「加熱式タバコ」の禁煙治療にも保険が使える

禁煙

加熱式タバコ喫煙者も
保険適用の禁煙治療の対象に

医療サービスとして行われている禁煙治療には、従来は紙巻きタバコに限り、公的医療保険、いわゆる健康保険が適用されていました。それが2020年4月からは、「新型タバコ」の一つである「加熱式タバコ」の禁煙治療も対象となり、保険が使えるようになっています。

ただし医療保険による禁煙治療には厳しい条件があります。その条件を満たさないと自費診療となり、医療保険を使って禁煙治療を受けることはできません。今回は、その条件について書いてみたいと思います。

ニコチン依存症のリスクは
加熱式タバコの常用にも

「加熱式タバコ」とは、電気式専用器具を使って葉タバコを加熱し、発生するエアロゾル(蒸気)を吸引するタイプのたばこです。このエアロゾルにニコチンが含まれているわけです。

ちなみに、新型タバコと呼ばれているものにはもう一つ、「電子タバコ」があります。こちらはある種の液体(リキッド)を加熱してエアロゾルを発生させ、それを吸引します。このとき使うリキッドには、ニコチンを含むものと含まないものとがあります。

海外ではニコチン入りのリキッドが販売されていますが、日本では医薬品医療機器法(旧薬事法)により、ニコチン入りリキッドの販売は禁止されています(ネットで海外から個人輸入している方もいるようですが……)。

加熱式タバコも電子タバコも、紙巻きタバコのように葉タバコを燃焼させるわけではなく、紫煙(しえん)と呼ばれるタバコ特有のニオイを伴う煙は出ません。よって周囲の人に受動喫煙の迷惑をかける心配がなく、また自分の髪などにニオイがついて喫煙していることを他人に気づかれることもありません。そのためか、喫煙者の間で人気が高まっているようです。

しかし加熱式タバコには、紙巻きタバコと同程度のニコチンを含む製品があり、ニコチン依存症の管理が必要な加熱式タバコ喫煙者も少なくないようです。しかも最近は加熱式タバコが静かなブームで、加熱式タバコの喫煙者はかなりの数になると考えられています。

こうした背景から禁煙治療をより受けやすくしようと、2020年度に行われた診療報酬改定により、加熱式タバコの喫煙者も医療保険の対象に含まれることになっています。

禁煙治療の初回と最終回は対面
3回の再診はオンライン診療も

そこで、禁煙治療に医療保険を使える条件ですが、以下に示す3条件のすべてに該当し、担当医が「ニコチン依存症の管理が必要」と認めることが条件となります。

  1. 「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」の得点が5点以上で、ニコチン依存症と診断された人
  2. ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の人
  3. ただちに禁煙することを希望し、日本循環器学会、日本肺がん学会、日本癌学会および日本呼吸器学会が作成した「禁煙治療のための標準手順書」*¹に則った禁煙治療について説明を受けたうえで、その治療を受けることを文書により同意している人

以上の条件をすべてクリアすれば、12週間に5回行われる禁煙治療に、医療保険の「ニコチン依存症管理料」が適用されることになります。

この5回の治療は、従来は、すべて通院による対面診療で行われていました。これが2020年度の診療報酬改定により、5回のうち初回と最終回は現行どおり通院による対面診療ですが、2~4回の診療については、スマートフォンなどの情報通信機器によるオンラインでも受診できるようになりました。

オンライン診療では、禁煙治療の経過中に禁煙補助薬が必要になったときは、わざわざ受診しなくても、薬剤または処方箋を医療機関から患者宅に送付してもらうことができます。あるいはかかりつけ薬局があれば、医療機関からその薬局に処方箋がFAXなどで送信され、それを受け取ったかかりつけ薬剤師を介して薬剤が宅配されるようになります。オンライン診療の流れについては、こちらを参照してください。

慢性疾患で定期的にかかりつけ医の診療を受け、定時処方を受けている人には、この時期、新型コロナウイルスの感染リスクの高い医療機関に出掛けて行くのは不安だろう。この際、出掛ける必要のないオンライン診療、オンライン服薬指導を活用してみてはどうか。その方法をまとめた。

また、禁煙治療の途中で挫折して治療をギブアップしてしまう方を極力減らす狙いから、初回から5回までの医療費(自己負担分)を最初の回に一括して支払うと、1~5回分を個別に支払うよりも若干安くなる仕組みも、新たに導入されています。

ニコチン依存症の
スクリーニングテスト(TDS)

禁煙治療に医療保険が適用される条件の「1」にある「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」は、「自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまったことがありますか」「禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか」など、リストアップされている10項目の質問に回答していくものです。

「はい(1点)」「いいえ(0点)」で答えていき、合計点(TDSスコア)が5点以上であればニコチン依存症と診断されます。質問への答えが「はい」にも「いいえ」にも該当しないこともあるでしょうが、その場合は、0点としてカウントされます。このスクリーニングテストの全問は、こちらの記事で紹介していますので、挑戦してみてはいかがでしょうか。

毎年5月31日~6月6日は禁煙週間。今年は「受動喫煙のない社会を目指して」をテーマに全国各地でキャンペーン活動が展開される。禁煙治療は健康保険で受けられることは周知されているが、その自己負担分を助成する自治体が増えていることも紹介する。

喫煙による健康リスクを示す
ブリンクマン指数

適用条件「2」のブリンクマン指数とは、喫煙による健康リスク、つまり喫煙が喫煙者自身の健康に与える影響を調べるための喫煙指数です。これは、「1日に吸うたばこの平均本数×喫煙していた年数」で割り出されます。

タバコには、ニコチン、一酸化炭素、タールなど、発がん物質を含む有害物質が200種類以上も含まれています。ブリクマン指数が高くなるほど、これらの有害物質による健康被害のリスクは高まると考えられています。

ただしタバコの種類が違えば、有害物質の含有量も微妙に違ってきます。またタバコの吸い方によっても、1本の喫煙がからだに与える影響も異なります。そのため、ブリンクマン指数だけで健康リスクを正確に把握できないものの、一般に、次のように考えられています。

  • ブリンクマン指数が400を超えると、肺がんの発症リスクが高くなる
  • ブリンクマン指数が600を超えると、肺がんに加え肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクも高くなる
  • ブリンクマン指数が1200を超えると、さらに喉頭がんの発症リスクも高くなる

禁煙治療の補助薬出荷停止について

なお、禁煙治療は補助薬と医療者による面接指導の両輪を基本に行われます。この補助薬として広く使われてきた「チャンピックス錠」が、一部から発がん性物質が検出されたため2021年6月から出荷が停止されています。

出荷の再開は2022年後半以降が予定されていたものの、2023年12月10日現在再開の報はなく、チャンピックスを使えないことを理由に禁煙外来を休止する医療機関も出てきています。

しかし、補助薬としては、ニコチンパッチ(ニコチン貼付薬;ニコチネルTTS)やニコチンガムがあります。また、補助薬がなくても面接指導によりニコチン依存から立ち直ることは十分可能ですから、禁煙治療を諦めないでいただきたいと思います。

日本禁煙学会は2023年3月3日、会員に向け、チャンピックス錠の出荷再開の目途は立っていないものの、ニコチネルTTSで多くの患者が禁煙を達成していること等を理由に、禁煙外来の再開を呼びかけています

参考資料*¹:「禁煙治療のための標準手引き書・第8.1版」

参考資料*²:日本禁煙学会「禁煙外来を再開しましょう」