事前指示書を書いたら定期的に見直しを

書類を書く

いざというときに
事前指示書が役立たない!?

あまり考えたくないことですが――。「もしものとき」の自分が、突然の病気や認知症などのために意識が低下、あるいは判断能力が衰えていて、自分が本当望んでいることを医師などの医療スタッフや家族にきちんと伝えられない状態になっているかもしれません。

仮にそんな場合でも、自分の考えや希望を知ってもらい、自分の意思に沿った医療やケアを受けられるように、あらかじめ自分の意思を書面にして残しておく「事前指示書」の普及が、このところ徐々に進んでいるようです。

事前指示書は、この先自分が受けることになるであろう医療やケアに対する自分の意思をきちんと知ってもらうためには、とても重要で意味のある書面です。

自分の望むかたちで人生に幕を

ところが、できるだけ患者さんの意思に沿った医療やケアを提供しようと心がけている医療者サイドからは、「患者さんから提示される事前指示書には何かと問題があり、また限界もある」との声が、このところよく聞かれるようになってきました。

自らの死という、できれば避けたい話題にあえて真剣に向き合い、完成させた事前指示書が、いざというときに役立たないようでは何の意味もありません。

というわけで、今日は、自分が記載した事前指示書がいざというときに効力を発揮し、自分の望むかたちで人生の幕を下ろせるようにするために、やっておくべきことについて書いてみたいと思います。

なお、事前指示書をまだ用意していないがこれから書き残したい……、という方は、コチラの記事がお役に立てると思います。

「延命措置」は一つではありません。いざというときに自分の意思が尊重されるように、希望する措置と拒否する措置を明記し、同時に代理意思決定者を指名した「事前指示書」を準備したい。その一例として『私の四つの願い』を紹介してみました。

事前指示書が
何年も前に書いたまま?

懇意にしていただいている医師の話では、年齢や性別、病気の深刻さなどに関係なく、医療やケアの選択において、「病気や治療のことはよくわかりませんから、先生にすべてお任せします」と話す患者さんが依然として多いようです。

そんななか、少数派ながら、自分できちんと事前指示書を作成して持参する患者さんに出会うと、「この患者さんは、もしものときのことを自分なりに考え、この先の生き方やいのちの終わり方に対する覚悟のようなものを、お持ちなのだろう」と考え、とりわけ真摯な気持ちにさせられるそうです。

健康なときも年に一度は事前指示書の更新を

それだけに、患者さんから事前指示書の提示を受けた医師ら医療スタッフは、そこに記されているその方の意向に、できる限り沿うかたちで医療やケアを提供できるようにしようと、当然ながら考えるわけです。

ところが、事前指示書を受け取ったものの、記載日がなかったり、あってもすでに何年も前のものだったりして、いざというときに役に立たないことが珍しくないというのです。

時の流れとともに病状も患者さんを取り巻く環境も少なからず変化するものです。その変化に合わせて治療やケアに対する気持ちはもちろん、生き方への姿勢も変わっていて、事前指示書に記載されている内容が、その時点での患者さんの意向と大きく矛盾することも少なからずあるのだそうです。

いざというときに真に役立つ事前指示書にするためには、健康なときでも、少なくとも年に一度、例えば自分の誕生日に内容を見直し、変えるべきところがあれば、迷うことなく書き替えるようにしたいものです。

また、何らかの病気で治療を続けているような場合は、病状が変わったり治療法が変わったりしたらその都度、事前指示書の内容を再検討し、更新することをおすすめします。

事前指示書の内容に
家族は合意していますか?

それと、これは事前指示書を作成する時点での基本的な話としてすでにお伝えしたことですが、家族や大切な人がいる方は、事前指示書の内容についてあらかじめ十分な話し合いを行い、その内容について合意を取りつけておく必要があります。いわゆる人生会議です。

「自分の人生をどう締めくくりたいか」を事前の意思として表明していても、最期のときにその意思が尊重されないこともあります。そんな事態を避けようと、今医療現場で「アドバンス・ケア・プランニング」という取り組みが始まっていることを書いてみました。

その合意がないと、たとえば事前指示書には本人の意向として「人工呼吸器の使用は望まない」とあるのに、家族らが「まだ生きていてほしいから」などと強く望み、医療者側とすったもんだの末、結局人工呼吸器を装着するといったことにもなりがちです。

これでは、せっかくの事前指示書もなきに等しいものになってしまいます。

このような事態を招くことがないよう、自らの意思に家族らの合意を取り付けておくことは必須条件の一つです。

事前指示書には
かかりつけ医の助言も

事前指示書がいざというときに役に立たなくなる背景には、医療やケアに関する正しい知識が十分に普及していない現状があることも指摘されています。

事前指示書に記載されている本人の希望は、最優先して尊重されることになっています。

ところが、医学的観点から、この病状では本人の意向を尊重するのは無理と判断されてしまうことも少なくないようです。

あるいは、「本人の希望とは言え、この病状ではとても希望通りには……」といったこともよくあると聞きます。

こうした事態を避けるには、どのような治療や処置なら受けることができるのかを、病状を理解した上で先の見通しも立てることができるかかりつけ医などの意見なども聞きながら、事前指示書を作成するといいでしょう。

事前指示書は人生会議への第一歩

この発想をさらに進めると、最近国をあげて取り組んでいるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、愛称「人生会議」となるわけです。

まずは自分の意思を整理しながら事前指示書に書き留めておき、家族や医療関係者との人生会議に臨むというプロセスが大事になってくるのです。

この人生会議の詳細については、こちらの記事を読んでみてください。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)では、話が最期のときに集中しがち。そのため愛称が決まっても、馴染まないとの声が依然として多く聞かれます。もっと気軽に世間話の感覚で、今の自分の健康状態や生き方を考えることから始めてみては……。

なお、人生会議については、「もしものとき」とか「人生の最終段階」における医療やケアについて考えることと、狭くとらえている方が多いようですが、そうではなく、「これからの生き方」を考える機会として考えてみてはどうだろうか、といった話をこちらで書いています。

人生会議(ACP)があまり普及していない。その理由は「もしものとき」や「人生の最終段階」を強調しすぎる点にあるのではないだろうか。その点日本医師会は、ACPを「前向きにこれからの生き方を考える仕組み」としてとらえ、その方法を紹介しているという話をまとめた。

さらに、人生会議をより具体的にイメージしていただくには、神奈川県横浜市が作成し、公表している、こちらの人生会議の短編ドラマをご覧になるのがいいと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのか、自分のいのちの終わりを意識して終活に取り組む人が増えている。ただしその終活は、いわゆる身辺整理のレベルで終わることが多い。そんななか横浜市は、短編ドラマを作成して「人生会議」の大切さをアピールしている。