「自分の足で歩く」ことに努めていた日野原医師

歩く

100歳を超えてもなお
臨床医であり続けた日野原医師

105歳という、まさに健康長寿を全うされて、2017(平成29)年7月18日に逝去された日野原重明医師のことをご存知の方は少なくないと思います。100歳を超えてもなおお元気で、臨床医として患者のベッドサイドを訪れては、やさしい言葉をかけながら、ていねいな診療を続けておられました。

生前の日野原医師の診療風景は、NHKで何度かドキュメンタリー番組に取り上げていましたから、そのお姿は多くの方がご覧になっていることと思います。

いよいよ最期となったときも、日野原医師は、講演などでも繰り返し話しておられた言葉そのままに、いっさいの延命措置を拒み、自然体のまま、やすらかなお顔で旅立っていかれたと漏れ聞いています。

幸いにして長生きできたとしたら、苦しむことなく、できれば日野原医師のように、静かに穏やかな時を過ごしていたい――。自らの人生の最終段階、いわゆる「終末期」に思いを巡らせたとき、誰もがそんなふうに考えるのではないでしょうか。

日野原医師が習慣にしていた
足腰の鍛え方

お元気だった頃の日野原医師には、何度も取材させていただきました。お目にかかるたびに、本題のお話をうかがった後の雑談で、ご自分が常日頃から心がけ、しっかり身につけてこられた健康長寿の秘訣を話してくださいました。

たくさんある秘訣のなかでも、私がいちばん感心させられたのは、とにかくご自分の足でよく歩くこと。それも、一緒に歩いていると私の息が切れるほどのスピードで歩かれるのです。最期のその日まで歩けるようにと、診療の合間にも足腰を鍛えていて、病院の階段を駆け上がっている姿を幾度となく目撃したものです。

たまたまエスカレーターでご一緒しようものなら、大変でした。日野原医師は、「はい、お先にね」とひと言かけると、さっそうとエスカレーターの右側を駆け上がっていくのです。

負けずに息切れしながら後を追う私に、「若い人を追い抜くのは気持ちがいいですよ」と笑って話しておられたお姿が、そのときの、いたずらっぽい少年のような笑顔と共に、今も印象深く残っています。

最近では、ウォーキングやジョギングなど、トレーニング中の体調チェックにと、1日の歩数、消費カロリーなどに加え、血圧や心拍数などの計測機能付きスマートウォッチ、あるいはリストバンドなるものが売り出されています。

これを身に着けていれば、階段を駆け上がるなどの足腰を鍛える運動も、安全に、また安心して取り組むことができますから、日野原医師を見習ってみてはいかがでしょうか。

健脚のために欠かさなかった
良質のたんぱく補給

ところで、最期の日まで自分の足で歩けるほどの健脚を保つためには、毎日の運動とともに栄養面でも是非心がけておきたいことがあります。

この点について日野原医師は、「足腰を鍛えるには、筋肉を強化することが大切ですからね」と、こんな話をしてくれました。

「筋肉の健康にはアミノ酸スコアの高い良質のたんぱく質がいちばんです。ですから私は週に2、3回は、夕食に100g前後の牛のステーキを食べているんですよ」

アミノ酸スコアは、食品に含まれているアミノ酸バランスのよさで決まります。たんぱく質を構成するアミノ酸には、必須アミノ酸と非必須アミノ酸があるのですが、このうち必須アミノ酸は、人間の体内でつくることができないので、毎日の食事で適量をコンスタントに摂っていく必要があります。

「アミノ酸スコアが高い」ということは、食品に含まれている必須アミノ酸の含有比率が高いことを意味します。日野原医師が好んで食べておられた牛肉のアミノ酸スコアは「100」です。ちなみに豚肉(ロース)、鶏肉(むね肉)、卵(鶏卵)、牛乳、納豆など大豆製品のアミノ酸スコアも、牛肉同様に「100」です。

腎機能は正常に働いているか

なお、たんぱく質の多い食事をするには、たんぱく質がその役割を果たし、残った老廃物を処理してくれる腎機能が正常に働いていることを事前に確認しておく必要があります。

この点は、担当医やかかりつけ医が当然血液検査でチェックしてくれているはずですから、一応確認しておくことをお忘れなく。

たんぱく質とサルコペニアの関係についてはこちらを参照してください。

健康長寿を全うする条件の一つは足腰が丈夫であること。そのためには「サルコペニア」と呼ばれる筋肉量の減少による筋力低下を防ぎ、フレイルにすすめさせないことが課題だが、そのために欠かせないのがたんぱく質、特にアミノ酸スコアの高い卵はおすすめ。