タッチケアが痛みや認知症症状を和らげる

タッチ

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タッチする刺激が、
オキシトシンを分泌して癒しを

「オキシトシン」というホルモンをご存知でしょうか。「聞いたことがない」とおっしゃる方でも、生後の間もない一時期、母親に抱かれて母乳を飲んだ経験があれば、このホルモンにはずいぶんお世話になっているはずです。オキシトシンは母乳を出すホルモンなのです。

母親に抱かれた赤ちゃんは、無意識にのうちに母親の乳首を探し当て、そこに吸いつきます。この吸いつきが刺激となり、反応して出るオキシトシンが、母乳の分泌を促します。

これによって赤ちゃんは、母乳をたっぷり飲むことができ、やがて空腹感から解放されて、安らかな笑顔を見せるようになります。一方の授乳している母親も、わが子のその笑顔を目にして安堵し、幸せな気持ちになる、といったメカニズムが働きます。

このような母と子の間にポジティブな相互関係を生み出すことから、オキシトシンは、「愛情ホルモン」とか「幸せホルモン」、あるいは「癒しホルモン」と呼ばれています。

タッチによるオキシトシンが
痛みや認知症症状を緩和する

この「癒しホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、私たちの脳の下部についている「脳下垂体(のうかすいたい)」と呼ばれる部分から分泌されるのですが、その働きについて、最近新しいことがわかってきました。

母と幼子の間での触れ合いだけでなく、人と人とのあらゆるかたちでの触れ合い、つまり「タッチング」によっても、オキシトシンの分泌が盛んになり、痛みを和らげる効果が期待できることが確認されるようになってきたのです。

また、認知症になると、そもそもの症状である記憶障害や自分の周りの状況がわからなくなる見当識障害(けんとうしきしょうがい)、あるいは思考や判断力の低下という認知能力の低下に付随して、BPSDと呼ばれる症状(周辺症状ともいう)がみられるようになってきます。

不安や、妄想、幻覚、怒り、攻撃性といった心理面や行動面、情緒面での症状ですが、こうしたBPSDに手こずり、看護や介護に難儀することが多いのが通常です。

ところがタッチング、つまり家族や介護者が優しく触れることによって、これらの症状を軽減させる効果が期待できることがわかってきたのです。

そこで看護や介護の現場では、この効果を慢性的な痛みを抱える患者の緩和ケアや認知症症状がみられる高齢者のケアに生かそうと、自らの手で患者の肌に直接触れるタッチケアが、いろいろなバリエーションで行われるようになっています。

最近では、このタッチケアによる快感刺激の効用を活用した「認知症マフ」と呼ばれるケアグッズが、認知症によるBPSDの予防や軽減を目的に活用されています。詳しくはこちらを読んでみてください。
認知症の方を介護していると、ときに落ち着かない言動に悩まされることがある。そんなときの癒しのグッズとして普及が進む「認知症マフ」を紹介する。すべての認知症の方に有効というわけではないそうだが、手触りの心地よさを好むようなら活用を。

タッチケアの効用は
ビジネスマンのストレス緩和にも

ある日の早朝、起きてすぐにテレビをつけると、確かNHKだったと思いますが、認知症と思しき高齢女性の手を介護ヘルパーと思しき女性が、ゆっくり言葉をかけながら、やさしくていねいにマッサージをしている映像が大きく目に飛び込んできました。

マッサージを受けている高齢者の手をよく見ると、少しオイルがかって見えましたので、おそらくアロマオイルを使ったマッサージが行われていたのでしょう。

これを毎日続けていけば、アロマオイルの香りによるリラックス効果と、マッサージによるタッチングがもたらすオキシトシン効果により、心身の安定がはかられ、認知症症状はかなり落ち着くんだろうな、と思ったものです。

看護領域ではこれとは別に、タッチケアの効果をより高めようと、スウェーデン発祥の「タクティール®ケア」と呼ばれるタッチケアを積極的に取り入れるようになっています。

手で直接肌に触れるというケアの基本は普通のタッチングケアと同じです。ただそのタッチングは、手を使って肌にただ触れたり擦ったりするだけではありません。10分程度時間をかけて、軟らかく両手で包み込むようにしながら手や足、背中にゆっくりやさしく触れていくのがタクティールケアの特徴だと、説明を受けたことがあります。

詳細を知りたい方は『はじめてのタクティールケア―手で“触れて”痛み・苦しみを緩和する 』という本が参考になります。

ケアする側もされる側も癒される

ところでNHKの先の番組では、タッチケアがビジネスパーソンたちのストレス対策としても活用されていると報じていました。

オフィスの状況からおそらくIT関連の会社だと思われます。ある掛け声とともに20~30人はいるスタッフ全員がパソコン作業の手を止めて立ち上がり、二人が一組になってタッチケアを始めたのにはちょっと驚きました。

イスの背もたれやテーブルにもたれた相手の肩から背中全体を、両方の手のひらを背中にぴったりくっつけるようにして、アイロンをかけるイメージでゆっくり時間をかけてまんべんなくなで回し、10分程度経ったら交代して、今度は自分がタッチケアを受けるという要領で行われていました。

このタッチケアは、受ける側だけでなくタッチする側もオキシトシンの分泌が活性化する効果が期待できる点が、他のストレス対策では得られない効果だそうです。

私もパートナーとさっそくやってみましたが、確かに癒しの効果は大きく、終わってみるとやさしい気持ちになれたような気がしています。あなたも一度試してみてはいかがでしょうか。

単身の方は、自分で自分を抱きしめる「セルフハグ」でも、癒しホルモンのオキシトシンが分泌されますから、寝る前の習慣にすれば安眠できます。

なお、認知症の方の介護に関してはこちらの記事もお役立てください。

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参考資料*¹:『はじめてのタクティールケア―手で“触れて”痛み・苦しみを緩和する 』(日本看護協会出版会)