エンディングノートと事前指示書は何が違う?

サングラスとマグカップ

「エンディングノート」はもっているが、
「事前指示書」も必要だろうか

先日、60代の知人男性からこんなメールが届きました。
「父親が亡くなったときにお世話になった葬儀社から、『終活のお役に立てるから』とエンディングノートなるものをいただいた。一応簡単に記入したのだが、これとは別に事前指示書も用意しておいた方がいいのだろうか」

メールを読んでとっさに、「ああ、迷うだろうな」と思いました。
最近は、生前の身辺整理として終活をすすめる葬儀社が増えています。
そのなかで、「エンディングノート」を渡されるケースが多いということは以前から知っていました。

延命治療に関する項目があるかどうか

葬儀社などからサービスとして渡されるエンディングノートについて、その作成にかかわったことがあるという男性に話を伺ったことがあります。

もちろん葬儀社によって違いがあるとは思いますが、エンディングノートのそもそもの目的は「自分が亡き後、残された家族が困らないように」という逝く側の家族への思いやりに端を発しているとのことです。

そのため、エンディングノートの記載内容は、遺産相続に関することや葬儀の規模や内容、呼ぶべき人のリスト、埋葬の方法、お墓の選択といったことが中心になるようです。

一方で、このところの人生の最終段階、つまり終末期医療・ケアを受けることになる現場では、どのような医療・ケアを受けたいか、受けたくないかといった、患者本人の意思を尊重することが、医療者サイドに今まで以上に求められるようになっています。

こうした傾向を受け、もしものときに本人が意思表示できないような状態にあっても、医療スタッフから医療やケアの選択を求められた家族が困らないようにと、エンディングノートに「延命治療」に関する項目を加えることもあるようです。
ただ、それはまだ少数派だと聞いた覚えがあります。

そこで、メールをくれた彼に電話をして、葬儀社からもらったというエンディングノートに延命治療に関する項目はあるかどうか聞いてみました。

既存のエンディングノートに多いのは
延命治療を望むか、望まないかの2択

彼の返事は、「それらしき項目はある」とのこと。
続けて、その項目に書かれていることを電話越しに読みあげてくれたのですが、その内容は次のようなものでした。

「もしものときにあなたは延命治療を望みますか、望みませんか。いざというときにすでにご自分の意思が伝えられないこともありえます。認知症により判断力が低下している場合などがその一例です。そんなときのために、もしものときにどちらを選択するか、元気なうちに考えてご自分の意思を書き留めておくことをおすすめします」

これを聞いた私は、とっさにこう答えました。
「延命治療と一口に言っても、今はさまざまな治療法があるでしょ。だから望むか望まないかの二者択一だけでは、いざというときにあなたの意思は十分生かされないと思う」

個々の延命治療を理解したうえで選択を

そう答えたうえで、こんなふうにアドバイスしました。
「延命治療にはどのような医療行為があり、それはどのようなときに行われるのか、その治療を受けるとどうなるのか、受けないとどうなるのかを、一つひとつの医療行為についてきちんと理解したうえで、希望するか否かの選択をしていくのがいいと思う」

それができるのは事前指示書だからと話し、まずはインターネットで無料公開されている国立長寿医療センターの事前指示書を使ってみてはどうかと提案しました

これなら意思確認が必要な延命治療がA4用紙1枚にまとめられていてシンプルです。そのうえ、個々の治療法について簡単な説明書も用意されていますから、治療法をイメージしながら選択しやすいと考えたからです。
詳細はコチラの記事にまとめてありますので参考にしていただけたらうれしいです。

高齢になり、自らの終末期に備えて事前指示書の作成を考えた知人に、無料で入手できる国立長寿医療研究センターの事前指示書を紹介しました。シンプルですが、受けたい医療、拒否する医療を考えておくきっかけなるはずです。

エンディングノートも事前指示書も
家族の同意を得ておくことを忘れずに

二者択一のエンディングノートにしても、また事前指示書にしても、そこに書き記してある終末期医療・ケアに関する自分の意思を、いざというときに確実に生かしてもらうためには、実はもう一つ重要な課題があります。

これは医療現場を取材していてよく聞く話ですが、たとえば入院中の患者が急変した場合に延命治療をめぐり、本人が事前指示書に書き記している意思と家族の希望とが一致しないことが珍しくないというのです。

そんなときは、たとえば人工呼吸器をつかってでも生きていてほしいからと、「その治療をしてほしい」と希望する家族と「いや、ご本人の意思では人工呼吸器を使うことは望んでおられないから」という医療者サイドど、意見が対立してしまうのです。

そうならないためには、自分が選択したことに家族の了解を取り付けておく必要があるという話を、彼には付け加えておきました。
この点については、コチラの記事で詳しく書いていますので読んでみてください。

「自分の人生をどう締めくくりたいか」を事前の意思として表明していても、最期のときにその意思が尊重されないこともあります。そんな事態を避けようと、今医療現場で「アドバンス・ケア・プランニング」という取り組みが始まっていることを書いてみました。

なお、最近は各自治体が医療や介護サービスの地域性を反映した事前指示書として小冊子を独自に作成し、希望する住民に配布するようになっています。
この手の小冊子のタイトルに「エンディングノート」が使われているケースが多いようですが、この場合のエンディングノートは事前指示書と同義と受けとめて差し支えないだろうと思います。