希林さんが教えてくれた
「いのちが終わるとき」への備え
女優の樹木希林(きき きりん)さんが亡くなられたのは、2018年の9月15日でした。早いもので、すでに6年が過ぎてしまいました。
数々の映画やテレビドラマ、あるいはCM、さらにはインタビュー場面などで見せてくれたあの、何とも言えない、独特な存在感――。おそらくは、他のどんな俳優さんも真似できないであろう、実に魅力的なものでした。
それだけに、「人生100年時代」といわれるなかにあって、75歳というお歳での死はあまりに早すぎて、なんとも残念でなりません。
希林さんはがんの告知を受けたときから
このところ、「終活(しゅうかつ)」という言葉を頻繁に聞くようになりました。この表現を、希林さんが使われていたかどうかはわかりません。
しかし、「終活」と言わないまでも希林さんは、がんの告知を受けられて以来、そう遠くないうちにやってくるであろう「いのちが終わるとき」に備え、アレもコレもと準備をされていたと、漏れ聞いています。
羨ましい逝き方ができた希林さん
その秘訣を知りたい
といっても、うかがい知ることのできる準備の内容は、「娘さん夫婦と一緒に葬儀をお願いするお寺を事前に訪れていた」といったような、亡くなった後のお葬式やお墓のような話に関係したことだけで、私としてはちょっと残念です。
一女性としても一女優としても、確かな覚悟をもって生きておられた希林さんです。それだけに、おそらくご自身の「いのちの終わり方」をきちんと考え、その意思をご家族に伝え、話し合い、納得し合うという作業をしておられたのだろうと思います。
亡くなる直前の医療やケアへの備え
とりわけ知りたいと思うのは、亡くなる直前の医療やケアについてです。ご病気が末期がんだったと聞くだけに、痛みなどのつらい苦痛があったはずですが、おそらく希林さんは、その対処法についても、周到に手を打っておられたのでしょう。
直前まで飄々としたたたずまいで女優を続け、住み慣れたご自宅で、お子さんやお孫さんたちに見守られながら旅立って逝かれたそうです。最高に羨ましい逝き方で、誰にでもできるというものではありません。
その秘訣と言いましょうか、希林さんはどんな準備をされていたのでしょうか。大まかなことでもいいから教えてほしいと思うのは私だけでしょうか。
もう少し時間が経ってからで結構ですから、娘の也哉子さんご夫妻にでも語っていただけたら、私も見習いたいなどと、勝手ながら思ったりもしています。
いのちの終わり方を自分で決める
アドバンス・ケア・プランニング
このところの医療や介護の現場では、「アドバンス・ケア・プランニング」という取り組みが広がっています。「ACP」という略称で呼んでいる方もいます。
この取り組みを、広く国民になじんでもらい、普及させたいとの考えから、厚生労働省が「アドバンス・ケア・プランニング」の愛称を公募していたのですが、2018年11月30日にその愛称を決定したとの報が届きました。なんと「人生会議」とのこと。
自分なりの方法で人生を締めくくる
この愛称には、仲間内にも賛否両論があり、私は「うーん、人生とはオーバーな」というのが正直な感想ですが、いかがお考えでしょうか。
アドバンス・ケア・プランニング、つまり「人生会議」は、人生の最終段階、いわゆる「終末期」に受ける医療・ケアを、これまでのように医療者サイドの一方的な判断に任せるのはやめようという動きです。
いのちの終わり方、つまり人生をどう締めくくるかは、死を迎える本人に決めてもらおうという考えから、この取り組みはスタートしているのです。
ACPに臨む前に、
自らの意思を書き記しておく
その実現のためには、たとえば、「口から食べることができなくなったときにどうしたいか」「どのような医療やケアを受けたいか」といったことを事前に本人が考えることから始める必要があります。
その上で、自らの意思を決め、その意思をきちんと「事前指示書」とか「エンディングノート」と呼ばれる書類に書き残し、家族や大切な人、さらにはかかりつけ医などにも伝えておくことが大切になってきます。
こうしておけば、仮にそのときになって意思表示ができない状態に陥ったとしても、自分が選択して書面に残してある治療やケアを受けながら、残りの時間を生き、納得して死んでいくことができるようになります。
これを可能にするのが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。
少なくとも私の目には「理想的ないのちの終わり方」と映った希林さんでした。希林さんほどりっぱではないにしても、それに近い逝き方をするには、自らの事前の意思について、そのときお世話になるであろう家族や医療スタッフと話し合い、合意を得ておくことが大切だろうと思います。
そのためには「アドバンス・ケア・プランニング」の取り組みが、欠かせないと思うのですが、いかがでしょうか。