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できれば住み慣れたこの家で、
このまま最期を……
先に、事前の意思は自分の言葉できちんと書き留めておきたいという78歳の知人女性に、『私の生き方連絡ノート』(以下、「連絡ノート」)を紹介した話を書きました。読んでいただけましたでしょうか。
⇒ 既製品ではない、自分だけの「事前指示書」を
あの日から5日ほどが過ぎ、「あれからどうしているかな」と思っていた矢先、彼女からメールが届きました。おすすめした「連絡ノート」をすぐに購入して、書きやすい項目から少しずつ書き始めているとのこと。続いて、また重ねてのお尋ねです。
「あれこれ考えているうちに、最期を迎える場所のことが気になってきました。私としては、できれば住み慣れたこの家で人生を締めくくりたいと思うのですが、ひとり暮らしの私でも、在宅死は可能でしょうか」
そう言えば、あの「連絡ノート」には、「最期を迎える場所」の選択に関する項目はなかったなあ、などと思いながらあれこれ考えているうちに、彼女の疑問に完全に答えている本があることを思い出しました。
社会学者、とりわけ女性学の研究で著名な上野千鶴子さんの『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』*¹という単行本です。
65歳以上の6人に1人が、
ひとり暮らしの時代です
この本のタイトルにある「小笠原先生」とは、2011(平成23)年4月から「日本在宅ホスピス協会」の会長を務めておられる小笠原文雄(ぶんゆう)医師のことです。
岐阜県岐阜市で開業し、訪問診療に取り組まれて25年余り。すでに1000人を優に超える患者さんを在宅で看取った経験をお持ちの医師です。しかも、そのうちの50人以上がひとり暮らしの方、いわゆる「おひとりさま」だった、と聞きます。
私たちの国では、ひとり暮らしの高齢者(65歳以上)がどんどん増え続けています。内閣府がまとめた「令和4年版高齢社会白書」を見てみると、高齢者人口に占めるひとり暮らし高齢者の割合は、1980(昭和55)年には男性4.3%、女性11.2%でしたが、2020(令和2)年には男性15.0%、女性22.1%と、男女ともに著しく増加しています。
数で言えば、男性は約19万人だったのが約230万人に、女性は約69万人から約440万人と驚くほど増え、トータルすると約671万人に至っているのです。
いのちの終わりということを考えたとき、ひとり暮らしの高齢者の頭をよぎるのは、「孤独死だけは避けたい」という思いのようです。
さらにその延長線上には、「家族がいない者が家で死ぬためにどんなサポートを受けられるのか、とりわけ医療はどんな手助けをしてくれるのか」といった、ひとり暮らしの身には避けがたい問題があることを、78歳でひとり暮らしを続ける彼女とのメールのやりとりで、強く実感させられます。
なお、小笠原医師と訪問看護師等医療チームによる在宅における看取りの様子については、NHKのオンデマンド「”おひとりさまの看取り”に取り組む医療チームと患者の絆」*²で視聴することができます。
在宅死は、十分な備えがあれば、
ひとり暮らしでも可能です
ちょっと話がそれましたが、『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』という本のなかで、「ひとり在宅死」を希望する上野さんは、小笠原医師に67の具体的な質問をしています。それはたとえばこんな内容です。
- 痛みなどの苦痛に対して、在宅でも病院と同じレベルの緩和ケアを受けられるのか
- 認知症になっても家で過ごし、そのまま最期を迎えることは可能なのか
- 家族のいない者の在宅死は誰が看取ってくれるのか
- 存分な在宅医療やケア、介護を受けるには、お金はどのくらい必要か
読み進めていくと、ひとり暮らしをしていても、そのまま自宅で最期を迎えることも可能であることがわかってきます。それも、病院で最期を迎えるときと大差ないサポートを受けながら、自分が望むように人生の幕を閉じることができるようです。
まずは事前の意思表示と
人生会議を
ただ、そのためには条件があります。まずは、事前にそれなりの意思表示を書面にしておくことです。加えて、そこに書かれた内容について遠く離れて暮らす家族、あるいは近しい友人、さらには在宅医療・ケア・介護を担ってもらうスタッフとも話し合いを重ねて、事前に合意を取りつけておく必要があります。
再三触れている「アドバンス・ケア・プランニング」(人生会議)です。
⇒ 人生会議では「これからの生き方」を話し合う
また、在宅で受けられる医療やケア、介護について、またそれらを担うスタッフの役割分担などについてもある程度の知識があったほうがいいようです。
経済面から言えば、どんなことに公的医療保険や公的介護保険が使えるのか、高額になったときの助成制度などについても知っておくと心強いでしょう。
⇒ 医療費も介護費も高額なときに助かる制度
なお、上野千鶴子さんの近著『在宅ひとり死のススメ (文春新書 1295)』も参考になります。
もしも急変したときに
救急車を呼ぶかどうか
それと、これは大事なことですが、住み慣れた家でこのまま静かに最期を迎えたいと思っていても、突然呼吸が苦しくなったりすると、あわてて救急車を呼びがちです。
しかし、救急車を呼ぶということは、「いのちを助けてほしい」と要求することと同じです。駆けつけてくれた救急車の中で、本来自分が拒否していた延命処置が行われたり、搬送先の病院でそのまま息を引き取ることになる可能性が、いやがうえにも高くなります。
「容態が急変したときにどうするか」「救急車を呼ぶか、呼ばないか」についても、かかりつけ医などのサポートチームとのアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)のなかの一項目に入れておくことをおすすめします。
なお、救急車に関してはコチラの記事でさらに詳しく書いていますので、是非一度目を通しておいてください。
お墓の心配がない「散骨」という方法も
在宅死の先には、ご遺体をどうするかという課題があります。この点についても、できれば事前にそれなりの準備をしておきたいものです。
実は、わたくしの周りには「仕事に夢中になっていて結局ひとり身になってしまった」という男性も女性も多いのですが、彼らの多くは、「散骨」という方法を選択し、代理散骨プランのある散骨事業者シーセレモニーに生前予約をしているようです。
詳しくはこちらをご覧ください。
参考資料*¹:『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』(朝日新聞出版)
参考資料*²:NHK「”おひとりさまの看取り”に取り組む医療チームと患者の絆」