玉ねぎの「血液サラサラ」効果と硫化アリルの話

ネギ

ラッキョウにも玉ねぎにも
「血液サラサラ」の効能が

循環器内科の医師を取材した後の雑談で、いきなりこう尋ねられたことがあります。

「あなたはカレーライスの付け合わせに福神漬けとラッキョウのどちらを選びますか」

ラッキョウの、あの独特なニオイが苦手な私は、「もちろん福神漬けです」と即答しました。

これに医師は、ちょっと苦笑しながら、「女性は圧倒的に福神漬けを選びますがねぇ……」と言いながら、こんな話をしてくれました。

ラッキョウには、胃液など消化液の分泌を促して胃を保護しつつ消化・吸収を助ける「硫化(りゅうか)アリル」という成分(化学物質)が含まれている。

だから、刺激の強いカレーのお供には福神漬けよりラッキョウの方が、胃のためには断然いいのだと――。

この硫化アリルには「血液サラサラ」効果もあり、コレステロール値が高めの患者さんに、動脈硬化や血栓予防の食事療法の一環としてすすめることがよくあるのだそうです。

ということで、今回は「血液サラサラ効果」のある硫化アリルを含む主な食材と、その効能についてポイントをまとめてみたいと思います。

硫化アリルの効能は
強い辛みと独特のニオイに

硫化アリルは、ラッキョウの仲間であるニンニクや玉ねぎ、ネギ、ニラ、ワサビといった、ユリ科の植物(野菜)に含まれる有機成分です。

いずれも、鼻を突くような刺激臭がして、口に入れると強い辛みを感じるのが特徴です。

これは、切ったり、つぶしたりして細胞が壊れることにより、揮発化した硫化アリルが鼻や舌の粘膜を刺激するからだそうです。

玉ねぎをスライスしたりすると目がショボショボしてきて涙が出てくることを、多くの方が経験していると思います。

これも揮発した硫化アリルが目の粘膜を刺激する催涙効果によるものです。

ラッキョウに消化・吸収を促進する効能があることはあまり知られていませんが、玉ねぎに血液凝固(血液が固まること)を抑制する「血液サラサラ」効果があることは、テレビの健康番組などでもよく取り上げていますから、ご存知の方も多いと思います。

ただ、その正体が硫化アリルと呼ばれる成分であることはご存知ない方が多いだろうと思います。

「血液サラサラ」だけでなく消化も助ける

この硫化アリルには、以下のような効能(作用)が期待できるとされています。

⑴ 「血液サラサラ」効果により動脈硬化を予防する
⑵ 消化液の分泌を助けて食欲増進を図り、かつ消化・吸収を促進する
⑶ 疲労回復や神経の鎮静化に必須のビタミンB1の吸収率を高めて活性化を促す
⑷ 末梢の血行を改善して冷え性の改善や体を温めて風邪症状を緩和させる

「血液サラサラ」効果は
生で水にさらさずに

硫化アリルは加熱すると甘み成分に代わってしまい、辛みの効果が薄れるため、できるだけ生で食べるのがいいようです。

ただ、硫化アリルには水溶性、つまり水に溶けやすいという性質があります。

そのため、たとえば玉ねぎをサラダなどに添えて生で食べるような場合、その辛みを和らげて食べやすくしようと、スライスしたあと水に長くさらしておく方は多いと思います。

しかしこれでは、せっかくの硫化アリルが溶け出してしまい、「血液サラサラ」効果が半減してしまいます。

玉ねぎの「血液サラサラ」効果を十分に得たいと思うなら、スライスしたらそのまま、あるいは軽く水にさらす程度で食べるのがより効果的なようです。

また、ニンニクや長ネギなども、すったり、刻んだりしたら、そのまま長時間放置せずに、すぐに使った方が硫化アリル本来の効能が生きるようです。

ビタミンB1は硫化アリルと一緒に

また、効能の「⑶」にあるように、ビタミンB1は、倦怠感(だるさ)や疲労の回復、食欲不振の改善、イライラの鎮静化などに欠かせない栄養素です。

このビタミンB1は、そのままでは吸収されにくいのですが、硫化アリルと結びつくと体内での吸収率がアップして本来の効能を発揮することがわかっています。

たとえばビタミンB1が豊富な豚肉とニラの炒め物などは、硫化アリルの効能が生きる代表的なレシピと言っていいでしょう。

なお、ビタミンB1不足による「脚気(かっけ)」については、食糧事情がくなかった時代の話と思いがちでしょうが、インスタント食品のような調理済み食品に頼っている人には「隠れ脚気」が多いようですから、ご注意ください。
⇒ 今もあるビタミンB1不足による脚気(かっけ)

硫化アリルもポリフェノールも
ファイトケミカルの仲間

ところで、「ファイトケミカル」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。

ファイトケミカル(phytochemical)とは、植物に含まれる化学物質のことです。

植物が、紫外線や昆虫などの外敵から身を守るために作り出している、独特なニオイや強い辛味、強烈な色、ネバネバなどの成分のことを言います。

ファイトケミカルは、植物性の食品にも

今回取り上げた硫化アリルもファイトケミカルの一つです。

ファイトケミカルのなかで特に注目されているのは、ブルーベリーに多く含まれ、目の健康にいいことで知られる「アントシアニン」でしょうか。

また、おなじポリフェノールで、血行を促進して冷えを改善するとされる、生姜に含まれる「ショーガオール」等のポリフェノールもあります。

チョコレートの原料でもあるカカオ豆に多く含まれる「カカオポリフェノール」には、高血圧の改善や動脈硬化の予防効果が期待できることはご承知のことと思います。

植物に含まれるポリフェノール成分には強い抗酸化作用があり、さまざまな健康効果が期待できることがわかっている。なかでもチョコレートに多く含まれるカカオポリフェノールは、「嗜好品外来」において循環器疾患の治療にも活用されていることを紹介する。

なお、玉ねぎやラッキョウの硫化アリルにしてもポリフェノールにしても、「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」ですから、摂り過ぎないようにご注意のほどを。