認知症の方との接し方がわかるガイドライン

認知症

認知症の方への対応で
苦慮した経験は?

街を歩いていて、あるいは立ち寄ったコンビニなどで、認知症と思しき方が困りはてた表情で立ちすくんでいる場面に遭遇したことはないでしょうか。

認知症は、65歳以上の高齢者の6人に1人が発症する可能性があると言われています。

高齢化が急ピッチで進むわが国では、家族など身近に認知症の方がいることも珍しくないでしょうから、おそらく一度や二度は、認知症の方への対応に苦慮した経験をお持ちの方が少なくないのではないでしょうか。

そんななか国土交通省は、2021(令和3)年2月、認知症の方にも公共交通機関を安心かつ安全に利用してもらおうと、「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン(認知症の人編)」をまとめ、公式ホームページで公開しています*¹。

ガイドラインでは、鉄道、バス、タクシー、航空といった公共交通機関で働いている方に、認知症の方と接するうえで基本となることについて解説しています。

それを読んでみると、あなたの家庭や職場、地域社会のさまざまな場面で応用できる内容となっていますので、そのポイントをまとめて紹介しておきたいと思います。

認知症の方が困っていることを
言葉で伝えてもらう手助けを

わが国では2019年6月、次の基本方針のもとに「認知症施策推進大綱」が策定されています。

「認知症の人が尊厳を持って認知症と共に生きる、また認知症であってもなくても同じ社会で共に生きる共生社会を目指す」

今回紹介するガイドラインは、この基本方針を受けて作られたもので、全5章で構成されています。

そのなかの第2章「基本の対応」では、認知症の方の特性や困りごとを理解することが、認知症の方と接する大前提であるとして、コミュニケーション、つまり意思を伝え合うことの大切さを強調しています。

「どんなことで困っているのか」聞いてみる

このコミュニケーションでは、たとえば「どんなことに困っているのか」を聞くのをためらっていると、つい不当な対応となり、認知症の方の心を傷つけることにもなりかねません。

そうした事態を避けるためにも、相手(認知症の方)の状況に応じて、どんな支援(手助け)が必要なのかを探る方法として、以下の6点をあげています。

  1. 目線を合わせ、ゆっくりと口の動きがわかるように話す
  2. わかったことは復唱して確認する
  3. わからないことがあれば、何度でも聞き返す
  4. 相手が「はい」「いいえ」で答えられるよう、具体的に質問する
  5. 可能であれば、書いてもらい、こちらも書く
  6. 絵を描く、筆談する、コミュニケーション支援ボードを使う、など

「はい」「いいえ」で答えられる聞き方を

このうち「4」については、とかく「何を(what)言いたいのですか?」「どこ(where)へ行きたいのですか?」「どうして(how)ほしいのですか」など、いわゆる「5W1H」、つまりwhen,where,who,what,why,howのかたちで聞き出そうとしがちです。

この訊ね方は、言葉によるコミュニケーションが難しくなっている認知症の方を、かえって混乱させることにもなりかねません。

「何か話したいことがあるのですね」とか「行きたいところがあるのですね」など、相手が「はい」「いいえ」で答えられるようなかたちで質問を重ねていくなかで、相手が自分に伝えたいと思っている言葉を思い出すように手助けをすることが大切です。

同伴者ではなく本人に話しかける

なお、この「どんなことに困っているのか」「何が必要なのか」を認知症の方に訊ねるコミュニケーションでは、往々にして話の通じる家族等の介護者や同伴者に代弁を求めがちです。

しかし、認知症の方の尊厳のためには、「何を差し置いてもまずは本人に話しかけることが基本」であるとしています。

認知症の方の
「できること」を見出す努力を

同じ章の「認知症の人の特性、困りごと等の理解」の項では、認知症という状態をとかく「もの忘れ」や「道に迷う」などのイメージだけで捉えがちであることを指摘しています。

その結果、「自分では理解したり判断したりすることができず、何もできないのではないか」と誤解して対応してしまうことが多々あるものの、「実際はそうではない」として、このように説明しています。

「認知症の症状の現れ方には多様性があり、一般的に認知症だったとしても認知機能のすべてが一気に落ちることはなく、維持できている機能によってできることはまだたくさん残されています」

この「できること」を見出して、そこにアプローチしていくことが重要で、脳の老化によってもの覚えが悪くなったり、人の名前がすぐに思い出せなくなったりするのと認知症による「もの忘れ」とは同じではないと説明しています。

つまり、「認知症の人を一律のイメージで対応することがないように心がけることが大切」だというわけです。

とはいえ、理屈ではわかっていてもそう簡単にできることではありません。

そこでガイドラインは、認知症について正しい理解を深め、適切な支援方法を身に着けるのにうってつけの方法として、「認知症サポーター養成講座」*があることを紹介しています。

*認知症サポーター養成講座:国は2005年から、認知症者との共生社会の実現を目指すキャンペーンの一環として、認知症の当事者や家族を温かく見守り、支援する応援ボランティア、「認知症サポーター」を全国で養成している。養成講座は全国各地(都道府県・市町村等自治体)で開催され、2022(令和4)年9月30日の時点で、全国の認知症サポーターは1,405万8,007人と報告されている。

認知症の方と心を通わせる
コミュニケーション

冒頭で記したように、認知症の方が困っている場面に遭遇することも多々あることでしょう。

そんなときは、「驚かせない」「急がせない」「自尊心を傷つけない」の3原則に則ったコミュニケーションを基本に、以下を心がけるように促しています。

  1. 特別視をせず、一呼吸おいて
    こちらが緊張していると、その緊張感が相手に伝わり動揺させてしまう。まずは自らがリラックスし、自然体で接する
  2. まずは見守り、余裕を持って対応する
    さりげなく様子を見守り、必要に応じて声をかける。その際は、いきなり声をかけて動揺させないように、余裕をもって接する
  3. 声をかけても不安な様子がうかがえる場合
    いきなり声をかけて恐怖を感じさせ、パニックに陥れないように、1人で静かに声をかけ、落ち着ける場所へ誘導して不安を取り除く
  4. 本人の視野に入る場所から、目線を合わせて声をかける
  5. ゆっくり、簡潔に、はっきりした話し方を
    いくつもの問いかけを立て続けにして混乱させないように、相手の反応を見ながら会話を進める
  6. 相手の言葉に耳を傾けて、ゆっくり対応する
    認知症の方はせかされるのが苦手であることを忘れず、相手の言葉をゆっくりと聞きながら、「何をしたいのか」「何をしてほしいのか」を推測しつつ確認する

表情や視線、態度も気持ちを伝えるシグナルに

なお、認知症の方と意思の疎通を図っていくうえで、こちらから送り出すシグナル、特に「笑顔」に象徴される表情や視線が役立っていることが、研究により確認されています。

認知症の方と接するときは、努めて穏やかな態度とやわらかい表情を保つことを心がけたいものです。

認知症症状が進むにつれ意思の疎通が難しくなってくると、ともすれば「認知症だから」と諦めがちではないだろうか。しかし症状が進んでも相手の表情を読み取る能力は残っているケースが多いことが研究で明らかにされている。穏やかな態度と笑顔で接する心がけを。

参考資料*¹:国土交通省「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン(認知症の人編)」