新型コロナウイルスの感染と嗅覚・味覚異常

ワイン

嗅覚や味覚の変化は
新型コロナウイルス感染のサイン?

プロ野球・阪神タイガーズの藤浪晋太郎投手が新型コロナウイルスに感染したと、代理人を通じて発表されたのはつい先日のことでした。

友人たちとの会食の席で、いつものコーヒーを飲んだところ、
「香りがしないし味も感じなかった」とのこと。
もしやと思い新型コロナウイルスのPCR検査を受けたら、陽性反応を示した――。

自らのこの経験を、新型コロナウイルスの早期発見に生かしてもらえたらと、
「発熱や咳などの症状がないから自分は感染していないと安心しないでほしい」
と、広く一般に呼び掛けたのでした。

メディアでこのメッセージが流れたのを機に、全国の耳鼻咽喉科外来には、
「いつも飲んでいるワインの香りが急にわからなくなった」
「食べ物のにおいも味もしない」などと訴え、
新型コロナウイルスの検査を希望する患者が相次いで訪れているそうです。

こうした事態が続けば、医療機関に同様の患者が殺到して新型コロナウイルスの感染拡大、さらには医療崩壊につながりかねない――。

こう危惧した日本耳鼻咽喉科学会は3月30日、においや味に異変を感じて受診する上での目安をまとめ公表しています。
今日は、そのポイントを紹介したいと思います。

新型コロナウイルス感染症の「相談・受診」目安は、5月8日変更されています。
新たな目安については、こちらの記事を参照してください。
新型コロナウイルスの感染を疑ったときの「相談の目安」の見直しを進めていた厚労省が、新たな目安を公表。従来の「37.5度以上」「4日以上続く」など、相談のハードルを上げていた条件が削除された。体温の変動や症状の現れ方には個人差があることが配慮されたようだ。

嗅覚や味覚に異常を感じても
いきなり受診しないで!!

日本耳鼻咽喉科学会は、広く国民向けの呼び掛けで、
「嗅覚(におい)や味覚(あじ)に異常を感じても、発熱や咳、息苦しさなどの症状がない場合は、いきなり医療機関を受診しないで、自宅で様子をみてほしい」
と、強くアピールしています。

同学会のWEBサイト上で公表している
「嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染について―耳鼻咽喉科からのお知らせとお願い」*¹
を見てみると、まずは、

「新型コロナウイルス感染症は、発熱や咳・たん、のどの痛み、体のだるさが主な症状ですが、嗅覚(におい)や味覚(あじ)が低下することも分かっています」

として、新型コロナウイルスへの感染と嗅覚や味覚に現れる異変との関係を否定するわけではないことを、明記しています。

新型コロナウイルスだけが嗅覚・味覚異常の原因ではない

そのうえで、「においを感じない」「味がわからない」といった嗅覚や味覚の障害は、
⑴ インフルエンザや風邪、さらには花粉症でも生じることがあり、
⑵ 必ずしも新型コロナウイルスだけが原因ではないこと、
⑶ 新型コロナウイルス感染症による嗅覚や味覚の障害は自然に治ることが多く、
⑷ 特効薬もない
ことを説明しています。

こうした点に理解を求めたうえで、嗅覚・味覚障害を自覚して「新型コロナウイルスに感染したのではないか」と心配になった場合の対応と注意点を以下のように示しています。

  1. 37.5度以上の発熱が4日以上(高齢者や持病のある方は2日以上)続く場合や、咳、息苦しさ、だるさがあれば、お住まいの市区町村の帰国者・接触者相談センターに(電話で)ご相談ください。
    同センターは厚生労働省のホームページ*²からも確認できます。
  2. 「におい」や「あじ」の異常を感じても、発熱や咳、息苦しさ、だるさがなければ(新型コロナウイルスの潜伏期間を考え)2週間は不要不急の外出を控えてください。
    医療機関への受診も控え、体温を毎日測定して(記録し)、手洗いもこまめにしてください。
    人と接する際には(咳エチケットを守り)マスクを着けて対話をするようにしてください。
  3. 嗅覚・味覚障害の治療は急ぐ必要はありません。自然に治ることも多いのでしばらく様子を見てください。
    (嗅覚・味覚障害に)特効薬はありませんが、2週間経っても発熱などの症状がなく嗅覚や味覚異常が改善しない場合は、耳鼻咽喉科外来を受診してください。

(引用元:日本耳鼻咽喉科学会WEBサイト*¹)

風邪などによる鼻づまりで
においを感じなくなる理由

そもそも私たちの鼻、といっても外観で見える鼻ではなく、鼻の穴、正確には鼻腔(びくう)は、においをかぎとる、つまり嗅覚をつかさどる感覚器官であると同時に、呼吸をする際の吸い込んだ空気(吸気)の取り入れ口であり、かつ吐き出す息(呼気)の排出口でもあります。

この鼻腔の奥深く、脳に接している天井のごく一部には「嗅上皮(きゅうじょうひ)」と呼ばれる特別な粘膜があります。
私たちは、そこでにおいを感じとっているわけです。

インフルエンザや普通の風邪、あるいは花粉症にかかると、鼻腔内の粘膜が腫れて、鼻がつまった状態となり、空気が通わなくなる、つまり鼻呼吸がしにくくなります。
その結果として、つい口を開けて呼吸をしてしまう、といった経験はないでしょうか。

このような鼻づまりの状態になると、
「においを含んでいる空気が鼻腔内の嗅上皮の部分に届きにくくなりますから、においも感じにくい、あるいはまったく感じなくなってしまうわけです」
と説明してくれたのは、懇意にしていただいている耳鼻咽喉科の医師です。

風味を醸し出すうえで
嗅覚と味覚は密接に関係している

さらに、今日のテーマであり、現時点で最も関心が高まっている新型コロナウイルス感染症と嗅覚障害の関係については、
「ウイルスによるひどい炎症が原因で嗅上皮粘膜そのものがいたんでしまい、においを感じなくなるといったことも、当然起こり得ます。ですからこの時期、においを感じなくなったから新型コロナウイルスに感染したのではないかと、心配される気持ちはよくわかります」
と不安を感じることに理解を示したうえで、こう説明してくれました。

「ただ、どうでしょう。においがわからなくなるほどの強い炎症が鼻腔内で起きているなら、炎症反応として、発熱とか、咳が出る、のどが痛い、体がだるいといった症状も当然出てくるはずです。そういった症状がないのであれば、慌てて病院に駆けつけて感染リスクにさらされるよりも、少し様子を見てみようと、僕なんかは考えますね」

ファーストフードの摂りすぎによる味覚障害も

また、味覚障害については、
「食べ物や飲み物の風味、つまり香りや味わいを感じるうえで、嗅覚と味覚は非常に密接に関係し合っています。ですから、仮に舌の表面や口腔内の粘膜にある味蕾(みらい)と呼ばれる味を感じとるセンサーが正常に働いていても、鼻づまりなどにより嗅覚に異常があり、食べたり飲んだりしている物のにおいをかぎ分けることができないと、いつものような風味がないとか、味が違う、あるいは味がわからないといったことになってしまう」のだそうです。

また、感染症とはまったく関係なく、毎日の食事がファーストフードなどに偏り過ぎると、味覚障害が起こることもあります。
不要不急の外出自粛による「巣ごもり」生活で、いつもよりファーストフードが多くなっているという方は、こちらの記事を読んでみてください。

味覚異常を自覚する高齢者が増えている。原因として多いのが亜鉛不足だ。亜鉛を含む食材は多く、普通に食事ができていれば不足する心配はないのだが、食が細くなったり、胃腸機能が低下して消化吸収が悪くなると亜鉛不足から味覚障害へとつながりやすい。その対策は……。

英米の団体が注意喚起するも
WHOは因果関係を調査中

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、パンデミック(世界的な大流行)の状態にあるとされるなかで、この感染症の初期症状の一つとして嗅覚・味覚障害が認められることがあるとする報告は、世界各地で相次いでいます。

たとえば英国の耳鼻咽喉科学会は声明で、韓国や中国、イタリア、さらにはドイツでも、新型コロナウイルス感染者の多くが嗅覚の異常を訴えていると指摘したうえで、
「新型コロナウイルスの感染との因果関係は証明されていないものの、ウイルス検査の対象にこれらの症状も加えるべきだ」とアピールしています。

米国の耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、「裏づけには乏しいが、新型コロナウイルスに関連した症状として嗅覚や味覚障害の報告が急激に増えている」と認めています。

海外のこうした声明や提言を日本のメディアが大々的に報じていることもあり、嗅覚や味覚の異変に敏感になってしまう気持ちもわからないではありません。

こうした事態にWHO(世界保健機関)は、各国からこの種の報告があることを認めたうえで、嗅覚や味覚の異常が新型コロナウイルス感染症の初期症状の1つなのかどうか調査を進めている段階で、科学的なエビデンスはまだ得られていないとしています。

嗅覚や味覚の症状だけでは原因を
新型コロナウイルスとは断定できない

日本でも、たとえば国内で30人以上の新型コロナウイルス感染症の患者を治療してきた国立国際医療研究センター病院の忽那賢志(くつな さとし)医師は、嗅覚や味覚の異常について尋ねたNHKの取材にこう答えています。

「これまで治療に当たった実感としては、嗅覚や味覚の異常を訴えた患者はいましたが、特徴的な症状というには数が少ないと感じています。こうした症状は通常の風邪やインフルエンザなどの感染症でも起こり得るものです。嗅覚や味覚に症状があるからといって、それだけでは新型コロナウイルスの感染症とは判断できないと、現時点では考えています」

においや味の感じ方がいつもと違うことが気になっている方は、まずはかかりつけ医にその旨を電話で相談してみてはいかがでしょうか。

かかりつけ医がいないという方は、冒頭で紹介した日本耳鼻咽喉科学会による受診の目安を参考にされたらいいと思います。

参考資料*¹:厚生労働省 帰国者・接触者相談センタ
参考資料*²:日本耳鼻咽喉科学会WEBサイト