究極の緩和ケアとしての終末期セデーション

一杯のレモンティーで安らぐ

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終末期セデーションで
誤解を招いたドラマシーン

先にこちらで紹介した『やすらぎの郷』というテレビドラマにまつわる話の続きです。友人の訪問看護師さんを悩ませたのは、登場人物の一人、芸能界のドンと呼ばれてきた織本順吉さんが演じる男性が亡くなっていくシーンでした。

このシーンを見た末期がんで在宅療養中の男性から、「あのドンのように楽に逝かせてほしい」と懇願され、どう答えたらいいものか困り果ててしまった、というのです。

多くの看護師が懸念したこと

実はこのドラマは、「患者さんとして接しているだけではなかなか見えてこない高齢の方の意外な側面を知ることができる」とか「患者理解が深まり、日々の看護に役立つ」などの理由で、結構多くの看護師さんが視聴していました。

放映は日中で多くの看護師さんは勤務中でしたから、録画をしておき、勤務を終えてから見ているという看護師さんが少なからずいて、「なんと仕事熱心な」と感心させられたものです。

あのシーンを視聴したという数人の看護師さんからも、「あれではドラマを見ている一般の方に、私たちの国でも安楽死が容認されているような誤解を与えてしまうのではないかしら」と、懸念する声があがっていました。

究極の緩和ケアとしての
終末期セデーションでは?

この懸念が現実のものになってしまい、対応に苦慮した訪問看護師さんは、担当の訪問医にことの経緯を説明して、患者さんにどう説明したらいいものか相談しました。

あいにく担当医は、『やすらぎの郷』を見ていませんでしたから、担当医には、彼女の勤務先である訪問看護ステーションに出向いてもらい、録画してあったドンの最後のシーンがある第122話を見てもらったそうです。

ビデオでドンの最期のシーンを見た担当医は、「うーん」としばらく考え込み、まずこう言ったそうです。「確かに、素人目には安楽死に見えるだろうから、とっさに聞かれたら答えに窮するよね」

一呼吸おいて、こう続いたと言います。「僕だったら、この国では安楽死ということはあり得ないから、ドンの逝き方は、おそらく緩和ケアの最終手段として行われる終末期のセデーション*ということを想定しているのではないでしょうか、と説明すると思いますよ」

*終末期のセデーション(鎮静)と安楽死の違いについては、厚生労働省の研究班が、目的としては「苦痛の緩和 vs. 患者の死亡」、方法では「苦痛が緩和されるだけの鎮静薬の投与 vs. 致死性薬物の投与」、および成功した場合の結果では「苦痛緩和 vs. 患者の死亡」の3点において異なると説明している。

終末期セデーションは
緩和ケアの最終段階として

「セデーション」とは、一般の方にはあまり聞きなれない言葉でしょうが、日本語で言えば「鎮静(ちんせい)」です。

手術時などに受ける麻酔のように意識を完全に無くしてしまうのではなく、意識をある程度保ったままで苦痛を完全に取り除きたいときに、そのための薬物を使って行われます。

たとえば特殊な内視鏡検査を受けたことがある方は、このセデーションを経験しているのではないでしょうか。

内視鏡検査でも使われるセデーション

ただ、内視鏡検査のような場合に行われるのは、ごく浅い鎮静、つまり内視鏡を入れる際の、また検査中の苦痛を和らげるためのセデーションです。

そのため、意識レベルが低下する度合いは「名前を呼べば目を覚ます」程度です。しかも、このときの鎮静は一時的なもので、検査が無事に終わって少し時間が経てば、患者さんの意識は元に戻り、普通に会話することもできます。

薬で眠ることでしか苦痛を和らげることができないとき

一方、担当医が言うところの緩和ケアの最終段階としての「終末期セデーション」は、「薬で眠ることでしか今ある苦痛を和らげることができない」と医師が判断した場合にのみ、選択される方法です。

これには深い鎮静が必要で、このセデーションを行えば、患者さんの意識レベルはかなり落ちます。具体的には、患者さんと言葉を交わすこと、いわゆるコミュニケーションが難しくなり、多くの場合そのまま死へと向かうことになります。

そのため終末期セデーションは医療者サイドの判断だけで行えるものではありません。

終末期セデーションには患者・家族の同意が不可欠

患者さん本人とご家族の意思を確認するためのインフォームドコンセント(説明と同意)が行われることが大前提となります。

つまり、患者さんサイドは、医療者サイドからの十分な説明を受けたうえで、これから自分に行われようとしていることを正確に理解し、納得して同意するというプロセスが求められることになるのです。

この点については、痛みをはじめとする苦痛緩和に関する事前指示について書いているこちらでふれていますので、是非ご覧ください。

なお、こんな本も参考にしていただけるのではないでしょうか。