生活習慣病予防にチョコを利用する嗜好品外来

チョコレート

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嗜好品で病気を未然に防ぐ
日本初の「嗜好品外来」

テレビや週刊誌等を中心に、メディアは連日のように、「〇〇を食べると健康にいい」とか、
「△△を食べると免疫力がアップして感染予防になる」等々……、食べ物に関する健康情報を流し続けています。

そのなかには、「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」、あるいは「機能性表示食品」のように、期待できる健康効果が科学的に実証されていることを国が確認している情報も数多くあります。

しかし、科学的根拠のない、あるいは誤解を生むような情報も少なくないのが現実ではないでしょうか。

そこで、埼玉県の戸田中央総合病院に開設されたのが「嗜好品外来」です*¹。

世の中に流布するさまざまな食品に関する健康情報のなかから正しいものを選び、それを活用することによって、病気を未然に防ぐことにつないでいけたら、といった考えから誕生した専門外来です。

開設されたのは2015年10月ですから、すでに7年が過ぎたことになります。

そこで行われている、人々の健康ニーズにマッチした診療内容から考えても、この間には、全国各地に第2、第3の「嗜好品外来」が誕生しているものと思っていました。

ところが、今もって戸田中央総合病院のそれが日本で唯一の外来とのこと。

そう聞いて、これまで類を見ないユニークな外来の診療内容を紹介してみたくなりました。

嗜好品外来の主な対象は
生活習慣病予備軍の方

同院で「嗜好品外来」を担当しているのは、高血圧や動脈硬化などの循環器病や睡眠時無呼吸症候群などが専門の内科医、椎名一紀(しいな かずき)医師です。

「極力薬を使わずに、その方が日々好んで口にしているもので病気を未然に防ぐことができれば、患者さんの負担が軽減されるうえに、年々増え続けている医療費の削減にもつながるのではないだろうか」

そのような考えから始まった嗜好品外来です。

この外来がターゲットとしているのは、健康診断で血圧が少し高めと言われたものの、薬を使うほどではないような生活習慣病予備群(軍)の方たちとのこと。

具体的には、上の血圧が140~150㎜Hg前後の高血圧予備群が一番多いそうです。その他、コレステロールが少し高いとか、血糖値が少し高い方たち……。

薬による治療が必要となる前に嗜好品で

いずれも、今のところ薬を必要とするほどの状態ではないものの、このまま今まで通りの生活を続けていれば、遅かれ早かれ高血圧、高脂血症、または糖尿病に進行していき、薬を使うことになると、健康診断などで指摘されている方たちです。

そうならないように、病気を予防する効果について科学的根拠のある嗜好品を使って、病気を予防しようというわけです。

なお、嗜好品外来を受診する患者のなかには、他の病院で高血圧などの診断を受けて降圧薬などの処方を受けていながら、「こんなにたくさんの薬をもらっているが、少し減らせないでしょうか」などと相談にやってくるケースもあるそうです。

通常の食事療法や運動療法に
その人の嗜好品を加える

「嗜好品外来」は毎週2回、火曜と木曜の午後に開かれています(完全予約制)*¹。

この外来を受診している知人によれば、そこでは次のような診療が行われているそうです。

初診の患者にはまず問診が行われます。

この問診に先立ち「問診票」が渡され、どういったものを好んで食べているのか、どのくらい食べているのか、アルコールはどうかといったことに加え、運動習慣や睡眠などについて、事細かに書きだすよう求められるそうです。

その後血液検査や心電図といったルーチン検査が行われ、その結果から心臓病や脳卒中のリスクが判断されます。

そのうえで、リスクに見合うかたちで食事と運動に関する指導が行われることになります。

その際に、患者が問診票に記した嗜好品について、その嗜好品が、その方が抱えている健康問題の治療、とりわけ食事療法に取り入れられるものがあれば、その効果的な摂取方法について具体的な説明があるのだそうです。

患者は、医師から指導を受けた嗜好品を取り入れた予防法を2、3か月間継続して実践。

その後、再度諸検査を受けて効果を判定し、必要があれば軌道修正をして、さらに「できるだけ薬に頼らない治療法」を続けていくことになるのだといいます。

高カカオチョコやナッツ類を
心疾患や脳卒中の予防に活用

その指導でよく用いられる嗜好品の一つに、チョコレートがあります。

チョコレートの原材料であるカカオ豆には抗酸化作用で知られるポリフェノール類が多く含まれていることはご承知だろうと思います。

とりわけ「ダークチョコレート(「ビターチョコレート」ともいう)」と呼ばれるやや苦みの強い高カカオチョコレートには、苦みのもとであるカカオポリフェノールが70%以上、ものによっては95%も含まれています。

しかも、砂糖や脂肪の含有量が通常のチョコよりもかなり低く抑えられているのです。

このカカオポリフェノールがもたらす善玉コレステロールの増加、腸内環境の改善、動脈硬化のリスク低減、血管の収縮促進作用などにより、循環器疾患の予防効果が期待できるというわけです。

詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

植物に含まれるポリフェノール成分には強い抗酸化作用があり、さまざまな健康効果が期待できることがわかっている。なかでもチョコレートに多く含まれるカカオポリフェノールは、「嗜好品外来」において循環器疾患の治療にも活用されていることを紹介する。

血液サラサラ効果のあるクルミなどのナッツ類も活用

高カカオチョコレート同様の効果が期待できる嗜好品として、嗜好品外来では、血液サラサラ効果があるとされる「オレイン酸」が多く含まれるナッツ類も活用しているそうです。

ナッツ類とは「硬い殻でおおわれた木の実」のこと。アーモンド、ピスタチオ、クルミ、カシューナッツなどがありますが、いずれも調理を必要としないうえに、いつでも持ち歩けるという使いやすさが人気のようです。

オレイン酸には、善玉コレステロールを減らさずに悪玉コレステロール(LDLコレステロール)のみを減らして血液をサラサラにする作用があります。

この働きにより動脈硬化を予防し、動脈硬化性疾患の発症リスクを大幅に下げる効果が期待できることは、こちらの記事で紹介しています。

健康長寿を全うされた日野原医師の健康法の一つが、「毎朝オリーブオイルを飲む」こと。オリーブオイルの「オレイン酸」が悪玉コレステロールを減らして動脈硬化性疾患の発症リスクを下げるうえに、腸活効果により免疫力を高める効果も……。

玉ねぎやルチン含有量の多い蕎麦も活用

このほか、血液サラサラ効果ですっかりおなじみの玉ねぎや、ポリフェノールの一種で抗酸化作用のあるルチンを多く含む蕎麦などについても、「同じ麺類でしたら、うどんやラーメンよりも蕎麦を、しかしつゆの塩分には気をつけて」と、知人は指導を受けたそうです。

同じ蕎麦でも、普通の蕎麦のおよそ10倍のルチンを含むとされる韃靼蕎麦(だったんそば)のうち、たとえば韃靼玄そば などは、個人的にもおすすめです。

参考資料*¹:戸田中央総合病院嗜好品外来