『笑って生きれば、笑って死ねる』

笑う

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医学博士で落語家が説く
「笑いは健康にいい」

テーマに挙げた『笑って生きれば、笑って死ねる』は、立川らく朝(たてかわ・らくちょう)さんが昨年(2021年)2月に刊行し、そのまま遺作となってしまった著書(三笠書房・知的生き方文庫)のタイトルです*¹。

「立川らく朝さん」と聞いて、「ああ、あの一風変わった落語家ね」と思い出される方もいれば、「確か、内科医だったよね」とか、なかには「僕のかかりつけ医だよ」という方もおられるかもしれません。

そうなんです。立川らく朝さんは、医学博士でもあった異色の落語家でした*。

都内に開設した内科クリニックで診療を続け、「笑いと健康学会」の理事としての仕事もこなしながら、プロの落語家として、常日頃から実に精力的に活動されていました。

一大決心をして医師をやめ、落語家一本の活動を始めた矢先の死は、まだまだ若い67歳だっただけに、ご本人はもとより、たくさん笑わせていただいたファンの一人としても悔やまれてなりません。

ということで、今回は立川らく朝さんをしのび、「笑いは健康にいい」という話を書いてみたいと思います。

*立川らく朝(本名;福沢恒利・ふくざわつねとし)さんは、中学の頃にテレビで落語のとりこになり、杏林大学医学部時代は自ら落語研究会を結成して高座に上がっていた。医師になってからの10年間は落語から遠ざかっていたが、46歳で立川志らく一門に正式に入門してプロの落語家に。
2004(平成16)年に50歳で二つ目、61歳になった2015(平成27)年に「真打」に昇進。2021(令和3)年5月2日に逝去されている。

笑いを交えた健康情報
オリジナルの「健康落語」

笑いが健康にいいことは、よく知られています。

実際、笑いが免疫力を高めることや、血圧の低下、さらには糖尿病患者の食後血糖値を下げる効果があることなどが、内外のいくつもの研究によって確認されています。

「笑うこと」がもたらす健康への効用は、がん患者の免疫力を高めるだけではない。2型糖尿病患者の食後血糖値の上昇を抑えるという効果が期待できることも、研究チームと吉本の芸人との実験で確認されている。大事なことは、とにかく笑いを日々の生活を取り込むこと。

落語家としての立川らく朝さんの18番は、「健康情報を笑いを交えて提供する」という独自のコンセプトで作り出した「健康落語」という新しいジャンルの話でした。

糖尿病患者の病室をネタに笑いをつくる

その健康落語のなかに、たとえば「内緒のパーティー」という糖尿病患者の病室における物語があります。

その病室に入院している一人のおじいちゃんが、結構厳しいカロリー制限の食事療法を受けているのですが、たまたま同じ病棟に勤務する孫の看護師さんから秘密で食べ物を差し入れてもらっています。

最初のうちは人目を忍んで、こっそりその差し入れ物を食べていました。

ところが、しばらくするとこのおじいちゃんも、少々大胆になってきます。

孫から差し入れてもらった食べ物を、相部屋の、やはり糖尿病でカロリー制限をしている患者に、横流しするようになるのです。

やがてその差し入れで、病室仲間と、深夜にパーティーを開くまでに……。

このおじいちゃんが、まるで違法ドラッグの売人のようなキャラクターで語られていて、ついつい大笑いしてしまいます。

登場人物のドタバタ劇を反面教師に健康教育

内科医としての経験を最大限生かした「健康落語」に主人公として登場するのは、いずれも何らかの病を抱えている人達です

それも、「たばこをなかなかやめられない」とか「医者から禁酒するように言われているのに、つい隠れて飲んでしまう」ような、自分の欲望のままに生きている人達です。

語られているのは、いたって落語固有のユニーク極まる人物ばかりなのですが、実はどこにでもいるような患者像だったりして……。

その人たちが繰り広げるドタバタ劇を反面教師に、それぞれの病気の知識や治療法など、健康的な生活のありようについて笑いを織り交えて語られるのが健康落語です。

「笑い」が象徴する
積極的情緒がもつ治癒力

「笑い」のもつ健康への効用、いわゆる「治癒力」が注目されるようになったのは、アメリカのジャーナリストで作家のノーマン・カズンズ氏が、自らの難病を「笑い飛ばして」克服したという闘病体験を一冊の書物にまとめたことがきっかけでした*。

*ノーマン・カズンズ氏は、1960年代に、「笑い」を闘病の柱にして、不治に近いと医師から宣告された難病を克服した体験を『笑いと治癒力 (岩波現代文庫―社会)』に、また、その後突然の心臓発作で倒れ、集中治療室に運ばれたものの手術を拒み、独自の療養プログラムのもと社会復帰に至るまでの闘病生活を『続・笑いと治癒力―生への意欲 (岩波現代文庫)』にまとめている。

以来、アメリカを中心に、国内でも、カズンズ氏がアピールした「笑いのもつ治癒力」を実証しようと、さまざまな研究が行われています。

ところで、この「笑い」については、ただゲラゲラ笑ってさえいれば健康にいいという話ではないことは、ノーマン・カズンズ氏の著書、そして立川らく朝さんの健康落語からも読みとることができます。

希望・信念・生への意欲・陽気さが回復の素地となる

たとえばノーマン・カズンズ氏は、2作目の著書のなかで、「笑い」とは「積極的情緒のすべてを指す比喩である」として、次のように説明しています。

希望、信念、愛情、生への意欲、快活さ、ユーモア、創造力、明るい気軽さ、信頼、大きな期待――そういうものはすべて治癒の効力をもつと私は信じていた。消極的な情緒が病気の素地を作るというのであれば、積極的な情緒は回復の素地を作る助けになると考えても、無理ではあるまい。

ただし私は積極的情緒が科学的治療法の代用になると考えたことは一度もない。積極的情緒は医療にとって好適な環境を作り出すものであり、回復の見込みを極大にする手段だと私は考える。

(引用元:ノーマン・カズンズ「続 笑いと治癒力」p.27-28)

医師が処方する薬や治療だけが病気を予防し、あるいは治す薬ではない。自らの「希望・信念・愛情・生への意欲・創造力・陽気さ」といった積極的な情緒といったものが治癒の効力をもつ――。

ノーマンカズンズ氏のこの考えは、立川らく朝さんの遺作となった著書のタイトルである、
「笑って生きれば、笑って死ねる」にピッタリ通じていると思うのですが、いかがでしょうか。

立川らく朝さんの「健康落語」がどんなものだったか、You  Tubeで一度視聴してみてください。

なお、新型コロナウイルス感染症が依然として終わっていない今、感染対策としての免疫力強化につながる「笑い」については、コチラで書いていますので読んでみてください。

ウイルスなどの外敵と闘い我が身を守る「免疫力」が「笑い」により強化されることはよく知られている。が、ただ笑っていればいいという話ではない。外敵にとって殺し屋として働くナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きを助けるには、横隔膜が動く笑いがいいという話を。

参考資料*¹:笑って生きれば、笑って死ねる: 医学博士にして落語家が語る“薬を10錠のむ”より効く、健康寿命をのばす話 (知的生きかた文庫 た 81-1)