深い悩みを相談できる「カフェ・デ・モンク」

祈る

お坊さんが悩みを聴いてくれる
「カフェ・デ・モンク」

うっ積している悩みや文句を思いっきり誰かに話せたらどんなにスッキリするだろう――。そう感じることは日常的によくあります。そこで、友だちと小一時間おしゃべりをして思いのたけを吐き出したら気が晴れた、といった程度の悩みだったらまだ救われます。

しかし、自らの死が近いことを察知したとか、死に向き合っている家族を日々介護している、あるいは最愛の家族や友人、知人と永遠の別れをした、等々……。

このようなときに多くの方が経験する、こころの奥深いところに生じる悲しみや苦しみは、そう簡単に口にはできないでしょう。また、話を聴いてもらうにしても、相手は誰でもいいというわけにはいきません。

そこで立ち上がったのが、生きることの意味とか死への恐怖といったこころの深い部分の痛みにも、きちんと向き合う修練を積んだ「臨床宗教師」と呼ばれる方たちです。

カフェ・デ・モンクは「傾聴移動喫茶」

彼らは「カフェ・デ・モンク」という移動式の喫茶店を運営しながら、深い苦悩を抱える方たちに「傾聴(けいちょう)」を通して寄り添う活動を続けています。

「私が話し相手になりますから、あなたの悲しみや苦しみを聴かせてください。一緒に考えて、少しでも気持ちを楽にしましょう」と――。

「カフェ・デ・モンク」は
宗教色がないのが安心

この移動式喫茶店「カフェ・デ・モンク」の「モンク」は英語の「monk」で、「修道士」とか「修道僧」を意味します。仏教で言えば「僧侶」、俗に言う「お坊さん」です。

同時に、「モンク」に漢字を当てはめると「文句」や「悶苦(もんく)」になります。

これらを組み合わせてひとひねりし、「坊さんを相手に文句を言って一息つき、一緒に悶苦、つまりもだえ苦しんで答えを探しましょう」というのが、この「傾聴喫茶」のねらいとするところだそうです。

「カフェ・デ・モンク」では布教活動を行わない

この活動に参加しているのは、臨床宗教師を中心とする真言宗や浄土真宗など各宗派のお坊さんです。ときに牧師さんや神父さん、あるいは神主さんなど、さまざまな宗教者が参加して、それぞれの特徴を生かして相談にのってくれることもあります。

「カフェ・デ・モンク」での活動は、宗教の枠を超えていますから、そこを訪れるのに宗教的なこだわりはいっさい無用です。

また、宗教と聞いて「勧誘されるのでは」と敬遠する方がいるかもしれません。しかし「カフェ・デ・モンク」では布教活動を行わないことを前提にしていますから、そのような心配もなく、安心して悲しみや苦しみを聴き取ってもらうことができます。

「カフェ・デ・モンク」の
始まりは東日本大震災だった

臨床宗教師をはじめとする宗教者の方たちがこの活動を始めたきっかけは、2011(平成23)年3月に起きた東日本大震災でした。

地震そのものに加え、あの大津波によって亡くなった方はかなりの数にのぼりました。同時に、その2倍、3倍もの人びとが、大切な家族や友人、知人を亡くし、あるいは被災して家も何もかも失っています。

そんな被災者たちが嘆き苦しむ姿を、直接目にし耳にした一人の僧侶が、その悲しみや苦しみに寄り添うことで、被災者たちのこころを少しでも癒すことができればと動き出したのが、この「カフェ・デ・モンク」の始まりだと聞いています。

東日本大震災の後にも熊本や北海道などで大地震が発生しています。「カフェ・デ・モンク」は、その都度それぞれの被災地に移動し、その場で被災者たちのこころを癒す活動を展開してきました。

全国各地で、ときに病院でも
「カフェ・デ・モンク」を開設

最近ではその活動の幅を大きく広げ、地震のような災害の有る無しに関係なく、全国いたるところで定期的に「カフェ・デ・モンク」を開設しています。その場で、さまざまな悩みを抱える人びとから求められるままに、その深いこころの苦悩に耳を傾け続けているのです。

「カフェ・デ・モンク」は、がんセンターなどの病院に出かけていくこともあります。病棟のラウンジなどで、死期の迫っている患者さんやその家族、あるいはがんの転移やがん末期を告げられて打ち沈む患者さんたちのこころに寄り添う取り組みを行っているのです。

病棟のラウンジまで出向けない患者さんのために、病院側の了解のもとに、直接病室を訪ねることもあるようです。

ときには訪問看護ステーションで「カフェ・デ・モンク」を開催することも。あるいは、在宅療養中の自宅を訪問して、患者さんの枕もとで、死への恐怖や苦しみながら生き続けることへの疑問など、その方の価値観や信念に深く関係するようなスピリチュアルな苦悩にじっくり耳を傾けることもあると聞きます。

「カフェ・デ・モンク」に行ってみたい、あるいはそこで活動している宗教者に相談したい、悩みを聴いてもらいたいという方は、日本臨床宗教師会のホームページにある「リンク・各地臨床宗教師会等」*¹から最寄りの臨床宗教師会にアクセスし、「カフェ・デ・モンク」が開かれる日時や場所など、詳細を直接お尋ねください。

死を前にした人に、私たちができること

ところで、「人生の最期は病院ではなく、住み慣れた自宅で家族に看取ってもらいたい」と、在宅死を希望する方が多いことはご承知のことと思います。

その際の課題として、看取る側の家族として、死が間近に迫っている夫、あるいは親のそばにいて、一緒の時間をどう過ごせばいいのかと悩むことがあげられます。

この悩みに、在宅診療医として終末期の緩和医療に取り組む医師が一冊の本のなかで「死を前にした人に、私たちができることがある」と語っています。詳しくはこちらを。

在宅死を希望する高齢者は増える一方。家族としては希望をかなえてあげたいと、最期の日々を自宅で過ごす方が徐々にでてきています。そんなとき、家族としてどう接したらいいのか、何をしてあげられるのか、迷ったら読んで抱きたい一冊の本を紹介します。

生活の困りごとは民生委員に相談を

なお、日々の生活の困りごとなどについては、「民生委員」と呼ばれる方に相談することもできます。詳しくはこちらを。

「民生委員」という名の地域福祉ボランティアは、全国で23万人が活動していると聞く。「名前だけは聞いたことがあるが、実際何をしている人なのか」はわからず、「自分には遠い存在」と認識している人が多いようだ。介護や医療、生活上の困りごとなど相談を。

参考資料*¹:日本臨床宗教師会「リンク・各地臨床宗教師会等」