「次亜塩素酸水」の使い方を間違っていませんか

消毒剤

次亜塩素酸水の噴霧・散布に
文科省が注意喚起の通知

「児童生徒がいる空間では次亜塩素酸水の噴霧や散布を行わないように」
――文部科学省は2020年6月5日、全国の教育委員会にそう通知しています。

そこでは、学校の物品を消毒する際には、新型コロナウイルスの消毒に有効性が確認されている消毒用エタノールや、次亜塩素酸ナトリウム溶液、さらにはこのウイルスへの不活化(殺菌)効果が確認されている、一部の界面活性剤を含む家庭用洗剤(キッチンマジックリン、クイックルワイパーウエットシーツなど)を使用するよう求めています。

「次亜塩素酸水」は新型コロナウイルスの消毒剤として、すでに市場に数多くの製品が出回り、学校や保育所、公共施設、商店はもとより、家庭においても使用されています。

しかし、「有効性がまだ十分確認されていない」ことから、使用しないようにと注意喚起しているのです。

さらにこの通知には、「児童生徒がいる空間では、噴霧器での散布などは、健康面への配慮から行わないように」とあるのですが、実は子どもたちだけの問題ではありません。

大人にも、次亜塩素酸水に限らず消毒薬の噴霧や散布には健康上のリスクがあります。

加えて市販されている「次亜塩素酸水」のなかには、新型コロナウイルスに対する消毒薬としての有効性や私たちの健康への安全性の面において、かなり問題の多い製品が少なくないことも徐々にわかってきています。

今日はその辺の話をお伝えしようと思います。

「次亜塩素酸ナトリウム溶液」と
話題の「次亜塩素酸水」は別もの

「次亜塩素酸水」について言えば、これにはまず基本的な問題があります。

新型コロナウイルスの感染対策、とりわけ感染者が触れたドアノブなど物の表面の消毒の切り札とも言える「次亜塩素酸ナトリウム溶液」と取り違えている方が少なくないことです。

「次亜塩素酸ナトリウム溶液」と「次亜塩素酸水」は全く別ものです。

「次亜塩素酸ナトリウム溶液」は、おそらくどこの家庭にもある塩素系漂白剤(ハイターなど)の主成分として用いられるアルカリ性溶液です。

新型コロナウイルスの感染拡大が問題となり始めた当初から、消毒用エタノールとともに、新型コロナウイルスに対する物や室内の表面の消毒に使われています。

たとえば厚生労働省のWEBサイト上にある「新型コロナウイルス感染症の予防法」の「問2 家族に新型コロナウイルスの感染が疑われる場合に、家庭でどんなことに注意すればいいでしょうか」では、「手で触れる共有部分」の消毒法を次のように説明しています。

物に付着したウイルスはしばらく生存します。ドアの取っ手やベッド柵など共有部分は、薄めた市販の家庭用塩素系漂白剤で拭いた後、水拭きしましょう。

家庭用塩素系漂白剤は、主成分が次亜塩素酸ナトリウムであることを確認し、濃度が0.05%(製品の濃度が6%の場合、水3Lに液を25㎖)になるよう調整してください(以下略)

(引用元:厚生労働省WEBサイト*¹)

殺菌効果と安全性の確かな
「次亜塩素酸水」とは

一方、今回話題になっている「次亜塩素酸水」は、電気分解などの手法で作られる酸性の液体で、生成方法が食品衛生法で規定されている食品添加物の一種です。

殺菌剤として使用されるものの、最終食品の完成前には除去しなければならない、つまり口に入る段階の食品には残留していないこと、と規定されています。

厚生労働省は、その殺菌効果と安全性が確かな次亜塩素酸水を、「塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液」と定義しています。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大により消毒薬の需要が高まるにつれ、市中には、生成方法が厚生労働省の規定から外れているにもかかわらず、「次亜塩素酸水」、あるいは「次亜塩素酸水溶液」として売られる製品が数多く出回っているのです。

とりわけ目につくのは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈しただけで「次亜塩素酸水」として販売している製品です。

あるいは、塩酸やクエン酸といった酸性の溶液を混ぜ合わせることによって酸性度(pH)を調整した水溶液を、「次亜塩素酸水」として販売しているものも少なくないようです。

次亜塩素酸水の有効性は
現時点では十分確認されていない

そこで経済産業省は、独立行政法人の製品評価技術基盤機構(略称「NITE:ナイト」)に、新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価試験の一環として、「次亜塩素酸水」関連商品についても有効性の評価試験を要請しています。

この評価試験は、NITEにおいて現在進行中ですが、「次亜塩素酸水」として一般に市販されている製品の一部については消毒効果を確認できたものの、新型コロナウイルスを不活化、つまり死滅させるだけの殺菌効果を確認できない製品も出てきたようです。

そこでNITEは、急遽、中間報告と断ったうえで、「次亜塩素酸水については、現時点において十分な有効性は確認できなかったが、引き続き検証実験を実施する」ことを公式に発表したわけです。

検証作業は現在鋭意進められていますから、程なく最終結論が公表されるものと思われます。

ただし現時点では、生成方法や成分が規定から外れているにもかかわらず、「次亜塩素酸水」として販売されている製品が少なくないことは明らかなようです。

くれぐれも「次亜塩素酸水」を購入する際は、製品のキャッチコピーに惑わされず、製品に必ず記載されている成分表や生成方法、および使用期限をチェックすることをお忘れなく!!

消毒剤の噴霧器による散布
特に人体への噴霧は行わない

そこで、冒頭で記した次亜塩素酸水の噴霧・散布の問題です。

先に紹介した厚生労働省の「物に付着したウイルス」の消毒法にあるように、次亜塩素酸ナトリウム溶液を新型コロナウイルスの消毒剤として使用する際は、「清拭消毒」といって、拭き取りによる方法で行います。

つまり消毒液を染み込ませたクロス(布)やペーパータオルで物の表面を拭いて消毒するのはOKですが、噴霧や散布することはすすめていません。

この点についてはWHO(世界保健機関)も、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、噴霧や燻蒸(いぶすこと)による環境表面への消毒剤の日常的な使用は推奨されない」としています。

その理由については、次のように説明しています*²。
「消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない。さらに、塩素や他の有害化学物質を人体に噴霧すると、目や皮膚への刺激、吸入による気管支痙攣、吐き気や嘔吐などの消化器系への影響が生じる可能性がある」

先日、ある飲食店チェーンが、入り口に次亜塩素酸水を全身に噴霧する機械を設置して新型コロナウイルスの感染防止に取り組んでいることが報じられていましたが……。
危険ですのでくれぐれもご注意ください。

参考資料*¹:厚生労働省WEBサイト
参考資料*²:「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)2020年5月29日現在