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免疫抑制ブレーキを解除する、
「がん免疫療法」の新原理を発見
2018(平成30)年12月11日未明(日本時間)、ストックホルムで開かれたノーベル賞授賞式で、ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶 佑(ほんじょ たすく)京都大学特別教授が、羽織りはかまの完全和装で出席し内外メディアの注目を集めました。
本庶教授は、免疫の働きにブレーキをかけるタンパク質「PD-1」の存在に気づき、このPD-1のブレーキを外すと免疫機能が活性化してがん細胞の増殖を抑えられることを確認。新たな「がん免疫療法」へと道をつなぎました。この年のノーベル生理学・医学賞は、この研究業績に対して与えられたものでした。
報道によれば、先に行われた受賞記念講演において本庶教授は、発見した新たながん免疫療法の特徴として「副作用が少ない」ことを挙げています。同時に、現時点では「一部のがん患者にしか効かない」という課題もあることを併せて披歴しています。
そのうえで、この先世界中の研究仲間と協働して研鑽を重ねていくなかで、がん免疫療法はさらに進化し、2020年代、あるいは30年代には、がんも慢性疾患の一つとしてコントロールできる日が到来するだろう、と話して講演を締めくくった旨、報じられています。
免疫チェックポイント阻害剤による
がん免疫療法への期待高まる
「がん免疫療法」とは、簡単に言えば、がん患者を含む私たちのすべてが個々にもっている「獲得免疫」と呼ばれる身体の防御システムを活性化させ、免疫力を高めるように働きかけてがんを攻撃する治療法のことです。
これまでがんの治療法と言えば、「手術療法」「放射線治療」「抗がん剤による化学療法」が中心でした。免疫療法は、この3本柱に続く「第4のがん治療法」として、がん患者の間でこのところ急速に期待が高まっています。
わが国において、がん治療中の患者やがん診療にあたっている医師らの間で、このがん免疫療法に関心が高まるきっかけとなったのは、ニボルマジ(商品名:オプジーボ®)に代表される「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる新薬の登場にあると言われています。
私たちの体内に発生したがん細胞は増殖をもくろみ、NK細胞に代表される免疫細胞との戦いに打ち勝とうと、免疫細胞の働きにブレーキをかけることがあります。
このブレーキをかける役割をしているのが、先述のPD-1ですが、新薬の免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキを解除する働きをしてくれます。
ブレーキを外された免疫細胞は、従来の免疫活性を取り戻してがん細胞を再び攻撃することができるようになり、がん細胞の増殖にストップをかけてくれるというわけです。
がん免疫療法は魅力だが、
抗がん効果は一部のがんに限られる
免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法は、私たちの身体にもともと備わっている病原体に対する防御システムとしての免疫力を最大限活用してがんの増殖を抑え、がんとの闘いに打ち勝つことを目指す治療法です。
そのため、本庶教授が記念講演のなかで話しておられたように、抗がん剤や放射線などによるがん治療でみられるようなつらい副作用は、限りなくゼロに近いのが特徴です。
この点が魅力で、がん患者の間で免疫チェックポイント阻害剤への人気が高まっている要因の一つとなっているようです。
ただし、本庶教授が言及しているように、すべてのがんにこの免疫療法が奏効するわけではないところが、なんとも残念な点です。
2020年8月の時点で、免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法の効果が科学的に実証され公的医療保険が適用されているのは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫、腎細胞がん、頭頸部がんなど、ごく一部に限られています。
数あるがん免疫療法のなかには、
抗がん効果が実証されていないものも
現在わが国でがん免疫療法として一般に知られているのは、上記の免疫チェックポイント阻害剤による治療法だけではありません。インターネットで検索してみるとおわかりのように、がん免疫療法としてアピールされている治療法は、何種類かあります。
そのなかで、免疫チェックポイント阻害剤による方法以外で、2020年8月の時点で抗がん効果が明らかにされていて、公的医療保険が適用され、日本臨床腫瘍学会による『がん免疫療法ガイドライン』(金原出版)においてがん免疫療法として推奨されているのは、「サイトカイン療法」と「BRM療法」の一部のみです。
これ以外のがん免疫療法については、確かな抗がん効果が科学的に確認されていないことから、公的医療保険の適用から外れていて、治療は自費診療となります。また、がん免疫療法のガイドラインも治療法として推奨していないのが現状です。
以上の、がん免疫療法に関する最新情報は、国立がん研究センターの「がん情報サービス」のサイト(こちら)で随時確認することができます。関心のある方は是非立ち寄ってメディア等が伝える情報の確かさをチェックしてみることをおすすめします。
なお、がん免疫療法について詳しい情報を希望される方にはこちらの一冊がおすすめです。