「肉好き」に健康長寿の方が多い理由は?

牛ステーキ

赤身の肉に豊富に含まれる
カルニチンと健康長寿

健康上の理由で日常生活が制限されることなく90歳、場合によっては100歳を超えてもなお元気に過ごしている健康長寿の方には、肉好きが多いという話をよく耳にします。

その代表と言えるのが、100歳を超えても臨床医として患者のベッドサイドを訪れては診療を続けていた日野原重明医師でしょう。

2017(平成29)年7月18日に105歳で逝去されましたが、日野原医師が折に触れて語っていた健康長寿の秘訣の1つが、「週に2、3回は、夕食に100g前後の牛のステーキを食べている」ことでした。詳しくはこちらを。

105歳で昨年逝去された日野原重明医師は、取材の都度、健康長寿を全うするための秘訣を話してくれました。そのひとつが足腰を鍛えて「自分の足で歩くこと」。そのためには、筋肉の健康に欠かせない良質のたんぱく質を十分撮ることだと……。

2021(令和3)年11月9日に99歳で大往生を遂げられた瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)さんも、僧侶でありながら大の肉好きで、亡くなる直前まで毎日のように牛のステーキやすき焼きを平らげていたそうです。

お二人が好んで食していた肉に含まれるアミノ酸などは、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの材料になりますから、脳の活動には必須の食材です。

加えて、とりわけ牛肉のような赤身の肉には、「カルニチン」と呼ばれる栄養素が豊富に含まれています。

肉好きの方に健康長寿を全うされている方が多いのは、「どうもカルニチンに理由があるようです」という話を、ごく最近、懇意にしていただいている内科医から伺いましたので、今日はその話を書いておきたいと思います。

体内におけるエネルギー産生に
カルニチンが欠かせない

カルニチンは、体内でつくられるアミノ酸の一種です。

一般に筋肉と呼ばれている骨格筋や心臓のポンプ機能をつかさどっている心筋などの筋肉細胞をはじめとして、私たちの体のすべての細胞に存在し、生命活動のもととなっているエネルギーをつくりだすうえで、他の栄養素では代替できない重要な役割を担っています。

特に体内における脂肪の燃焼に欠かせない存在で、脂肪の燃焼を促進させて太りにくくするというカルニチンの働きは、ダイエット効果を期待する方の間でもちょっとした人気になっていると聞きます。

加えてカルニチンには、加齢とともに衰えがちな神経細胞の働きを維持したり、老化による脳機能の衰えを改善する効果もあり、年齢に関係なく、私たちが健康で生活していくうえで欠かせない栄養素です。

カルニチンが不足すると
疲労感や倦怠感から閉じこもりがちに

カルニチンは、若いうちは、栄養バランスのよい食事をきちんと摂ってさえいれば、体に必要なだけの量が体内でつくられるため不足することはありません。

しかし、年齢を重ねるにつれてカルニチンの産生が追いつかないようになり、体内のカルニチン量は徐々に減っていってしまいます。

体内にカルニチンが不足すると、筋肉で十分なエネルギーがつくられなくなります。

その結果、筋力が低下して運動能力が低下したり、疲れやすさや強い倦怠感(けんたいかん)、つまり体のだるさを自覚して閉じこもりがちになりやすいようです。

心筋も衰えてきますから、心機能の低下により動悸や息切れに悩まされることもあれば、末梢に血液が届きにくくなって、手足の指先が冷えたりもします。

このような状態を防ぐには、50歳を過ぎた頃から、毎日の食事でカルニチンを多く含む食品を意識して摂るようにすることが大切です。

しかも、カルニチンは体内に溜めておくことができませんから、毎日コンスタントに摂り続ける必要があります。

カルニチンが多く含まれるのは
赤身の肉や赤身の魚

カルニチンは、赤身の肉やかつおのような赤身の魚、鶏肉、牛乳といった動物性の食品に比較的多く含まれています。

ひじきやキクラゲのような色の黒い食品や小松菜などにも含まれているのですが、やはり多いのは肉類です。

しかも、同じ肉類でも肉の色が赤ければ赤いほどカルニチンの含有量が多く、とりわけ牛肉にはカルニチンが多く含まれています。

牛ステーキや牛肉のすき焼きを好んで摂っておられたという日野原医師や寂聴さんが健康長寿を全うされた理由がわかるような気がします。

牛肉なら「ランプ」や「モモ」「ヒレ」を

ちなみに、同じ牛肉でも部位によってカルニチンの含有量は異なります。

いわゆるサシ(赤身と赤身の間の脂肪)の入っていない、ランプ(腰からモモにかけての部位で、ステーキやソテー、たたきによく使われる)、モモ(ラウンドステーキやローストビーフ、煮込み料理によく使われる)、ヒレ(サーロインと呼ばれる背肉の内側にある、シャトーブリアンにはここの肉が使われる)にはカルニチンが多く含まれています。

なお、どこでも簡単に手に入る食材ではありませんが、ジンギスカンに使うような「マトン」と呼ばれる生後1年以上の羊の肉や「ラム肉」と呼ばれる生後1年未満の仔羊の肉には、牛肉以上のカルニチンが含まれています。

羊の肉については、「グラス臭」と呼ばれる草の匂いがするのを嫌う方が多いようですが、ペッパー(香辛料)などを上手に使って匂いを消して試してみてはいかがでしょうか。

カルニチンは三度三度の食事から

なお、カルニチンの補給をサプリメントに頼る方も少なくないようですが、サプリメントや健康食品の摂りすぎは深刻な健康被害につながるリスクがあり、日本医師会もホームページで警告を発しています。

まずは毎日、三度三度の食事をきちんと摂ることです。

食事が思うように摂れないなどの理由で、やはりサプリメントや健康食品を使いたいというときは、かかりつけ医などに相談することをおススメします。

サプリメントの摂りすぎを警告するメッセージを、日本医師会が発信しています。特に高齢者では、医師の処方薬と併用していると、薬本来の効果が低減して病状が悪化したり、副作用が強く出ることも。栄養補給の主役は食事であることの再確認を!!