認知症の発症&進行を遅らせるためにできること

脳の健康

認知症予防の日に
認知症について考える

毎年6月14日は「認知症予防の日」です。この日は、高齢者の認知症の原因の上位を占めるアルツハイマー病を発見した医学者、アロイス・アルツハイマー博士の誕生日であることから、日本認知症予防協会(事務局:北九州市)が命名したものです。

「認知症予防」とありますが、現代の医学では「認知症にならない」という意味での予防方法はありません。また根本的な治療法も、残念ながら今のところ確立されていません。

認知症の発症を遅らせ、進行を緩やかにするのが「予防」

そのため国が2019年6月18日に制定した「認知症施策推進大綱」では、「認知症予防」を次のように説明しています

「認知症予防とは、認知症にならないという意味ではなく、認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにするという意味である」

こうした意味での認知症予防、つまり「認知症になるのをある程度遅らせたり、進行を緩やかにする」方法については、すでにかなりのところまでわかってきています。

そこで今回は、そのわかってきたことのなかで、誰もが心がけ次第でできること、あるいは日々の生活に比較的容易に取り入れることのできる方法をまとめておきたいと思います。

聴覚や嗅覚の異常には
早めに対処する

脳の健康は体の健康状態、とりわけ病的変化により大きな影響を受けます。とくに影響を受けやすいのが感覚器、なかでも聴覚のダメージです。

聴覚が障害されて「耳が遠くなる」と、脳への情報をうまく取り込めなくなりますから、脳への刺激が少なくなります。そのまま刺激の少ない状態が長く続くと、脳を衰えさせ、認知症につながりやすいことが確認されています。

「耳が遠くなった」と感じたり、家族から「テレビの音が大きすぎる」と繰り返し指摘されるようになったら、難聴を疑って補聴器相談医に相談するなり、早めの対処をお勧めします。

加齢性難聴は、高齢者に限らない。早い人では50代から始まり、75歳を過ぎると7割以上が「聞きとりにくさ」を自覚しているとのこと。放置していると認知機能の低下から認知症につながるリスクもあるだけに、早めに「補聴器相談医」に相談して補聴器の導入を。

脳への刺激が少なくなるという意味では、嗅覚(においを感じとる力)の低下も「認知症の前触れ」と言われています。

幸い、嗅覚にかかわる神経細胞には強い再生能力があります。「においがあまりわからなくなった」とか「味がわかりにくくなった」と感じたら、「においトレーニング」によってにおいを取り戻すことで、認知症の発症を予防する効果が期待できます。その方法はこちらで。

歳を重ねるにつれ嗅覚は徐々に低下し、60歳を境にその低下は急激に進むという。その結果、食事の味がわからなくなる、料理を焦がしてしまう、等々の弊害があるが、最も気になるのは認知症との関係だ。幸い嗅覚はトレーニングにより取り戻せる。その方法は?

前歯で噛むことや
ウォーキングを習慣化する

感覚器官ではありませんが、歯の健康状態も認知症に関係します。特に健康な前歯でものを噛む回数が増えると、その刺激が脳への血流を増やして脳の活動を活性化させることが研究で確認されています。

コロナ禍により長く続いた自粛生活により、物忘れが多くなったと嘆く友人に、意識して前歯を使うことを促した。その根拠となる研究を紹介する。物を噛むときに奥歯だけでなく前歯も使うと、脳の最高中枢、前頭前野への血流がアップすることが実証されている。

体をよく動かすことも脳の活性化につながります。特に脳に直接的な好影響をもたらしてくれるのが、ウォーキングやジョギングです。

最近の研究で、ウォーキングなどで足が地面に着地するときに骨に加わる刺激が脳に伝わり、脳機能を活性化させることが確認されています。体とともに脳も若返るということです。

有酸素運動の代表格であるウォーキングやジョギングに意外な効果を期待できることが確認されている。着地したときにかかとにかかる衝撃が脳に伝わり、脳機能を高めるというのだ。衝撃を体の一部分に集中させないためには正しいフォームと衝撃に負けないシューズを。

「楽器を弾く」「絵を描く」など
頭と手を使う趣味をもつ

「手は外部の脳である」とは、ドイツの哲学者、カントが残した有名な言葉です。手は脳の出張所であるから手を動かすことは脳を動かすこと、脳を刺激することであり、これが脳内の血流アップにつながるというわけです。

特にピアノをはじめとする楽器の演奏では、手の指を細かく動かしますから、脳全体の働きを活性化させ、アルツハイマー型認知症の予防効果が期待できるとされています。

哲学者のカントによれば「手は外部の脳」とのこと。手を動かすことは脳を使うことであり、脳内細胞の活性化、血流アップにつながるというわけだ。これを認知症予防に生かさない手はない。80歳でピアノを習い始めた知人の話、ぬり絵の話等々を紹介する。

それと、これは認知症治療やケアの現場ではすでに20年以上の実績があることですが、「絵を描く」「創作物をつくる」など、楽しみながら創作に夢中になれる時間をもつことも脳を元気にしてくれます。いわゆる「臨床美術」です。

「臨床美術」をご存知でしょうか。絵を上手に描いたり、オブジェなどを上手に作るのではなく、自らの感性を働かせて個性を表現する創作活動に集中する時間が脳を活性化させ、認知症の予防や症状の改善につながるとして人気が高まりつつあると聞き、調べてみた。

ごく最近では、犬を飼っている高齢者は飼っていない人に比べ、認知症になるリスクが40%低いことが研究成果として報告されています。

この飼育が猫では差がないとのこと。犬は一緒に散歩して運動量が増えたり、犬の飼い主同士で交流したりすることが、飼い主にいい効果をもたらしているようです。

認知症予防策として見逃せない研究結果が報告された。犬を飼っている高齢者は飼っていない人に比べ、認知症になるリスクが40%も低かったというのだ。犬との散歩などによる運動量の増加や飼い主同士の交流が、健康維持によい効果をもたらしているとのこと。

以上の他にも、脳の働きを活性化して、認知症の発症を遅らせたり、仮に認知症になっていても進行を緩やかにすることが期待できる方法は多々あります。

アルツハイマー型認知症が少ないことで知られるインド人の食生活に、そのヒントを探ってみるのもいいでしょう。

また、脳細胞にとって貴重なエネルギー源であるブドウ糖(果糖やショ糖ではない)をたっぷり補給してあげることも、脳を疲れさせないためには必要です。特に「脳にいいから」とオメガ脂肪酸のサプリメントを常用している方は、そのサプリメントがしっかり脳に取り込まれるためにも、ブドウ糖のコンスタントな補給は大切です。

便秘気味の方は便通の改善も

もう1点、国立がん研究センターの研究チームによる最近の研究では、排便習慣(排便頻度と便の硬さ)が将来の認知症発症に関連していることが確認されています。

「腸脳相関」という言葉があるように、腸と脳の働きは相互に密接に関係していて、排便の回数が少なく、便が硬くて便秘気味の人ほど、将来認知症になるリスクが高いというのです。詳しくはこちらを参照されて、便通の改善にも努めることをお忘れなく。

認知症予防と言えば「脳活」だ。しかし、国立がん研究センター研究チームの最近の報告によれば、便通の改善、つまり「腸活」も大事だと実感させられる。排便習慣と認知症の発症にただならぬ関係があることが、大規模な疫学調査で実証されている。その紹介を。

認知症予防についてはこの先も順次紹介していきますが、まずは無理なくできることを取り上げてみました。できそうなことから、順次挑戦してみてください。

参考資料*¹:認知症施策推進大綱