在宅死を望む夫が認知症 どう付き合えば……

慈しみ育てる

認知症の夫を自宅で介護し、
在宅死の望みをかなえてあげたい

よく行くスーパーで何度か顔を合わせて挨拶を交わしているうちに、あれこれ世間話をする仲になった60代とおぼしき女性がいます。

久しぶりに会うと、やや遠慮がちに、こんな相談を持ちかけられました。

「夫がごく最近、アルツハイマー型認知症だという診断を受けたの。それはもうショックで……。この数日間は私も気落ちしていたんだけど、何とかこのまま自宅で介護して、夫がかねてから望んでいた在宅死をかなえてあげたいと思うようになったの」とのこと。

ついては、「残された日々を彼と気持ちを通わせながら過ごしたいと思うんだけれど、何かいい方法はないかしら」
というのが、彼女の相談の主旨でした。

彼らしさが失われていく

認知症で現れる症状は、病状の進行具合により、また人によっても異なります。

通常は、物事を理解する力や判断する力が徐々に落ちていき、日常生活や社会生活にさまざまなかたちで支障が生じてくることから始まることが多いようです。

彼女のご主人も、これまで当たり前にできていたことがうまくできなくなっていて、そのできないことが増えていくことに「どうしてなんだ」と焦り、ときにその不安から、投げやりな言動をとることも珍しくないようです。

何より悲しいのは「私の言うことが全くわかってもらえないこと……」
「やさしい人だったのに、彼らしさが失われていくのを見ているのがつらい」
そう、彼女は涙声で話します。

認知症者との意思の疎通に
「ユマニチュード」を

彼女の話を聞いて、とっさに「ユマニチュード」のことが頭に浮かびました。

ユマニチュードとは、認知症の人の「人間らしさ」「その人らしさ」を尊ぶことを意図してフランスで開発されたケア技術です。

ケア技術というとちょっと専門的に聞こえますから、コミュニケーションの方法と言ったほうがわかりやすいかもしれません。

日本には6年ほど前に紹介されています。

健康関連雑誌などで一時期盛んに取り上げられたこともあり、彼女のように認知症の家族を自宅で介護している方や、認知症高齢者が多く入所し、生活している介護関連施設で働く介護スタッフの間でまず注目され、話題になったように記憶しています。

最近では、手術や高度な治療を目的に入院してくる高齢患者が増えている急性期の病院などでも、看護師の皆さんが術後や高度な治療を受けている高齢者の看護に、このユマニチュードを活用するようにもなっています。

ユマニチュードの基本は4つの技
見つめる・話しかける・触れる・立つ

ユマニチュードでは、介護(ケア)される側と介護する側とが、お互いにひとりの人間として向き合うことを鉄則としています。

そのための大切なポイントとしてあげられているのが、
「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」という4つの技です。

視線を合わせて話しかける

まず相手を「見る」のではなく「見つめる」こと。

子どもの頃に母親から「きちんと相手の目を見て話しなさい」と言われた記憶がありますが、「視線をきちんと合わせ続ける」ことが、信頼関係を構築する第一歩ということです。

2つ目の技も、単に「話す」ではなく、やさしく、穏やかに、低めの声で、できるだけ前向きな言葉で「話しかける」ことをユマニチュードはすすめています。

加齢性難聴(老人性難聴)とまではいかないまでも、加齢に伴う聴力の低下は、高周波音、つまり高い音から聞き取りにくくなります。

トーンの高い声は音としては伝わっても言葉としては伝わりにくく、相手を不安にさせますから「落ち着いた低音で話す」ことが大切です。

相手の了解をとったうえで触れる

3つ目の「触れる」は、「腕や足をつかまない」「いきなりではなくゆっくり」が大切で、常に「相手の了解をとったうえで触れるようにし、拒否されたら絶対に触れない」ようにとすすめています。

そして最後の「立つ」には、要介護状態につながりやすい「寝たきり」や「寝かせきり」を防ぐ観点から、できるだけ身体を起こしたり、立つ機会を増やすケアをしようとの意図が込められています。

この詳細については、『家族のためのユマニチュード: “その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケア』という本で、家庭内で誰もが「あなたのことを大切に思っていますよ」と伝えることのできる技術として、平易な文章とたくさんのイラストによる図解とでわかりやすく紹介されています。
是非参考にしてみてください。

なお、彼女には、1人で頑張りすぎて疲れ果てないように、地域のプロや認知症サポーターなどの手を遠慮なく活用することも進めておきました。