在宅で最期を迎えるために備えておきたいこと

枝になるりんご

「死ぬときは畳の上で」の希望は
どうしたらかなえられるのか

「死ぬときはこの畳の上で死にたいと、父はかねてから話していました。家族としてはできることはみんなやって、なんとしてもその希望をかなえてあげようと話し合っているのですが、どんな備えが必要でしょうか」

某病院に勤務する看護師の友人が、70代の入院患者A氏の娘さんから、こんな相談を受けたのは、昨年の暮れのことだったそうです。

彼女は、退院支援看護師です。

入院中の患者の退院先の手配や、自宅に戻る場合は、退院後に点滴や人工栄養、酸素療法などの医療的処置、あるいは介護サービスが必要な患者については、自宅のある地域の医療や介護スタッフと連携して、支援体制を整えるといった非常に重要な業務を専任で行っています。

どんな調査を見ても、在宅で最期を迎えたいと希望する人は7割以上を占めています。

にもかかわらず、いざとなるとさまざまな理由から、大多数の人が在宅死をあきらめて病院で最期を迎えているのが実状です。

このような状況をなんとか改善できないものかとの思いから、「在宅で最期を迎えるために備えておくべきことを教えてほしい」と彼女にお願いしたところ、A氏の個人情報やことの詳細を伏せることを条件に話してくれたのが、この家族の一件でした。

最期まで在宅で過ごすために
備えておきたい3つのこと

A氏の娘さんから相談を受けた彼女は、「これを差し上げますから、ご家族で一通り読んでみてください」と話し、『最期まで在宅で過ごすことを考えるみなさまへ』と書かれた簡単なリーフレットをプリントアウトして娘さんに渡したそうです。

このリーフレット*¹は、京都府・京都市などの行政機関とその地域に所在する医療・介護・福祉・大学など39の関係団体で構成される「京都地域包括ケア推進機構」のなかにある「看取り対策プロジェクトチーム」がまとめて発行しているものです。

リーフレットでは、在宅で最期まで過ごしたいと考えている本人とその願いをかなえてあげようと考える家族に向け、その実現のために「知っておきたい大切なこと」として、以下の3点を挙げています。

これはそのまま「備えておきたいこと」につながるのではないでしょうか。

  1. まずはかかりつけ医に最期まで支えてもらえるかどうか相談する
  2. 本人と家族全員で、この先の治療やケア方針、急変時の対応などについて本人の意思に沿って、十分話し合う(人生会議)
  3. 本人のこころと身体にこれから起きてくることを知っておく

最期まで支えてくれる
かかりつけ医とケアチーム

A氏は転移がんの痛みが激しく、医療用モルヒネを持続的に注入することにより痛みを和らげるという緩和治療を、数日前から継続して受けています。

医療用モルヒネを注入するカテーテルは外せない状態で、そのカテーテルの先には小型の持続注入用の輸液ポンプがとりつけてあります。

在宅療養に切り替えるには、この持続注入法による痛みの緩和治療・ケアに精通している医師と訪問看護師にバトンタッチする必要があります。

幸いA氏のかかりつけ医はこの治療法に精通していて、看取りまで支えることをこころよく了承してくれたそうです。

そのうえで、いつもチームを組んでいる訪問看護師やケアマネジャーと話し合いを設定するから、家族も参加するようにと、トントン拍子で話が進んだとのこと。

この話し合いではA氏の意思確認もしておきたいからと、入院中のA氏もその場に参加できるように,病院内のカンファレンスルームで話し合うことになり、「結果として、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)になった」と言います。

最期のときに慌てないために
臨終に向け知っておきたいこと

リーフレットにも大切なこととして明記されていますが、在宅死を望んで在宅療養を続けてきたものの、いざとなったときに家族がパニックを起こして救急車を呼び、病院に搬送されてしまうといったことにもなりかねません。

こうした事態を防ぐには、「急変時の対応」と「本人の身体にこれから起こること」を家族がきちんと知っておく必要があると、友人は強調します。

慌てた家族が救急車を呼んでしまい、その救急車で病院に向かう途中に患者が息を引き取るといったことも十分起こり得ます。

そうなると、今度は警察が介入して、死亡時の状況に問題がなかったかどうか改めて検証が行われるなど、厄介なことになりがちです。

そうした事態を防ぐためにも、以下の点についてに事前にかかりつけ医から説明を受けてきちんと理解しておき、いざというときに慌てないようにしておく必要があると言います。

  • 人はどのようにして臨終のときを迎えるのか
  • そのとき身体とこころにどのような変化が起きてくるのか
  • そのときに家族がとるべき対応等

かかりつけ医がいることが条件に

家族で対応しきれないときは、迷わず、まずかかりつけ医に連絡して判断を仰ぐことです。

このかかりつけ医への連絡がスムーズにいくように、連絡先をベッドサイドなど目につきやすいところに張り出しておくこと、この連絡がスムーズに行われるために、かかりつけ医とケアチームのスタッフとは事前に申し合わせをきちんとしておくこと、なども忘れずに押さえておく必要があるでしょう。

なお、在宅で最期を迎えるにはかかりつけ医がいることが大前提となりますが、このかかりつけ医に関しては、以下の記事が参考にしていただけると思います。

最期のときに備えて事前指示書をまとめていくうえで、身近にいて、健康に関することはなんでも気軽に相談できる「かかりつけ医」は何より心強い存在です。できれば看取りまで託せるような信頼の置ける「かかりつけ医」を選ぶヒントをまとめてみました。
かかりつけ医については「専門医より下」と受け止める傾向があるようですが、これは誤解です。医療の専門分化が進めば進むほど患者を総合的に診ることのできるかかりつけ医の役割は大きく、期待も高まっています。その主なメリットをまとめてみました。

また、救急車を呼ぶかどうかについては、こちらの記事で詳しく書いています。

在宅で看取られたいと望んで療養していると、急変に見舞われることがあります。そんなときに救急車を呼ぶか否かは一つの課題です。「かかりつけ医」と相談して事前指示書に在宅死希望の旨を明記しておけば、仮に救急隊員が駆けつけても事前の意思が尊重されるはずです。

参考資料*¹:最期まで在宅で過ごすことを考えるみなさまへ