訪問マッサージも医師の同意により保険適用に

マッサージ

訪問マッサージを
自費で受けている方へ

在宅で療養している方のなかには、脳梗塞や脳出血などによる筋肉の麻痺や筋萎縮、関節の拘縮(こうしゅく)*などを改善するため、マッサージ師による訪問マッサージを受けている方が少なくないようです。

知人のFさんもその一人です。

脳梗塞で退院した直後から、理学療法士による訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)と併行して、訪問マッサージを受けてきたそうです。

訪問リハビリは、入院中に受けていたリハビリの延長のようなもので、ベッド上での起き上がりや座った姿勢の保持、車いすへの移乗などの動作訓練が中心です。

こちらは介護保険で受けていたのですが、硬くなっている筋肉の血行を促して痛みの緩和が図られるマッサージは、自費でお願いしてきたとのこと。

たまたまその話をFさんの家族から聞き、「あらっ、確か医師の同意があれば訪問マッサージは医療保険(健康保険)で受けられるはずですよ」と言ってしまった手前、詳しく調べてみることにしました。

今日は、その結果わかったことをまとめておきたいと思います。

*拘縮(こうしゅく)とは、ケガや病気などにより体を動かさない状態が長く続いたために、関節が硬くなって動きが制限される状態になることをいう。脳梗塞などの後遺症としても起こることが多い。

医師の同意書発行により
訪問マッサージも保険適用に

訪問マッサージとは、国家資格をもつマッサージ師、正確には「あん摩マッサージ指圧師」が患者宅や入所先の介護施設等を訪問して、関節の動きや痛みの改善、動作機能の回復を目的にマッサージを行うサービスです。

この訪問マッサージは、医師の同意書(診断書)があれば医療保険が適用となるため、かかる費用の自己負担分(1~3割)だけでサービスを受けることができます。

医師の同意が得られない場合は、全額自費で利用することになります。

同意書*の発行は、あなたの病状をよく理解しているかかりつけ医に託すのが理想ですが、かかりつけ医以外の医師(歯科医師は除く)でも発行することができます。

この場合の保険適用には、厚生労働省によって、以下の条件が設けられています。

  • 国民健康保険や高齢者医療制度の保険証を保持している方
  • 寝たきりや要介護状態による歩行困難などがあり、医療機関やマッサージ治療院などに公共交通機関を使って自力で通院するのが難しい方
  • 認知症や視覚・内部・精神障害などにより単独での外出が困難な方
  • 筋麻痺や関節拘縮等があり、医療上マッサージを必要とする状態にあると医師が判断した方(診断名の規定はない)
*保険適用に必要な医師の同意書には6カ月という有効期間がある。期間を過ぎると医師の同意がないと判断され、健康保険の対象とならないため、6カ月を過ぎる前に医師の診察を受け、同意書を再発行してもらう必要がある。

訪問マッサージは
訪問リハビリではない

一方、介護保険サービスには、「訪問リハビリサービス」があります。

病状は安定しているものの、日常生活の自立を助けるための機能訓練等のリハビリが退院後も引き続き必要と判断される方を対象に行われるサービスです。

この訪問リハビリには「医療上リハビリが必要」であることを認める医師の指示書、または診療情報提供書が必要です。

病院や診療所勤務の理学療法士や作業療法士、あるいは言語聴覚士*といったリハビリの専門家(いずれも国家資格)が患者宅や入所先の介護施設などを訪問し、医師の指示書に従って日常生活動作の訓練や社会参加の促進に向けたリハビリを行います。

場合によっては、介護している家族へのアドバイスや心理的サポートも行います。

訪問リハビリは、介護保険でも健康保険でも受けることができます。

原則として、65歳以上で要介護認定を受けている方は介護保険が優先され、介護保険の対象にならない方は医療保険で受けることになります。

要介護認定の受け方についてはこちらがお役に立つと思います。

介護保険制度については、「申請方法がよくわからない」「かかりつけ医がいないので申請できないのでは」といった声をよく見聞きする。用意されているサービスを上手く利用できていない方も多いと聞く。そこで、改めて基本的なことを整理してみた。
*言語聴覚士(げんごちょうかくし)とは、失語症や聴覚障害、言葉の発達の遅れなどにより言葉によるコミュニケーションに問題のある方を支援する専門職。
摂食障害や嚥下障害にも対応している。

医療保険利用で
訪問マッサージにかかる費用

話を訪問マッサージに戻しましょう。

医療保険を利用した場合の訪問マッサージの費用は、医師の同意書に書かれているマッサージを行う部位の数(0~5)や施術(マッサージ)の種類、さらには訪問距離によっても違ってきます。

その額は厚生労働省により定められていて、全国一律です。

たとえば2020年12月1日に改定された料金表によれば、医師の同意書に、マッサージ(350円)と変形徒手矯正術*(450円加算)を同一部位に行うことに同意がある場合、右上肢だけに行えば合計で800円(10割)となります。

左右の上肢に行えば800×2で1600円(10割)、左右の上下肢にも行えば800×4で3200円(10割)といった計算になります。

訪問距離は4㎞以内か4㎞以上かにより往療料(出張費)が変わり、4㎞以内なら2300円(10割)、4㎞をオーバーすると2550円(10割)となります。

以上から、たとえば医師の同意内容がマッサージ5部位、訪問距離が4㎞以内の場合、
1割負担の方の負担分は、(350×5+2300)×0.1で405円となります。

*変形徒手矯正術(へんけいとしゅきょうせいじゅつ)とは、脳梗塞などの後遺症やリウマチなどによって拘縮したり変形したりして機能低下を来している関節を、日常生活に支障がないよう機能回復を目的に施術することをいう。

医療費や介護費が
高額なときに助かる制度

在宅療養を続けていると、何かとお金がかかります。

訪問マッサージを受けたいものの、これ以上医療保険の自己負担分が増えると家計に負担がかかりすぎるといったこともあるでしょう。

そのようなときは、1カ月に負担する自己負担分が一定の額を超えた場合、その超えた分を払い戻してもらえる「高額療養費制度」があります。

払い戻しを受けるにはその旨を申請する必要がありますから、こちらを参照して、早めの手続きを!!

医療機関で検査を受けたり薬局で処方薬を受け取って支払う医療費は、一部の自己負担分だけに抑えられるものの、高額になることも珍しくない。その負担が家計を苦しめないよう「高額療養費制度」が設けられている。この制度の利用方法についてポイントをまとめた。

また、介護保険の負担額についても同様に、「高額介護サービス費制度」により負担を軽減してもらうことができます。この制度についてはこちらを参照してみてください。

医療費に高額療養費制度があるように、介護サービスにかかる費用にも高額介護サービス費制度という負担軽減の仕組みがある。申請すれば、決められた自己負担上限額を超える額を給付してもらえるのだが、所得に応じた上限額がなかなか複雑だ。ポイントをまとめた。