歯や口のこんな症状は「歯科心身症」の治療を

歯痛

ストレスが原因で
歯が痛くなる「歯科心身症」

少し前になりますが、毎週1日だけ午後の3時間ほどを「口臭外来」にして、患者さんの口臭に関する相談を受けている歯科クリニックの医師を取材したことがあります。

近年の抗菌グッズブームに象徴されるように、人々の清潔志向の高まりに伴い、「ご自分の口臭を気にして真剣に悩み、繰り返し相談にやってくる方が増えている」という話の流れで、「いわゆる歯科心身症の一つです」という話になりました。

とっさに私は、「仕事のストレスなどが原因で胃が痛くなり、やがて胃潰瘍になるといった心身症のことなら知っていますが、歯科心身症というのは……?」と尋ねてみました。

これに歯科医師が、「胃の痛みの原因となっているそのストレスが、歯や口の症状となって現れるということです」、と答えてくれたことを記憶しています。そのときはそれ以上お尋ねしなかったのですが、最近、この「歯科心身症」あるいは「口腔心身症」という言葉をよく見聞きするようになりました。

そこで今回は、この「歯科心身症」という病気(正確には「病態」)について調べたことを書いておきたいと思います。

歯や口のこんな症状は
歯科心身症の可能性が高い

歯科心身症について改めて調べてみようと思ったのは、「歯の痛みで最寄りの歯科クリニックに通院して随分になるのに、なかなかよくならない」と訴える友人から、こんな話を聞いたのがきっかけでした。

「治療中の歯の痛みがいっこうに治まらないうえに、ここ数日は別の歯も痛み出したのでクリニックに行ったら、歯科心身症が疑われるから、その治療に明るい歯科医を紹介しましょうと言われた」と――。

この話を聞き、「歯科心身症」について具体的なことを知りたくなり、日本歯科心身医学会のホームページにアクセスしてみました。

するとそこでは、「一般の方へ」と題して、次のような歯や口の中の症状で困り、何軒も歯科医院や口腔外科、耳鼻科などに行っても「特に異常はない」と言われている方は、「歯科心身症の可能性が高いと考えられる」と説明しています。

  • 舌が痛い、ヒリヒリする、火傷(やけど)をしたような感覚がある
  • 歯の治療をしても痛みがとれない
  • 歯科で治療をしてもらっても咬み合わせが合わない。ずっと咬み合わせが合わなくて困っている
  • 何度入れ歯を調整してもらっても合わない
  • 何度入れ歯を調整してもらっても入れ歯が当たる
  • 口がずっと乾いている
  • 口の中がネバネバする
  • 口の中が気持ち悪い
  • 口の中に何かがあるようだ

(引用元:日本歯科心身医学会ホームページ

怖くて歯科治療を受けられない方も

なお、幼いころに受けた歯科治療による恐怖体験が原因で、大人になってからも歯科受診は苦手、あるいは歯科治療が怖くて受けられないという方も少なからずいると思います。

日本歯科心身医学会はこのような方についても、歯科心身症として心身両面からの治療を受けることを勧めています。

歯科心身症は
心身両面から治療する

そもそも「心身症」とは、心理社会的な要因、つまりストレスや悩み、不安などによって体調を崩したり、病状が悪化してしまう状態を言います。

典型的な心身症としては、「胃・十二指腸潰瘍」「気管支喘息」「アトピー性皮膚炎」など、身体の病気があげられます。これらの病気の治療では、心身両面、つまり身体と心の治療が併行して行われます。

たとえば心身症としての胃潰瘍であれば、胃酸の抑制剤や胃の粘膜保護剤による内科的な治療に併行して、ストレスや不安などを軽減するために抗不安薬を使ったり、カウンセリングや自律訓練法、認知行動療法などの心理療法が行われることになります。

歯科心身症の治療も同じです。日本歯科心身医学会は歯科心身症の治療を、「症状を理解していただけるように十分な説明から始まり、一般的には、心理療法や薬による治療が行われ」、病状によっては「精神科や心療内科との連携が必要になることもある」と説明しています

心の治療が必要だが精神疾患ではない

「精神科や心療内科との連携が必要」とあることから、「歯科心身症って精神疾患なんだ」と受け止める方もいるかもしれませんが、それは全くの誤解です。

不安や悩み、ストレスといった精神症状だけなら精神疾患と言ってもいいでしょう。しかしストレスなどの影響が歯や口の中の症状となって現れているのなら、歯科心身症と捉えて心身両面への治療が必要となります。

歯科心身症の治療は
どこで受けられるのか

歯科心身症は、とかく「気のせいでしょう」とされがちです。しかし私たちの身体と心は密接に関係し合っていますから、通常の歯科治療だけで抱えている症状の改善を期待するのはまず無理でしょう。

では一体どこを受診すればいいのか、という話になるのですが、歯科医師には地域内で横のつながりがあり、心身医学的な診断や治療を専門に行っている歯科医師と連携している場合もありますから、今かかっている歯科医に紹介してもらうのがいちばんです。

その際、紹介先が大学病院などの専門医療機関の場合は、紹介状があればよりスムーズに受診することができます。しかもこちらの記事で紹介しているように医療費の節約にもなりますから、紹介状を書いてもらうことをお勧めします。

かかりつけ医を持つメリットは多々あるが、とりわけ見逃せないのは高度専門医療が必要になったときに紹介状を発行してもらえること。この紹介状があると、大病院の初診や再診に必要な「選定療養費」(自費扱い)が不要なうえに、受診がスムーズになること。

歯科心身症の医療費は
保険診療と自由診療により異なる

なかには、今かかっている歯科医には相談しにくいという方もいるかもしれません。その場合は、「歯科心身症クリニック」とか「心療歯科」を標榜している歯科には、おそらく心身医学的な診断と治療に精通した歯科医師がいるでしょうから、ネット検索して、診療内容を確認のうえ、連絡してみるのもいいでしょう。

また、日本歯科心身医学会は専門的知識と技能を身に着けた認定医制度を設けていて、ホームページで一部の認定医を紹介していますから、そちらも参考にしたらいいでしょう

なお、歯科心身症の治療にかかる医療費は、保険医療機関であれば、基本的に医療保険が適用になりますから、自己負担分だけですみます。

ただし、医療機関によっては医療保険が効かない自由診療で診療を受け付けているところもありますから、受診する際にはその辺のことを事前に確認しておくことをお勧めします。

参考資料*¹:日本歯科心身医学会ホームページ「一般の方へ」

参考資料*²:日本歯科心身医学会ホームページ「認定医」