痛みの緩和に使う「医療用麻薬」は安全です

やすらぎ

「医療用麻薬」への誤解から、
がんの痛みを我慢していませんか

日本人の2人に1人が生涯に一度はがんを経験するといわれる時代です。

自らのいのちの終わり方について事前の意思を明らかにしていくうえで、「がんの痛みをやわらげるのにどのような治療を望むか」という課題が避けて通れない方は、かなりの数にのぼるのではないでしょうか。

緩和ケア技術の急速な進歩により、がんに伴う痛みをはじめとする苦痛は、今や90%以上取り除くことができるようになっています。

とりわけ「医療用麻薬」として知られるモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどが、がんの痛みの緩和に果たしてきた役割は大きく、今では安全かつ有効な国際標準のがん疼痛治療薬として、世界中で使用されています。

ところが、緩和ケアの専門医たちを取材していると、医療用麻薬を使うことには、「麻薬中毒になる」とか「死期を早める」といった誤解がいまだ根強く残っていて、「麻薬だけは使いたくない」などと言って、つらい痛みを我慢している人が依然として少なくないという話をよく耳にします。

「医療用の麻薬」は
一般の危険な麻薬とは違う

たとえば医療用モルヒネはアヘン(阿片)からつくられる「医療用麻薬」です。

「麻薬」という言葉から、「中毒」とか「習慣性」あるいは「依存性」ということを連想して、これを使っていると麻薬中毒になり、やがて人格が損なわれてしまうのではないか、という誤解につながりがちです。

実際、緩和ケア医によれば、普通の鎮痛薬だけでは対処しきれない痛みで苦しむがん患者に医療用麻薬の使用を提案すると、「それって麻薬ですよね。だったら、薬が切れると手が震えたり、大声を出して騒いだりするようなことになるのでは……」と心配して、使用を躊躇する方も珍しくないそうです。

なかには「ああ、もうそんな薬を使わないと対処できないほど、がんが進行しているということですか」と、がっくり気落ちしてしまう方もいるとのこと。

しかし、いずれの受け止めも、完全なる誤解です。

医療用麻薬は
「医者泣かせの薬です」

がんの痛みのコントロールに医療用麻薬が使われるようになったのは、世界保健機関(WHO)が1986(昭和61)年に「がん性疼痛撲滅作戦」として、がんの痛みの治療指針を打ち出したことが始まりです。

この作戦で提唱されている治療方法は、「3段階除痛(じょつう)ラダー」と呼ばれています。ラダーとは「梯子(はしご)」のことです。

痛みを取り除く鎮痛薬を、弱い作用の薬から強い作用の薬へと、痛みの強さに合わせて梯子を昇るようなステップで慎重に進めていく治療方法を、WHOは奨励しているのです。

ですから、医療用麻薬を使うか使わないかは、がんの進行状況によって決められるわけではありません。あくまでも痛みの強さで判断されるのです。

それと、多くの人が心配する「麻薬中毒」について緩和ケア医に質問すると、「医師の指示どおりに適正に使っていればその心配はない」という答えが必ず返ってきます。

ごもっともな答えなのですが、実は「医師の指示」というところが現状では大事なのかなと思っています。

というのは、医療用麻薬は通常の薬と違って「医者泣かせの薬です」と、緩和ケア医が話してくれたことがあります。

その理由は、たとえば飲酒がいい例です。

個々の体質によって、また同じ人でもその日の体調や一緒に飲んでいる仲間や飲む場所により酔い方が異なるのと同じで、患者によって、またその患者の痛みの度合いや体調により、使用すべき医療用麻薬の量が微妙に違ってくるからです。

結論を言えば、医療用麻薬の処方に熟知した医師に出会えるかどうかが、医療用麻薬を安全かつ効果的に使う重要な鍵であると同時に、がんの痛みから解放されるか否かを決めるとも思うのですが、いかがでしょうか。

なお、緩和ケアを安心して受けられる医師に関する話はこちらで書いていますので読んでみていただけたら嬉しいです。

緩和医療・ケアの進歩により終末期に経験する苦痛は高い確率で緩和できるようになっています。ただ、より高い安全性と有効性を望むには、その治療・ケアを託す人の選択が重要になります。この選択にお役に立てる情報をまとめてみました。