに舌の筋力の低下があります。紹介する「タン練くん」は、この舌の筋力を鍛えて飲み込む力を高めようというトレーニング器具です。

開発したのは、歯科医師として診療に携わる一方、和歌山県内の老人ホームで、10年以上にわたり口腔ケアのボランティア活動を続けてきた笠原直樹医師です。

「タン練くん 」として商品化されたこのトレーニングボトルは、一見しておわかりのように、おそらくは誰もが一時期お世話になった、あの赤ちゃんの哺乳ビンをそのまま大きくしたような、形状も機能もよく似たシリコン製のトレーニングボトルです。

このトレーニングボトルは、あえて訓練の時間や場所を設ける必要がありません。また、訓練であることを意識しなくても、水ものを飲むというごく日常的な動作のなかで舌の筋力が鍛えられるように工夫されているのが特徴です。

舌の力が強くなり
誤嚥することなく食事ができる

このトレーニングボトルは、ボトルに取り付けられた吸い口となる乳首部分の先端に小さな穴があり、そこからボトル内の水を飲むようになっています。その乳首部分の形状と先端部分の穴の大きさは、舌を前後にしっかり動かして吸引力を上げないと、ボトル内の水を吸い出せないように工夫されています。

そのため、満足できる十分量の水(お茶でもジュース飲料などでもOKです)を飲むためには、しばらく吸い続けなくてはなりません。このときの吸い続ける舌の動きの繰り返しが、そのまま舌の筋肉を鍛えることにつながっているのです。

舌の筋肉が鍛えられて強くなると、食事をするときに舌をスムーズに動かすことができるようになります。この動きにより食べたものや唾液を間違いなく食道へと送り込み、結果、誤嚥を防ぐことができるようになるというわけです。

舌の筋力アップにより
「口から食べる」を続ける

私たちが普段なにげなく行っている「口からものを食べる、飲む」という機能は、非常に複雑なメカニズムから成り立っています。一般にそのメカニズムは、以下の5段階から成ると考えられています。

  1. 先行期:目の前の食べ物、飲み物を認識して口へ運ぶ
  2. 準備期:口に入れた食べ物を噛み砕き、咀嚼し、唾液と混ぜて嚥下しやすい食塊にする
  3. 口腔期:食塊を口の奥に移動させて口腔から咽頭へ送り込む
  4. 咽頭期:嚥下反射により食塊を一瞬で咽頭を通過させて食道へ送り込む
  5. 食道期:食道壁の収縮・弛緩によりに食塊を下方へ送り、胃に到達させる

「舌の筋力アップを図るトレーニングボトル」は、上「3」の口腔期と「4」の咽頭期の機能を高めて誤嚥を予防しようという目的で作られています。

誤嚥の予防はそのまま、「口から食べる・飲む」を続けることを可能にし、要介護の状態に陥りやすいフレイルの予防にもつながっていきます。エンシュアリキッドなどの総合栄養剤(経腸栄養剤)を飲んでいる方は、単なる水ではなくエンシュアをこのトレーニングボトルに入れて飲んでみるのもいいのではないでしょうか。

がん患者や誤嚥性肺炎のリスクにより口から食べることを「やめたほうがいい」と医師から言われる高齢者の間で、「エンシュア・リキッド」という栄養剤が人気と聞く。医薬品だから医師の処方が必要だが、胃瘻などの人工栄養を選択する前に検討してみてはどうか。

嚥下体操でむせにくい体づくりを

なお、むせたり咳き込んだりしないで美味しく食べるための「嚥下体操」がさまざま紹介されています。

ここでは、食事の前の準備体操として、浜松市リハビリテーション病院えんげセンターの藤島一郎医師による、呼吸訓練から始まる「”藤島式”嚥下体操セット」を紹介しておきます。動画に合わせてやってみてはいかがでしょうか。

肺炎球菌ワクチンを受けておく

誤嚥性肺炎の原因菌で多いのは肺炎球菌ですが、肺炎球菌性の肺炎を予防するにはワクチンがあります。このワクチン接種については、こちらを読んでみてください。

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうなか、高齢者の肺炎への関心が高まっている。高齢者の肺炎の原因菌で最も多い肺炎球菌は重症化しやすいのが特徴だが、日頃から健康的な生活を心がけていれば肺炎予防は可能だ。加えて、肺炎球菌ワクチンもある、という話を。