事前指示書に「代理人」を記載してありますか

書類を書く

事前指示書の提示を
病院から求められるのは?

最近病院に行くと、外来の窓口などで「事前指示書をお持ちですか」と尋ねられることが多くなっています。あるいは、「この書類に必要事項を記載して、次回受診する際に持参してください」などと、「事前指示書」、あるいは「エンディングノート」などとと書かれた用紙を渡されることもあるでしょう。

患者として訪れたあなたに病院サイドがこのようなかたちで事前指示書の提示を求めるのは、「私たちはあなたの意思を尊重した医療やケアを提供します」という病院としての意思表示と受け止めていいでしょう。

「そのためには前もって、これから受けていただく医療やケアについてあなたの希望を私たちにお知らせください」と、事前指示書の提出を求めているわけです。

この事前指示書については、このブログでも「事前指示書に希望する医療を明示しておく」などとして何回か取り上げ、いろいろなパターンを紹介してきました。それらをいつも読んでくれている一人の医師から、最近、「どのような治療やケアを受けたいか、もしくは受けたくないかというところに話が少し偏っているのではないか」との指摘を受けました。

この指摘を受け、すぐにこれまでの記事をざっと読み返してみたのですが、「なるほどご指摘はごもっとも」と思い当たるふしがありますので、今回は、事前指示書に関する内容で今まであまり触れてこなかったことを中心にまとめてみたいと思います。

事前指示書に必要な2つの機能
内容的指示と代理人指示

事前指示書は、終末期と呼ばれる人生の締めくくりの時期に、自分自身で自分のことを決められないという事態に立ち至った場合に備え、自分に施される医療やケアに対する自らの意向を前もって意思表示しておくための文書です。

この文書には、内容的指示といって、自分はどのような治療やケアを受けたいか、受けたくないかの意思表示を明記します。と同時に、自分で判断できなくなったとき、誰に今後の治療やケアに関する判断を委ねたいかを、あらかじめ明示しておくことも必要です。

私がこれまで事前指示書やアドバンス・ケア・プランニング(ACPあるいは人生会議)について書いてきたなかで書ききれていなかったのは、後者の部分、つまり自分の代わりに意思決定してもらいたい人をどう決めて指示書に明記しておくかという、「代理人指示」の話です。

この意思決定の代理人として、多くの人がとっさに思い浮かべるのは家族でしょう。医療現場でも、まず第一に尊重されるのは当事者である患者自身の意思ですが、認知症などにより本人の意思決定能力が低下している場合に医療者サイドが次に求めるのは「家族の意向」です。

意思決定の代理人に
「家族」を選ぶときの留意点

ただし一口に「家族」といっても実態はさまざま――。長年にわたり高齢者の終末期医療に携わっている医師から、「家族の意向」に関して、こんな話を聞いたことがあります。

「我々医療者サイドとしては、毎日一緒に生活しているご家族なら、患者さんが常日頃大事にしていることや価値観のようなこともよくわかっているだろうから、ご本人の身になって最善の選択をしてくれるはずだと考えがちです。ところが、必ずしもそういうご家族ばかりではない。患者さんのためというよりは、ご自分に都合のいい選択をされるというケースを少なからず経験してきました」

たとえば、自宅で続けてきた介護に疲れきっていて、早く今の状態から抜け出したいと考える方もいるでしょう。逆にどのようなかたちであっても本人が生きてさえいれば年金を受け取ることができるから、できるだけ生き続けていてほしいと考える家族も確かにいるというのです。いささか気の滅入る残念な話ですが……。

こんな話を聞いてしまうと、自分に判断能力がなくなっても、家族なら自分のためを思ってこの先の医療やケアのことを考えてくれるだろう、などと安易に考えない方がいいと思ってしまう方が出てきたとしても不思議ではありません。

家族のなかでも特に深いつながりを感じている人を

だから家族を意思決定の代理人にしない方がいいと言っているわけではありません。同居の有無に関係なく、また現在は仕事の関係などで疎遠になっていても、家族のなかでも特に気が合い、深いつながりを感じているメンバーがいるようなら、まずはその人に直接会って、「もしものとき」にどうしたいか、自分の希望を正直に語ってみるのです。

そのうえで、「わかってもらえるようだ」となれば、意思決定の代理人になってもらう方向で話を進め、了解が得られたらあなたの事前指示書にきちんとその旨を明記しておきます。

こうしておけば、自分で意思決定できない状態になっても、自分の意に沿ったかたちで人生の幕を閉じることができるはずです。

意思決定の代理人を
「法的後見人」に託すときの留意点

意思決定の代理人を決めておきたいが、肝心の家族がいない、あるいは家族はいるのだが所在がつかめないとか、もめごとがあって今は関係を断っているということもあるでしょう。

このようなときは、あなたが個人的に指名した知人でもかまいません。あるいは、成年後見人などの法的後見人や法的代理人がいれば、その方を代理人として指名することもできます。

ただし、ここでちょっと注意しておきたいことがあります。

現在の法律では、成年後見人などが、診察を受けるための手続きをとるなど、病院側と診療契約を交わす行為を本人の意思に沿うかたちで代行することは認められているのですが、その契約に基づいて行われる一つひとつの医療行為に関する意思決定となると、助言程度の支援はできるものの、その医療行為を行うことへの「同意」を代行することは認められていません。

事前指示書に代理人として明記しておく

個人が一つの医療行為を受けるか否かの判断は本人固有のものであって、代理権が及ぶものではないという理由からです。

ただし、本人の手による事前指示書があり、そこに医療やケアに関する本人の意思が明記され、同時に意思決定の代理人として後見人を指名する旨が明記されていれば、代理人としての務めを果たすことができます。

人生の最晩年になって自分の思いとかけ離れた日々を過ごすことにならないよう、元気なうちから事前指示書を用意し、そこに自分に代わって治療やケアを選択する役割を誰に託すかをきちんと明記しておくことをお忘れなく!!

なお、成年後見制度について詳しく知りたい方は、「身寄りがない人の退院支援と成年後見制度」がお役に立てると思います。

また、事前指示書をもとに、家族や医療関係者らにこの先の望む生き方について自分の考えを伝え、話し合っておくための人生会議について詳しく知りたい方は、「人生会議ではこれからの生き方を話し合う」をご覧ください。