物忘れを自覚したら血液検査で認知症のリスクチェックを

認知症

認知症予備群のリスクが
簡単な血液検査で判定できる

認知症という病気は、自分が体験したことをすっかり忘れてしまうような記憶障害などの症状が出る前の段階で発見して適切な手を打てば、予防、つまり病気の発症を遅らせたり、進行を抑えたりすることも期待できることがわかっています。

とはいえ、これまで認知症を早期発見するには、CTやMRIなどの特殊な設備を必要とする高額な検査を自費で受けるか、「長谷川式知能評価(認知症)スケール」などによる主治医の主観的な判断に頼るしかありませんでした。

そんななか、認知症の一歩手前の、いわゆる予備群とされる「軽度認知障害」のリスクを、簡単な血液検査によって80~90%の精度で判定するという画期的な方法が世界で初めて開発され、すでに実用化されていることが報じられています*¹。

今回は、認知症の早期発見につながるこの検査と予防法について書いておきたいと思います。

すでに実用化され、普及が進む
「MCI(軽度認知障害)スクリーニング検査」

「MCI(軽度認知障害)スクリーニング検査」と呼ばれるこの検査法を開発したのは、筑波大学医学医療系の内田和彦准教授らの研究チームです。

少量(7ccほど)の血液を採血して検査するだけで、2~3週間もすれば「軽度認知障害」になっているかどうかがわかるといいいます。

この検査法は、内田准教授が社長を務める筑波大学発の医療ベンチャー企業「MCBI」(茨城県つくば市)にて2021年10月に実用化され、現在では国内のおよそ1,300以上の医療機関で検査が可能になっているそうです。

ちなみにこのスクリーニング検査を実施している医療機関は、一部を除き、こちら*²で検索することができます。

この検査に健康保険は使えず自費診療になりますが、おおむね2万円程度とのこと。ただし、医療機関により異なりますから、直接問い合わせてみる必要があります。

物忘れが多くなったら
MCIスクリーニング検査を

今や認知症の大半、約7割を占めるのはアルツハイマー型認知症です。

今回紹介する血液検査でリスクを判定できる軽度認知障害は、アルツハイマー型認知症の前段階、つまり一歩手前の状態です。

アルツハイマー型認知症では、発症する20年ほど前の中年期の頃から原因物質である「アミロイドβ(ベータ)ペプチド」と呼ばれる特殊なたんぱく質が脳内に少しずつ溜まり始め、神経細胞の働きが障害されて、認知機能が徐々に低下していくのが特徴です。

この始まりの、軽度認知障害のうちは、物忘れや「ついうっかり」が目立つようになるなど、認知機能の低下はあるものの、実際にあった出来事さえ忘れてしまうなど認知症でみられるような記憶障害はなく、日常生活は支障なく送れています。

しかし、物忘れの多さなどを気にしつつそのまま過ごしていると、半数以上の人が4~5年で認知症を発症するといわれています。

したがって、何の支障もなく暮らせていても、「最近物忘れが多くなってきた」「知っている人の名前を思い出しにくくなった」ことなどが気になっている方は、このスクリーニング検査を受けておけば、認知症を発症する前に手を打つことができます。

肥満や糖尿病などの生活習慣病が認知症のリスクを高めるばかりか、難聴や嗅覚の衰えも認知症のリスク要因とされていますから、該当する方はMCIスクリーニング検査を受けてみてはいかがでしょうか。
⇒ 難聴は認知症のリスク因子、早めに補聴器を

⇒ においを感じる力(嗅覚)は衰えていませんか

MCIスクリーニング検査で
リスクがあるとわかったら

認知症やその前段階である軽度認知障害のリスクは、健康に暮らしている方でも年齢を重ねれば自然と高まります。

そのため理想としては、MCIスクリーニング検査も健康診断と同じように定期的に受けるようにすれば、認知症の早期発見につながることになります。

この検査の結果で軽度認知障害のリスクがあるとわかっても悲観的になる必要はありません。

むしろ認知症の発症を遅らせたり症状を軽くすることができるチャンスと受け止め、生活習慣を見直し、改善に取り組むことが勧められます。

認知症予防につながる生活習慣改善のポイント

たとえばMCIスクリーニング検査の開発をリードした内田准教授は、中年期からの生活習慣改善のポイントとして、以下の点をあげています。

  1. ウォーキングや水泳などの有酸素運動を習慣化する
  2. 高たんぱく質で良質の脂質を中心にバランスのよい食事を心がける
  3. 良質な睡眠を十分にとり、日中働き続けて疲労している脳をしっかり休ませる
  4. 適正体重を維持する
  5. 高血圧や糖尿病の方はセルフコントロールを徹底する
  6. 仕事をリタイヤした後も社会との接点をなくさない
  7. 趣味をもって楽しむ

このうち「2」にある「バランスのよい食事」の摂り方については、こちらで紹介している「まごたち食」がお役に立てると思います。

「ピンピンコロリ」を望んでいても、歳を重ねるにつれて食が細くなり低栄養に陥りがち。低栄養が続けば活動は鈍くなり、「閉じこもり」や「寝たきり」になりがちです。その予防策として、おかずの食べ方の指針となる「まごたち食」を紹介します。

「4」の「適正体重」については、日本医師会が、身長から割り出す方法として「身長(m)× 身長(m) × 22 =適正体重(㎏)」を紹介しています。たとえば身長170㎝の方なら、1.7×1.7×22=63.58となりますから、63.58㎏が適正体重となります*³

また、「7」の「趣味」については、「歌を歌う」「ピアノなど楽器を演奏する」などに加え、「臨床美術」として認知症の治療やケアの現場ではすでに20年以上の実績がある「物を見て絵を描く」「粘度で造形する」などのアートセラピーが効果的だとされています。

「臨床美術」をご存知でしょうか。絵を上手に描いたり、オブジェなどを上手に作るのではなく、自らの感性を働かせて個性を表現する創作活動に集中する時間が脳を活性化させ、認知症の予防や症状の改善につながるとして人気が高まりつつあると聞き、調べてみた。

参考資料*¹:NEWSつくば 2019年2月11日「認知症は予防できる!筑波大の内田准教授が早期発見の検査法開発 普及へ」

参考資料*²:MCIスクリーニング検査プラス実施医療機関

参考資料*³:日本医師会「自分の適正体重を知ろう」