「オーラルフレイル」対策、やっていますか?

歯の治療

フレイル予防に欠かせない
オーラルフレイル対策

加齢により運動機能や認知機能が低下して心身の活力が低下し、日常生活に周囲の手助けが必要な状態が「フレイル」と呼ばれていることは、すでにご承知のことと思います。

具体的には、加齢に伴う筋力の衰えにより足腰が弱って歩くのも一苦労となり、家に閉じこもりがちで、気分も落ち込んで抑うつ的になっているような状態です。

いわゆる「要介護」の前段階と言われています。

そこで、なんとかフレイルを予防、あるいは改善して、できるだけ自立した日々を過ごそうと、散歩や運動を日課にして運動機能を鍛えたり、食事に気をつけたり、周囲の方との交流を極力増やすといった努力をしておられることと思います。

このフレイル予防に欠かせないこととして、最近、「オーラルフレイル」を防ぐことの大切さが広くアピールされています。

オーラルフレイルとは

オーラルフレイルとは、「噛む」「飲み込む」「話をする」ためのオーラル(口腔)、つまり歯や口の健康を損ない、機能が衰えた状態のこと――。

高齢者のオーラルフレイルは心身にも悪影響を及ぼします。

とりわけ、命を脅かすリスクの高い「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」につながる可能性がありますから、特に注意が必要です。

そこで今回は、このオーラルフレイル予防のために日々取り組んでいただきたいことをまとめておきたいと思います。

こんな症状は
オーラルフレイルのサインです

ところであなたは、こんな症状を自覚することはないでしょうか。

  • 口が渇いてニオイ(口臭)が気になる
  • 家族などから「滑舌(かつぜつ)が悪い」と言われる
  • 舌がよく回らず話しにくい
  • 物を飲み込みにくい
  • 食事中にむせたり咳き込むことが増えた
  • 食事をしていて、よく食べこぼすようになった
  • 硬くて噛めない食品が増え、軟らかい物ばかり食べている

これらの症状はいずれも、舌や口の周りの筋肉の衰えが原因で起きるもので、オーラルフレイルと呼ばれる状態がすでに始まっているサインと考えられます。

物を噛む力の低下や飲み込む機能の衰え、いわゆる嚥下(えんげ)障害は、食生活に直接支障をきたします。

食事量が減り、十分な栄養が摂れなくなりますから、低栄養の状態になりがちなのです。

また、滑舌が悪くなれば、家族や友人、知人との会話がスムーズにいかなくなりますから、人や社会とのかかわりを避けて家に閉じこもりがちになります。

さらには飲み込む力が低下して誤嚥しやすくなれば、食べ物や口の中の細菌が誤って気管に入りやすく、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクも高まります。

口腔機能の衰えを防ぐ
オーラルフレイル対策を

このようなリスクを防ぐためには、日頃からセルフケアとして次の3点に取り組み、口腔機能が衰えないようにすることが大切です。

  1. 口腔内を常に清潔に保つ
  2. 口腔内の保湿に努める
  3. トレーニングにより舌や口周りの筋肉の衰えを防ぐ

オーラルフレイル対策は「8020運動」とセットで

このうち「1」については、改めて言及するまでもないでしょう。

私たちの国では、厚生労働省や日本歯科医師会などが中心となり、すでに1989(平成元)年から「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」が進められています。

満80歳になったときに自分の健康な歯が20本残っているように歯の健康、特に虫歯や歯周病に気をつけて、いくつになっても三度三度の食事を自分の歯で噛んで食べられるようにしようという運動です。

この運動の基本となるのが、オーラルフレイル対策として必須の「口腔内を常に清潔に保つ」ための毎日のセルフケアです。

食後や寝る前の歯みがきやうがいの励行はもちろんですが、口臭の原因にもなる「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる舌の表面に苔のようにへばりついている細菌や食べかすを舌ブラシやスポンジブラシなどできれいに落とすこともお忘れなく。

同時に、定期的に歯科を受診して、歯の欠損などがあれば入れ歯などによる補綴(ほてつ)治療を受けて歯の機能を回復させておくことも大切です。

口腔内の保湿によりドライマウスを防ぐ

「2」については、先にドライマウス(口腔乾燥症)について紹介していますが、唾液の分泌量が減少したり、服用薬の副作用などによっても起こる口腔内の乾きは細菌の繁殖を招くうえに、飲み込みにくさの原因ともなります。

口腔内の清掃やマウスウォッシュによる洗浄、あるいは保湿剤入りの口腔保湿ジェルやリップクリームを利用するなどして潤いを保つようにするといいでしょう。

唾液腺マッサージを行う方法もありますが、詳しくはこちらをご覧ください。

高齢者に多いドライマウス(口腔乾燥症)は、薬の副作用として現れることが多い。なかには深刻な病のサインのこともあり、「口が渇くだけだから」などと見過ごしていると、食事摂取や日常会話に支障をきたし、QOL(生活の質)の低下を招くことも。気づいたら早めの受診を。

口腔体操により
舌や口周りの筋肉の衰えを防ぐ

「3」の対策として、日本歯科医師会は「オーラルフレイル対策のための口腔体操」として、以下の「5つの効果別体操」を公式ホームページで紹介しています*¹。

  1. お口・舌の動きをスムーズにする体操
    (唇を中心とした)口の体操/(唇と)ほほの体操/舌の体操(舌圧体操)/パタカラ体操/唾液腺マッサージ
  2. 飲み込むパワーをつける体操
    開口訓練/ベロ出しごっくん体操/おでこ体操/ごっくん体操
  3. 噛むパワー(咀嚼機能)をつける体操
    咀嚼訓練/食事のポイント
  4. 滑舌(口唇・舌の巧微性)をよくする体操
    早口言葉
  5. 舌のパワーをつける体操
    舌トレーニング

上記の体操は「関連動画」として、併せて紹介されています*¹。

オーラルフレイルを疑わせる症状がある方は、まずはその症状に見合った体操から取り組んでみてはいかがでしょうか。

舌の筋力を鍛えるトレーニングボトル

なお、食事中に「むせる」「咳き込む」ことによる誤嚥性肺炎を予防するために、「5」の舌の筋力を鍛えてパワーをつける方法として、歯科医師が開発したトレーニング器具があります。

「タン練くん」と呼ばれるこのトレーニングボトルについては、こちらで詳しく紹介していますので、是非読んでみてください。

食事中にむせたり、水を飲むと咳き込んだりの積み重ねによって起こる誤嚥性肺炎は、高齢者には死に直結する大問題。その予防に、歯科医師が開発した舌の筋力アップのためのトレーニングボトルを紹介する。形状も機能も哺乳ビンによく似たボトルで手軽に訓練できる。

呼吸訓練から始める嚥下体操

また、嚥下体操はさまざま紹介されていますが、ここでは、浜松市リハビリテーション病院えんげセンターの藤島一郎医師による、呼吸訓練から始める「藤島式嚥下体操セット」の動画*²を紹介しておきたいと思います。

誤嚥による肺炎リスクのある方は、食事前の準備体操として、動画に合せてやってみてはいかがでしょうか。

長引く歯や口のトラブルは「歯科心身症」を疑って

なお、歯の痛みや口の中の違和感などで歯科に通院しているものの症状がいっこうに改善しないばかりか、「気のせい」などと言われてしまっている方は、歯科心身症といって、ストレスなどが症状を引き起こしていることも考えられます。

この場合、症状を和らげたり改善するには、歯の治療だけでなく、ストレスや悩みなどへの対応も必要になってきます。詳しくはこちらを読んでみてください。

ストレスによる胃潰瘍があるように、ストレスなどが原因で歯や口の症状に悩まされることがある。そんなときは「歯科心身症」と捉え、心身両面からの治療が必要になる。幼児体験の影響で、怖くて歯科治療を受けられないという方も、歯科心身症としての治療を。

参考資料*¹:日本歯科医師会「オーラルフレイル対策のための口腔体操」

参考資料*²:藤島式嚥下体操セット