肥満体質と倹約遺伝子と遺伝子検査と……

遺伝子

エネルギーを節約して使い
脂肪をため込む「倹約遺伝子」

このところ、SNS上などで肥満や内臓脂肪の蓄積、あるいはダイエットに関連して「倹約遺伝子」という言葉を頻繁に見聞きするようになりました。

倹約遺伝子とは、別名「節約遺伝子」あるいは「肥満遺伝子」とも呼ばれるように、限られたエネルギーを最大限節約して使い、余ったエネルギーは体脂肪に変えて蓄えるように身体に組み込まれている遺伝子のことです。

かつて深刻な食糧不足が続いていた時代に、飢餓状態に陥ることなく生き延びるため、いわば自衛策として変異した遺伝子です。

飢餓時代ならともかく、現在のように食べる物に不自由しない、むしろ飽食の弊害が言われる時代にあっては、倹約遺伝子の働きが裏目に出てしまい、少しの食べ過ぎや運動不足で肥満、場合によっては2型糖尿病*などの病気につながりやすくなっているのです。

*2型糖尿病:糖尿病には、治療にインスリン注射が必須の「インスリン依存型(1型糖尿病)」と、治療に必ずしもインスリンを使わなくてもいい「インスリン非依存型(2型糖尿病)」があります。
日本人の場合、1型は全糖尿病患者の約5%、多くて10%で、残りの90%以上が、遺伝的要因に食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が加わって発症する2型糖尿病だとされています。

日本人の3人に1人が
倹約遺伝子をもっている

倹約遺伝子は、現在までに50~60種類が確認されていると聞きます。

この遺伝子をもっていると、太りやすくて痩せにくいうえに、少しの肥満や運動不足で2型糖尿病になりやすいことが研究で確認されています。

少々迷惑な遺伝子ですが、日本人の約34%、およそ3人に1人がこの倹約遺伝子をもっているとされています。

かかりつけ医から内臓脂肪の蓄積によるメタボリックシンドローム(メタボ)*や2型糖尿病のリスクを指摘されている方はもちろん、お腹周りに脂肪がつきはじめ、ぽっこりお腹が気になっている方、食べ過ぎや運動不足に気をつけているのに一向に体重が減らない方などは、この倹約遺伝子をもっている可能性があります。

とはいえ、倹約遺伝子をもつことが必ずしも肥満、あるいはメタボや2型糖尿病といった病気の発症につながるわけではありません。

倹約遺伝子をもっていても、自分は脂肪をため込みやすい体質であることを意識して、健康的な食事とエネルギー摂取に気を配り、運動不足にならないようにしていれば肥満などのリスクを減らすことができます。

*メタボリックシンドローム:メタボリックシンドロームの考え方にはいろいろあり、腹囲が大きいだけでメタボリックシンドロームとする説もありますが、一般に内臓肥満(お腹の内臓に脂肪がたまり腹囲が大きくなる肥満)に高血圧や高血糖、脂質代謝異常(高脂血症)などが組み合わさることによって、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指すと説明されています。

倹約遺伝子をもっているか否かは
遺伝子検査でわかる

倹約遺伝子を両親から受け継いでいるかどうかは、遺伝子検査をすればすぐにわかります。

遺伝子検査は、検査結果を医療情報として活用する場合は採血が必要です。しかし自らの健康増進のために倹約遺伝子をもっているかどうかを知りたいという場合は、口腔ぬぐい液(ほほの内側をぬぐった液)や唾液などでも比較的簡単に調べることができます。

そのため最近では、一般向けに数多くの民間検査機関が専用の検査キットを使い、オンラインによる郵送法などでこの遺伝子検査を行っていて、誰でも手軽に倹約遺伝子の存在の有無をチェックできるようになっています。

遺伝子検査はかかりつけ医の指導のもとに

しかし、遺伝子検査の結果、仮に倹約遺伝子をもっていることがわかった場合、その情報を肥満の改善、あるいはメタボリックシンドロームや2型糖尿病などの予防に有効に活用するには、個々の食習慣や運動習慣、さらには今現在の健康状態に見合ったきめ細かな生活習慣の見直しが必要です。

これまで長い間続けてきた食事や運動といった生活習慣を変えることはそう簡単なことではなく、行動変容のためのカウンセリングなど専門的な指導が必要になる場合もあります。

したがって、主治医などかかりつけの医師がいる方が倹約遺伝子をもっているかどうかのを遺伝子検査を受けようと思ったら、その医師にまず相談することをお勧めします。

民間の検査機関で
遺伝子検査を受ける場合

一方で、まずは一度、ネット上などで紹介されている検査機関が提供する遺伝子検査で倹約遺伝子による体質や病気のリスクなどを調べてみたいという方もいるでしょう。

その際に利用する民間企業による遺伝子検査サービスについては、是非知っておいていただきたいことがあります。

遺伝子検査を受ける際のチェックリスト

改めて言うまでもありませんが、遺伝子検査では、その人固有の遺伝情報を取り扱うことになります。

この点を重視した経済産業省は、検査手法の妥当性や唾液などの検体および検査で得られた遺伝情報の保管、取り扱いなどについて、消費者向けに遺伝子事業者選定チェックリストを作成、公表して、リストアップされている以下の全項目にチェックが入る事業者(企業)を選ぶことを推奨しています。

医師を介することなく遺伝子検査サービスを利用する場合は、検査機関のホームページやパンフレットを参考にこのチェックをすましてから、検査を申し込むことをお勧めします。

遺伝子検査事業者チェックリスト
◎体質検査など親子鑑定・血液鑑定以外の遺伝子検査の場合

□検査の結果得られる判定は医師の診断ではないことを明記している
□遺伝子検査の結果から体質などに関する判定をするための科学的根拠(論文や自社の研究結果)をしっかりもっていることを説明している
□遺伝子のどこを調べるのか説明している
□検査の結果から出された判定は同じ遺伝子の特徴をもっている人たちの間での一般的傾向であることを示している
□ホームページやパンフレットで行われる説明の資料と同意書を見ることができる
□事前に書面による詳細な説明があり、同意を確認した後に検査を進める
□検査の結果に伴う有償の商品の販売、有償の生活指導などの二次的サービス提供の有無をはっきり示している
□有償の二次的サービスが不要の場合は拒否できる仕組みになっている
□有償の二次的サービスの科学的根拠が明記してある
□事業を進めるに当たって準拠しているガイドラインの名前を明示している
□経済産業省の個人遺伝情報保護ガイドラインに従っている旨の記載がある
□遺伝子の検査をする場所または機関名が明示されている
□検査の前後でカウンセリングなど相談にのる仕組みがある

(引用元:経済産業省「遺伝子検査事業者選定チェックリスト

引用・参考資料*¹:経済産業省「こんな検査を受けようとしている貴方に――遺伝子検査事業者選定チェックリスト」