医療ソーシャルワーカー
通称「MSW」をご存知ですか
「医療ソーシャルワーカー」という職種があるのをご存知でしょうか。
病院に行くと、外来棟や外来フロアの一角に「医療福祉相談室」とか「地域連携室」とあるのが目にとまったら、その部屋にいるのが医療ソーシャルワーカーです。
「患者相談室」と銘打ったところに待機しているようなケースもあるようです。
最近では、入院ベットが20床以上ある病院なら、少なくても1人は医療ソーシャルワーカーが配置されていると思います。
あなたのかかりつけの病院はいかがでしょうか。
彼らのことを、病院の医師や看護師ら医療チームの仲間たちは、「MSW(エム・エス・ダブリュー)」と呼ぶことが多いようです。
医療ソーシャルワーカーを英語で言えば「Medical Social Worker」ですから、その略語が通称となっているわけです。
暮らしの面での困りごとは
MSWに相談を
医療ソーシャルワーカーは社会福祉の専門職です。
彼らの多くは、社会福祉系の大学や大学院で専門教育を修了した後、「社会福祉士」あるいは「精神保健福祉士」の国家試験を受けて、国家資格を取得しています。
患者や家族のプライバシーを最大限守りながら、入院中にかかる医療費や生活費など経済的側面の問題解決や調整、心理的・社会的問題の解決や調整など、ソーシャルワーク(社会福祉援助)の知識と技術を生かして、幅広い援助活動を行っています。
病気になると、こころや身体の面だけでなく日々の生活、つまり暮らしの面でも、種々さまざまな問題が生じてくるものです。
医療ソーシャルワーカーは、この暮らしの面での困りごとの相談に乗ってくれるスタッフだと理解していただければいいのではないでしょうか。
ちなみに、厚生労働省の「医療ソーシャルワーカー業務指針」には、行政文書特有のわかりにくさはあるものの、その標準的な業務内容が次のように記されています。
生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、退院・退所後の選択肢を説明し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。
(引用元:厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針」*¹)
退院あるいは転院時には
MSWの援助が欠かせない
とりわけ医療ソーシャルワーカーの援助が必要となるのは、退院あるいは転院時です。
患者の退院後の暮らしの場、あるいは療養の場の確保について、担当医や看護師らと話し合いをもつとともに、退院時の患者の状態に見合うかたちで社会福祉・社会保障サービスを適正に利用できるように、必要なアドバイスや支援を行う役割を担っています。
大学病院で医療ソーシャルワーカーとして働いている友人から、
「患者さんから、病院から追い出す人と言われてつらかった」
と嘆かれたことがありますが、これは大変な誤解です。
退院後に介護保険制度の利用が予想されるとき
たとえば退院後に公的介護保険制度の利用が予想されるとしましょう。
すると、病棟の担当看護師から医療ソーシャルワーカーにその旨連絡が入ります。
連絡を受けた医療ソーシャルワーカーは、専用の部屋に患者と家族に来てもらい、あるいは自ら患者の病室を訪れて、制度の仕組みや用意されているサービス内容について、またその利用方法について詳しく説明し、手続き上必要な支援を行ってくれます。
このとき、患者と家族の了解が得られれば、退院後に患者の担当となる介護支援専門員*、いわゆるケアマネジャーと直接連絡をとり、患者が入院中に一度病室なりを訪問し、患者と顔合わせをしてもらいたい旨要請するのも、医療ソーシャルワーカーの仕事です。
ケアマネジャーから訪問に了解が得られれは、直接会ってもろもろ話を聞くことができますから、退院後の生活について入院中からそれなりの心づもりができ、患者や家族としては安心して退院の日を迎えることができます。
退院後も引き続き医療的ケアが必要な場合
入院中に受けていた点滴や鼻チューブあるいは胃ろうを介しての栄養補給、酸素吸入といった医療処置を、退院後も在宅で継続する必要があるといったことも考えられます。
このような場合、入院中に担当看護師から退院後の介護を引き受ける家族なりに、必要とされる医療的ケアについてかなり具体的な指導が行われているはずです。
加えて退院後は、地域にいるかかりつけ医や訪問看護師の定期的なサポートが欠かせないことも少なくありません。
その辺の、連絡や必要な手続きなども、医療ソーシャルワーカーが、退院支援看護師と連携して引き受けてくれます。
なにしろ医療ソーシャルワーカーは、国や地域の社会福祉制度やボランティアなどの社会資源については、医師や看護師ら医療スタッフ以上に精通していますから、経済面での課題とか人的サポート面での支援などについては全面的に託すことができます。
病状や治療以外のことなら
いつでも相談できる
さらに具体的な話として、友人の医療ソーシャルワーカーは、自分たちの仕事にあまり馴染みのない患者や家族に対しては、
「病状や治療に関すること以外で、気になっていることや心配していることがあれば、いつでも相談してください」
と話すようにしていると言います。
とは言え、ときには相談を受けるなかで、
「このところ我慢できない症状がずっと続いていてつらい。担当医や看護師さんに訴えているのだが、どうもわかってもらえない」
と、つらさを吐露されることもあるそうです。
そんなときは、「そういう話を私に言われても……」と返すのではなく、
「それはつらいですね。近々担当医や看護師さんと話し合う機会がありますから、さりげなく伝えておきましょうか」
などと話し、了解をとったうえで、カンファレンスの場で、やんわりと患者の訴えを話すようにしているのだそうです。
このようなかたちで、患者・家族と医療スタッフとの関係調整役を担うこともたまにはあるものの、やはり医療そーシュルワーカーとしてのメインの仕事は、
「経済的な面での心配や制度に関すること、さらには退院後の自宅での生活がしやすいように利用できる制度があればその旨説明し、必要な手続きを行うこと」
だと、話してくれました。
参考・引用資料*¹: 厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針」