難聴は認知症のリスク因子、早めに補聴器を

補聴器

高齢者の難聴は
認知機能の低下を招く

高齢者に多い加齢性難聴(かれいせいなんちょう)は、両方の耳が長い時間をかけて徐々に聞こえが悪くなってくるのが特徴です。

この状態を放置しているとますます聞きとりにくくなって他者との会話がスムーズにいかなくなりますから、どうしても閉じこもりがちになってしまいます。

結果、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)そのものが低下してくるうえに、認知症につながるリスクがあることがかねてから指摘されています*。

この点を重視し、2015(平成27)1月に策定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、高血圧や糖尿病などと並び、「難聴」も認知症発症の危険因子であるとして、早期の適切な対応を求めているほどです。

あなた自身の認知症のリスクを軽減するためにも、
「どうも最近聞きとりにくくなっている」、
「家族などからテレビの音が大きいことをよく指摘される」という方は、
難聴を疑い、かかりつけ医に相談するか、耳鼻咽喉科を受診して、まずは聴力検査を受けてみることをおすすめします。

*国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの研究グループは、難聴があると認能機能の低下の合併が1.6倍多いことを研究結果として発表している*¹。

難聴者率は欧米人と大差ないが
補聴器使用率は半分以下

何十年と歳を重ねれば、身体のあちこちに不具合が生じてくることが避けられません。

耳についていえば、徐々にながら両方の耳の「聞きとり」機能が劣化してきます。
いわゆる「加齢性難聴」です。

日本補聴器工業会は、難聴の診断を受けている、または診断を受けているわけではないが、おそらく自分は難聴だと思っているという、いわゆる「難聴者」を対象に補聴器使用に関する調査を実施し、その結果*²を公表しています。

これによれば、2018(平成30)年3月時点で、日本の難聴者率は11.3%(75歳以上では39.2%)で、日本同様に高齢化が進む欧米諸国と大差ない結果となっています。

補聴器使用者は難聴者の14.4%にとどまる

ところが、難聴者の「聞きとり」機能を補強する医療機器の一つ、「補聴器」の使用率となると、欧米各国と日本とでは大きな差が見られます。

具体的な数字で言うと、欧米諸国では難聴者の30~40%が補聴器を使用しています。

ところが、日本の使用率は難聴者のわずか14.4%、65歳以上の難聴者に限ってみても16.8%と、欧米の半分以下にとどまっているのです。

この調査では、補聴器使用者に補聴器の満足度を尋ねているのですが、この点においても大きな違いが見られます。

他国が70~80%と高水準で「満足」と回答しているのに対し、日本では38%(大変満足、満足、やや満足)と半分程度の評価にとどまっているのです。

加齢性難聴は50歳頃から
自分では気づきにくい

超高齢化社会に突入したわが国の補聴器使用率が、同じく高齢化が進む欧米諸国と比較してみると、世界的にもワーストクラスに属するというのは、いったいどうしてなのでしょうか。

加齢性難聴については、「老人性難聴」と呼ばれることもあるように、一般に、高齢者に起こることとして理解されています。

ところが実際は、早い人では50歳頃から始まっているのです。

その後、65歳前後になるとほぼ半数、そして後期高齢者と呼ばれる75歳以上になると7割以上の人が、自分では難聴を疑ってはいないものの、普通に生活するなかで「聞きとりにくさ」「聞こえにくさ」を自覚しているようです。

別件で取材した際に耳鼻科医からたまたまこの話を聞き、加齢性難聴の症状が出てくるのが思いのほか早いことに、とても驚いたものです。

これほど多くの人が「聞くこと」に不便を感じているにも関わらず、補聴器を使っていない人がこんなにも多いという――。

この背景には、難聴が痛みのような苦痛を伴わないために、自分ではなかなか気づきにくいという問題があるようです。

こんなときは難聴が疑われる

そのため、以下のような変化を家族などから指摘されて、初めて自分の難聴を認識するようになるケースが多いのだそうですが、あなたはいかがでしょうか。

  • 人と話していて聞き返すことが多くなった
  • 聞き間違えることが多くなった
  • 話す声が大きくなった
  • テレビのボリウムを上げ過ぎて、音が大きすぎると言われるようになった

「聞きとりにくさ」を感じたら、
「補聴器相談医」に相談を

先の研究グループは、難聴による認知機能の低下について、補聴器の使用者と未使用者に分けて比較する調査も行っています。

その結果、適切に補聴器を導入することが認知症の発症リスクを低下させる可能性があることを確認できたことも発表しているのです。

補聴器は、最近では、街のメガネ店や補聴器販売店などから、またネット通販でも簡単に手に入るようになっています。

しかし、補聴器は「医療機器」です。

医療機器には、使用上の有効性や安全性を確保するために厚生労働省が定めた一定の基準があり、使用にあたってはその基準をクリアすることが求められています。

補聴器は難聴の程度に応じたものを

補聴器で言えば、ただ音を大きくして聞こえをよくすればいいというものではありません。

医師の診断に基づく処方のもとに、使う人の耳の状態、正確には難聴の程度や聞こえ方の特徴などに合わせて音の増幅(音を大きくする)方法を調整し、その人独自の補聴器を作り上げていきます。

幸い私たちの国では、聞きとりに問題を抱えている人が、正しい診断のもとに有効な補聴器を適正に選択して使用できるようにと、日本耳鼻咽喉科学会が一定の資格を満たした「補聴器相談医」の認定制度を設けています。

その有資格者のなかで、所属する医療機関から氏名を公表することに了解が得られた補聴器相談医の名簿*³が公開されていますので、これを活用してみてはいかがでしょうか。

補聴器購入費用が医療費控除の対象に

なお、補聴器の購入費用については所得税法施行令により、2018年4月からは医療費控除の対象となっています。

ただし、控除を受けるにはいくつかの条件があります。

その一つに、
「耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医の診察を受け、所定の書類の発行を受けてから補聴器を購入すること」があります。

その手続きや書類については補聴器相談医が心得ておられますから、一度はその医師の診察を受けてみることをおすすめします。

医療費控除以外にも補聴器購入費の負担軽減策はあります。
詳しくはこちらの記事を参照してください。

→ 補聴器購入は保険適用外だが負担軽減策はある

補聴器使用に抵抗のある方へ

補聴器については「少々聞こえにくいけど、補聴器を使うのは大げさすぎる」とか、「私はまだ補聴器を使うほど年をとっていない」ことなどを理由に、補聴器を使うことを敬遠する高齢者が少なくないと聞きます。

そういった方のために、最近は、小さな音を大きく増幅させて聞こえをよくする「集音器」が各種開発されています。

ただし、集音器は医療機器ではなくあくまでも音響機器ですから、補聴器のように使う人の難聴の度合いに合わせて音響を微妙に調節することはできないことを承知しておいてください。

そのため集音器の購入に医師の処方は必要ないのですが、安心・安全のためには、耳鼻咽喉科を受診し、「まずは集音器で様子を見たい」旨を相談してみることをおすすめします。

集音器についてはこちらの記事も読んでみてください。
→ 補聴器に頼るほどではない軽い難聴に集音器を

参考資料*¹:国立長寿医療研究センターもの忘れセンターWebサイト「ニュース&トピックス2020/12/1」
参考資料*¹:JapanTrak 2018 調査報告
参考資料*²:日本耳鼻咽喉科学会認定「補聴器相談医」名簿