「施設死」を選択する人が出てきています

高齢者施設

シニア世代が希望する
「療養場所」と「最期を迎える場所」

このところ、シニア世代、おおむね60歳以上を対象に、次のようなアンケート項目による調査が、国や民間レベルでいくつか行われています。

「もしあなたが、回復が望めない病気にかかったり、老化が進んで身の回りのことが自分でできなくなったら、どこで療養したいですか」

このような質問に寄せられた回答を見ると、いずれの調査でもおおむね半数以上、調査によっては8割以上の人が「自宅で療養したい」と答えています。

「自宅」に次いで多いのが「病院などの医療機関」で20%前後、三つ目として「特別養護老人ホームなどの福祉施設」が、割合としては5~6%と少ないものの、挙げられています。

アンケートでは、同時に、「どこで最期を迎えたいですか」という質問もしています。この質問に対する回答も、希望する療養場所とほぼ同じです。

ただ、「特別養護老人ホームなどの福祉施設」については、希望する人が3%前後まで減っているのがちょっと気になるところです。

「施設死」がゆるやかに増加している

近年になり、「無理に生かす」ような延命治療は希望しないという風潮が高まっています。

にもかかわらず、アンケート結果を見るかぎりでは、延命治療が行われない老人ホームなどの高齢者施設で最期を迎える、いわゆる「施設死」を選択することに抵抗感を覚える人が少なくないようです。

希望はともかくとして、実際のところ日本人はどこで亡くなっているのでしょうか。

その実態を人口動態統計値で見てみると、ほぼ半世紀にわたり病院などの医療機関で最期を迎える「病院死」が80%台で推移しています。これに対し「自宅死(在宅死)」は10%台にとどまっています。

こうした数値を見るかぎり、8割に届くほどの人が、できれば自宅で最期を迎えたいと望みながらも、病状が突然変化したり、症状が悪化するなどして医療的なかかわりが必要になった途端、病院に入院してそのまま亡くなっている実態が浮かび上がってきます。

ただ、注目すべき変化も起きています。基本的に延命目的の諸々の医療が受けられない高齢者施設で亡くなる「施設死」が、2000(平成12)年以降、ゆるやかに増え続けているのです。

具体的な数値で言えば、2005(平成17)年の「施設死」の割合はわずか2.8%でしたが2016(平成28)年には9.2%と、大幅に伸びています。

老人ホームなどの介護施設も
「看取りの場」に

「施設死」が少しずつながら増え始めている理由の一つには、このところの延命治療を希望しないという風潮が影響しているのは、まず間違いないでしょう。

加えて、私が特に注目するのは、特別養護老人ホームのような福祉系の高齢者施設で働く看護師さんらスタッフのみなさんが、施設に入所している高齢者を「看取る」ということに真剣に取り組むようになっていることです。

数年前ですが、介護施設で働く看護師さんの集まりを取材させていただいたことがあります。そのとき聞いた、一人の看護師さんの発言がとても印象深く残っています。

「複数の病気を抱えていて、いつ急変してもおかしくないような状態にありながら、介護施設での生活を望んで入ってこられた高齢者の生活は、最期まで私たちが支えてあげたい……」

急変したり、病状が悪化して医療的な処置が必要になったからといって、連携している病院にバトンタッチするのではなく、その方が選択した施設における生活の延長として看取るということを、自分たちで責任をもってやっていこうというわけです。

そのためにと、これまで身内を看取った経験がなかったり、死を怖いものだという思い込みにとらわれがちな介護スタッフの不安を和らげ、落ち着いて対処できるように、「看取りケアの指針」を作成するなどして、チームとして「そのとき」に備えているという話もちらほら聞かれるようになっています。

看取りのできる介護施設なら
「終の棲家」として選択を

「平穏死」の提唱者である石飛幸三医師が、2005(平成17)年12月から現在まで特別養護老人ホームで常勤医を務めておられることは、先にコチラの記事で紹介しました。

石飛幸三医師の『平穏死のすすめ』がベストセラーになって以降、「平穏死」という言葉が「尊厳死」と同義語のように使われています。高齢者には延命治療はやめ、苦しまず、穏やかに最期の時間を過ごしてほしいとの願いが込められているのですが……。

そこでの経験から石飛医師は、介護施設が「看取りの場」として機能できるようになれば、多くの人に「終の棲家(ついのすみか)」として安心して選んでもらえるのではないか、と常々話しておられます。

現時点ではまだ、すべての介護施設に看取りまでお願いできる状況にはないようです。ただ、生活を支えることにおいてはプロである看護師さんのイニシアチブにより、看取りまでできる介護施設がこの先増えることを期待して、「施設死」を最期を迎える場の選択肢の一つとして検討してみる価値はありそうです。

なお、看取り対応してくれる介護施設に関する情報は、在宅療養中であれば担当の訪問看護師に、また入院中であればその病院の退院・相談窓口や退院支援を担っている看護師(退院支援看護師)に相談してみてはいかがでしょうか。