「事前指示書」は無料でも入手できます

一人暮らし

「事前指示書」を作っておきたい

長らくご無沙汰していた知人女性からメールが届きました。78歳を過ぎたばかりの彼女は結婚の経験がなく、30代の頃にローンを組んで購入したという東京近郊のマンションで、ずっとひとり暮らしをしています。

出版社を定年で退職してからは、「孤独死だけは避けたいから」と、習い事やボランティア活動に多くの時間を割いて人的ネットワークを広げているようです。

届いたメールによれば、今も元気に動き回っているとのこと。ただ、そう遠くないうちにやってくるであろう自らの人生の最終段階に備え、「事前指示書」(エンディングノート)なるものを作成して、自分の意思を託せる友人にきちんとお願いしておきたい、とあります。

「ついては、無料で入手できて、そのうえ書き方の解説も付いたおすすめの事前指示書があれば教えてほしい」というのが、今回のメールの主旨でした。

ダウンロードすれば
すぐ使える「事前指示書」

彼女のご要望に適うものはもちろんあります。最寄りの自治体、あるいはかかりつけ医に尋ねてみるのも一つの方法ですが、すぐ頭に浮かんだのは、無料でダウンロードできて、プリントアウトさえすれば即刻使えるものです。

国立長寿医療研究センターの病院内にある終末期医療研究班は、高齢者が終末期を迎えたときに希望する医療について、外来通院患者のうち希望者を対象に調査・研究を行っています。そのときに調査票として使われている事前指示書、「私の医療に対する希望(終末期になったとき)」がそれです。

ちなみにこの事前指示書では「終末期」を、「生命維持処置を行わなければ、比較的短期間で死に至るであろう、不治で回復不能の状態」と説明しています。

この「事前指示書」は、説明書が一緒になったPDFとしてダウンロードできます。ご覧になるとおわかりのように、以下のような3項目に大別されていて、そこに書かれている内容ごとに自分が希望する項目をチェックする構成になっています。

  1. 基本的な希望(苦痛の緩和をどの程度まで行うか、終末期を迎える場所はどこがいいか)
  2. 終末期になったときに、具体的にどんな治療を望むのか(心臓マッサージなどの心肺蘇生、人工呼吸器、抗生物質、胃ろう・鼻チューブによる栄養補給、点滴などです)
  3. 自分が判断力を失った場合、主治医が相談すべき人(代理人)の名前・関係性

事前指示書に
法的効力はないけれど

事前指示書にチェックを入れていくときのヒントとして、調査票には、各項目ごとにかなり具体的な説明が書き添えてあります。たとえば項目「2」の、終末期になったときに希望する治療のなかの「心臓マッサージなどの心肺蘇生」については、こんな感じです。

  • 心肺蘇生とは、死が迫ったときに行われる、心臓マッサージ、気管挿管、気管切開、人工呼吸器の装着、昇圧剤の投与等の医療行為をいいます。
  • 心臓マッサージをすると、心臓が一時的に動き出すことがあります。
  • 気管挿管の場合、必ずしもすぐに人工呼吸器を装着する訳ではなく、多くの場合、手動のバック(アンビューバック)を連結して医療スタッフが呼吸補助をします。この行為により、一時的に呼吸が戻ることがあります。

(引用元:終末期医療に関する事前指示書*¹ )

説明を読みながら一つひとつにチェックを入れていき、代理人の名前、そして署名欄を記入し終えたら、「あなたの事前指示書」の完成です。

この事前指示書は、「リビングウイル」や他の「事前指示書」同様に、現時点で法的効力はありません。ですから、ここで表明したあなたの意思が、実際には尊重されない場合もあることを頭に入れておく必要があります。

あなたの意思を家族や大切な人に伝える

とはいえ、この事前指示書があれば、いざというときにあなたがどんなふうに人生の幕引きをしたいと望んでいたのかを、代理人はもちろんですが、担当医や家族、友人たちにも知ってもらうことができます。結果として、あなたの意思をより尊重した治療やケアの方針をとってもらうことができるというわけです。

何よりも、事前指示書の作成は、自らのいのちには限りがあることを現実のこととして認識し、この先の生き方、特に残された時間をどう過ごすのか、そのとき大切にしたいものは何か、について考えるきっかけになることに大きな意味があると思います。

こんな一文を書き添えて、国立長寿医療研究センターの事前指示書を紹介するメールを彼女に発信したところです。

なお、事前指示書に代理人を記載しておくことの大切さ、どのような人を代理人にするかといつたことについては、こちらを読んでみてください。

「もしものとき」に自分自身で自分のことを決められない事態に立ち至った場合のための事前指示書には2つの機能がある。希望する治療やケア内容の指示と、自分に代わって意思決定してもらう代理人の指示だ。このうちとかく忘れがちな後者の選定法をまとめた。
仕事仲間からの情報ですが、100均(ダイソー)に「もしもノート」というエンディングノートがあるとのこと。「じぶんノート(自身のこと)」「おかねノート(資産やお金のこと)」「けんこうノート(自身の健康のこと)」「おつきあいれんらくノート(お付き合いのある人のこと)」「うちの子ノート(ペットのこと)」の5種類が用意されているそうです。非常に人気があり、売り切れているものもあるとのこと。100均にお立ち寄りの際はチェックしてみてください。

チェックだけの事前指示書では物足りない方は

選択してチェックを入れるだけでは物足りない。自分の意思は自分の言葉で書き記したいという方もいるでしょう。そんな方は、こちらで紹介しているような自由記述式のエンディングノートを活用して、自分だけの「事前指示書」を作成してみてはどうでしょうか。

選択して「✔」するだけの「事前指示書」では、自分らしさを書き込めずに物足りない方もいます。そこで今回は、自由記述式のエンディングノートとして、「私の生き方連絡ノート」を紹介してみました。自分の意思は自分の言葉で伝えたい方はどうぞ。

人生会議につながる事前指示書

あるいはこちらで紹介している、厚生労働省のホームページにある、神戸大学の研究チームが厚生労働省の委託を受けて人生会議のきっかけとなるようにと作成した冊子なら、チェックするだけでなく自由記載欄もあり、しかも無料で入手できます。

新型コロナに感染し、そのまま逝ってしまった志村けんさん――。彼の死に新型コロナの脅威を感じると同時に、自らの感染、そしてその先の死を意識し、終活を始めた人が少なくないと聞く。しかもそれは高齢者に限らないらしい。その「いのちの終活」に1つの冊子を紹介する。

事前指示書は定期的に見直しを

なお、事前指示書は一度書いたらそのままにしておくのではなく、定期的、せめて年に一度は見直すことをお忘れなく!!

事前指示書が普及しているものの、いざというときに役立たない指示書が少なくないようだ。日付の記載がない、日付が書かれていても何年も経っている、家族の合意が得られていない、かかりつけ医の意見が反映されていない、などがその理由だ。まずは定期的見直しを。

引用・参考資料*¹:終末期医療に関する事前指示書