腰痛が長引くのは
ストレスのせいでは?
「今日、いつもの整体院にマッサージを受けに行ったら、こんなに腰痛が長引くのはストレスのせいではって言われたけど、そんなことってあるのかしら|……」
自宅でほぼ寝たきりの母親を介護している友人からの電話です。
長引く慢性腰痛に「認知行動療法」と呼ばれるアプローチがあることをとっさに思い出し、「それはあるかもしれない」と即答しました。
彼女が母親の在宅介護を始めて、そろそろ3年になるでしょうか。
腰痛が看護師さんや介護士さんの職業病と言われるように、在宅で介護を続けている彼女も、腰に負担のかかる姿勢をとることが多く、腰痛が切実な問題になっているようです。
ときには、床に就いても腰の痛みが強くて寝つけず、「実の母とは言え、介護を放り出してしまいたいと思うことがある」と打ち明けてくれたこともあります。
その話を思い出しながら、彼女の腰の痛みには多分にストレスが影響しているだろうから、そのストレスに感じている気持ちに働きかける認知行動療法を取り入れてみるのはいいかもしれない、と思ったものです。
ストレスが関与する
慢性腰痛にメンタルケアを
彼女のように長引くつらい腰痛に悩まされている方のなかには、次のような方が少なくないのではないでしょうか。
- 整形外科を受診してみたが、原因と考えられる骨などの異常はないと言われた
- 鎮痛薬の処方を受けて飲んでいるが、痛みはいっこうに治まらない
このような原因がはっきりしない腰痛が、痛みを自覚するようになってすでに3か月以上、絶えることなく続いていると、一般に「慢性腰痛」と診断されます。
そしてこの原因不明の慢性腰痛には、大なり小なり心理的ストレスが関係していて、そのストレスが痛みの緩和を妨げている場合が多いと考えられています。
そこでこのような慢性腰痛の治療の一つとして、最近では、その人のメンタル面(精神面)に働きかける「認知行動療法的アプローチ」が取り入れられるようになっています。
認知行動療法といっても、決して難しいものではありません。
具体的な行動を通してその人の認知、つまりその人なりのものの受けとめ方やものの見方、考え方に働きかけ、そこにみられる癖のようなものを軌道修正することによってストレスを軽減し、気持ちを楽にしていこうという治療的アプローチです。
「腰痛があるからできない」との
ネガティブ思考から抜け出す
長引く腰痛のつらさに辟易している彼女と話をしていると、次のような発言が多く目立ち、腰痛があることを理由に、何もかも一切合切をネガティブにとらえてしまう傾向があることに気づかされます。
- 腰痛のせいで母の介護がうまくいかない
- 腰痛があるから美容院にもなかなか行けない
- 腰痛がなかったら母にもっとやさしくしてあげられるのに
実は私たちの脳には、痛みの緩和にかかわる神経伝達物質を分泌する機能が備わっています
ポジティブなことを考えると、「幸せホルモン」とも呼ばれるこの物質、オキシトシン*の分泌が活性化して、痛みを和らげてくれることがわかっています。
ところが彼女のようにネガティブ思考に陥っていると、痛みを和らげてくれるオキシトシンの分泌が低下してしまうのです。
結果として、腰痛がいっこうに改善されず、ネガティブ思考も進んで、ますます自分を苦しめることになってしまいます。
このようなときに、ネガティブ思考に働きかけて、そこから抜け出す手助けをしてくれるのが、認知行動療法と呼ばれるアプローチです。
興味を持って楽しめることをやってみる
彼女を例に言えば、四六時中腰痛のことばかり考えている状態から、何か別の、自分が興味を持って楽しめることを見つけ、実際にからだを動かしてそれをやってみることです。
その行動を通して、ものの考え方や受けとめ方をポジティブな方向に変えていくことで、オキシトシンの分泌を促し痛みを上手にコントロールしていこうというわけです。
認知行動療法は
専門家の手を借りて
とは言え、すでに身についている現実の受けとめ方やものの見方を変えることは、そう簡単にできることではありません。
そこで、認知行動療法に精通した精神科医や心療内科医、臨床心理士といった専門家に話を聞いてもらいながら、自分のものの受けとめ方や感じ方、考え方にどのような癖があるのかを一緒に明らかにしていくことになります。
その具体的な方法については、厚生労働省がWebサイト上のうつ病患者向けの資料「うつ病の認知療法・認知行動療法」のなかで、非常にわかりやすく説明しています。
認知行動療法を自らの慢性腰痛の治療法として受けとめることに、多少の抵抗を覚える方も少なからずいることでしょう。
しかし、「私はうつ病ではないから」などと嫌わずに、一度この資料に目を通してみることをおすすめします。
実践マニュアルも参考に
なお、認知行動療法については、わが国における認知行動療法の第一人者である精神科医の大野裕氏らにより、精神面だけでな食事や睡眠の面にも触れて、認知行動療法をかなり具体的かつ実践的に解説したマニュアル本が刊行されています。
この本、『保健、医療、福祉、教育にいかす 簡易型認知行動療法実践マニュアル』(きずな出版)を参考に、自分自身の考え方や受けとめ方の癖のようなものをみつけ、考え方やものごとのとらえ方を意識しながら変えていくのも一つの方法です。
痛みを可視化するスマホアプリ「いたみノート」
なお、痛みは本人にしかわからない感覚で、医師らにありのままを伝えて治療につなげてもらうのは容易ではありません。
そこで、痛みの起き方や変化などを記録して可視化し、客観的にあなたの痛みを理解する方法として、スマートフォン用アプリ「いたみノート」が開発されています。
この「いたみノート」を記録し、受診する際に「痛み日誌」として持参して担当医に見てもらってはいかがでしょうか。詳しくはこちらを。