ユマニチュードで認知症の家族に優しくなれる

寄り添う

認知症の夫に
優しくしているつもりなのに

認知症の家族を介護していると、何度も同じことを繰り返し聞かれたり、突然険しい顔で怒鳴られたり、何をしてもイヤだと拒否されてしまったり……。
一生懸命意を汲んでやっているつもりなのに、「どうしてほしいのよ!!」と、ついきつい言葉を口にしてしまい、後になって自分を責めたりするようなことがあるのではないでしょうか。

先に、認知症の夫を自宅で介護している知人の話を紹介しました。
認知症を発症する前のご主人は、「人生の幕を閉じるのはやっぱりこの家がいい。面倒をかけることになるだろうが、君に看取ってもらいたいと思っているから頼むよ」と折に触れて話していた、とのこと。

こうした夫の意に沿えるようにと、認知症が発症し、その後症状が徐々に進行してきてからも、彼女は懸命に夫の介護に取り組んできました。
しかし、そんな彼女も「優しい人だったのに、彼らしさが失われていくのを見ているのがつらい」「優しくしているつもりなのに険しい表情で返されるのを見るのがつらい」と、SOSを発信するようになってきたのです。

夫がアルツハイマー型認知症の診断を受けたが、本人がかねてから望んでいた在宅死をかなえてあげたい。ついては、残りの日々をこころを通わせながら過ごすにはどう付き合っていけばいいか――。こう語る友人に、ユマニチュードを紹介した話です。

ユマニチュードの方法で
自分の気持ちを伝えてみる

時折涙をぬぐいながら、つらそうに話す彼女に、私は、認知症ケアに取り組む医師や看護・介護スタッフの間で「ユマニチュード」というケア技法に関心が高まっていることを話し、そのケア方法をかいつまんで説明してみました。

ユマニチュードとは、フランスにおいて40年近く実践されてきた認知症のケア技法です。
認知症の方をケアしていると、彼女が現に経験しているように、「こんなにあなたのことを思い、よかれと思ってお世話しているのに、どうしてわかってもらえないの!?」と心の底から切なくなることがあるものです。

そんなときは、自分に相手を思う気持ちが足りないからではないかと考えがちです。
しかし、ユマニチュードは、そうではないという考え方を基本にしています。
相手のことを大切に思う気持ちが足りないからではなく、その優しい気持ちを認知症の方にしっかり伝わるように表現していないからだ、と――。

早い話がユマニチュードは、ケアのテクニックを説いているわけではありません。
認知症の方に自分の気持ちを伝える方法そのものが、ケア技術として紹介されているのです。
コミュニケーションに基づくケア技法と言いかえることもできます。

ユマニチュードが伝える
4つのコミュニケーション技法

私のざっくりとした説明から、彼女は「夫が元気だったころと同じ方法でやっていても、気持ちは伝わらないということよね」と理解したようです。
ユマニチュードを自分も是非やってみたいと言われ、認知症介護に取り組む家族向けにコンパクトにまとめられた入門書があることを伝えました。

そのうえで、たとえばご主人と気持ちを通い合わせたいときは、この本の第4章にある「ユマニチュードの4つの柱」、すなわち「見る」「話す」「触れる」「立つ」を、そこに書かれているようにやってみてはどうかと提案しました。

正面から近寄り、しっかり相手の瞳を見つめながら、意識して声のトーンを落としてメロディを奏でるように話しかけ、相手に断ったうえでゆっくり腕などに触り、からだを起こすようにして立つように促す、といったかかわり方です。

このようなかかわり方によって優しい気持ちが伝わり、相手に安心感をもたらします。
この安心感により関係性が安定してくると、介護する側の気持ちも軽くなって余裕が生まれ、その余裕が認知症の本人にも伝わって表情がなごんできたり、やがては笑顔さえみられるようになってくるようです。

自分が優しくなれたら
認知症の夫も優しくなった

彼女にこの本を紹介してから、3か月ほどが経ったころです。
行きつけのスーパーで久しぶりに見かけた彼女が、以前に比べるとずいぶん穏やかな表情をしていることに気づきました。

「あら、その後どう?」と声をかけてみました。
「おかげ様で、あの本をいつも手元に置いて、時々気になるところを開いては読み返しながら、あの4つをやっています。最近は、夫も、書かれているイラストを見て笑ったりすることもあって、いい感じで介護しています」と、嬉しい答えが返ってきました。

この間、彼女には、ひとりだけで頑張りすぎないように、プロの支援を受けることや介護保険のなかにある認知症デイサービスを利用することなどを、メールで提案してきました。
しかし、彼女はこれまで、もともとあまり社交的ではなかった夫のことを思い、ときどきは妹さんの助けをかりながらも、基本的には自分一人だけで介護を続けてきたようです。

「でも最近は、ユマニチュードの方法で話しかけると、それがちゃんと伝わって反応もしっかり返ってくるので、夫とその都度相談しながら、認知症のデイサービスにも行ってみようかと考えている」とのこと。
「私が優しく接することができるようになったので、夫も優しく返してくれるんだろうと思っている」と話してくれました。

在宅で認知症の夫や妻を介護していると、24時間、365日一緒に暮らしていることにより心身ともに疲労困憊の状態に陥りがち。時には介護から解放される時間を持つことがすすめられる。その一つの方法として、認知症デイサービスの利用を提案したい。