新しい生活様式としてのマスク着用と熱中症予防

水分補給

マスク着用により
熱中症リスクが高まる!?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は落ち着きを見せてはいますが、感染自体が完全に収束したわけではありません。

気を緩めることなく、人との距離をとったり、これまで以上に手指の清潔に気を使ったりと、政府の専門家会議が提言した「新しい生活様式」を実直に継続していくことが、「コロナ時代の新たな日常を取り戻していく」一番の近道だと言われています。

この「新しい生活様式」では、「マスクの着用」が求められますが、一方では、すでに熱中症シーズンが始まっています。

しかも、気象庁によれば、これから迎える夏は全国的に、平年以上に「暑い夏」になりそうとのこと。

マスクの着用により、熱中症のリスクはさらに高まるのではないだろうか――。

そんな心配の声があがるなか、厚生労働省と環境省は熱中症予防行動として、
「新しい生活様式」における熱中症予防の注意点を指針としてまとめ、公表しています*¹。

人と十分な距離が確保できれば
マスクをはずして熱中症を防ぐ

この指針において、「新しい生活様式」における熱中症を予防する行動のポイントとして挙げられているのは、次の5点です。

1.暑さを避けましょう
2.適宜マスクをはずしましょう
3.日頃から健康管理をしましょう
4.こまめに水分を補給しましょう
5.暑さに備えた体づくりをしましょう

この5点のなかで、感染予防策としての「新しい生活様式」を考えたときに、まず戸惑うのは、「2.適宜マスクをはずしましょう」の「適宜」ではないでしょうか。

マスク着用は、着用していない場合と比べ、心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するなど、身体に負担がかかることがあり、特に高温多湿の環境下でのマスク着用は熱中症のリスクを高める可能性があるとされています。

このことから、「適宜」の目安として、指針には、次のような注意点が列記されています。
① 気温・湿度の高い中でのマスク着用は要注意
② 屋外で人と十分な距離(2m以上)を確保できる場合はマスクをはずす
③ マスクを着用しているときは、負担のかかる作業や運動を避け、周囲の人との距離を十分とったうえで、適宜マスクをはずして休憩する

熱中症リスクの指標
「暑さ指数」をチェックする

自分が身を置いている今の環境が、マスクを着用していると熱中症リスクを高める「気温・湿度の高い中」、つまり高温多湿の状況にあるのかどうか――。

この判断を、皮膚感覚ではなく、より客観的に行う指標としては、環境省が公表している「暑さ指数(湿球黒球温度: WBGT)」*²が参考になります。

「暑さ指数」とは、地域ごとの気温や湿度、日射熱、輻射熱といった周辺の熱環境をもとに、次の5段階で熱中症の危険度を指数化したものです。( )内は温度基準を示します。

  • ほぼ安全(21℃未満)
  • 注 意 (21℃以上~25℃未満)
  • 警 戒   (25℃以上~28℃未満)
  • 厳重警戒(28℃以上~31℃未満)
  • 危 険 (31℃以上)

環境省は「熱中症予防情報サイト」で、全国840地点における「当日」「翌日」「翌々日」の3時間ごとの予報値、および現在の暑さ指数予測値(1日1回)を色分けして紹介するとともに、メール配信でも情報を無料で提供しています。

まずは、この「暑さ指数」をチェックしましょう。

同時に、室内に温度計を常設して、室温が暑さ指数で「厳重警戒」に相当する28℃を超えないように、エアコンや扇風機を上手に活用することも、熱中症予防と同時に感染症対策のマスクを安全に着用するうえで大切になってきます。

この場合の温度計として、最近ではタニタ 黒球式熱中症指数計 熱中アラーム  のように、屋内はもちろんのこと、炎天下の屋外でも、そのときその場の暑さ指数を計測し、リスクが高いときはてアラーム音と数値で知らせてくれる熱中症指数計が各種市販されています。

活用してみてはいかがでしょうか。

熱中症予防でマスクをはずしても
咳エチケットは忘れずに

熱中症を防ぐためとはいえ、新型コロナウイルスの感染が収束したわけではありませんから、「マスクをはずしても本当に大丈夫かしら」と、心配する声もあります。

感染予防策としてのマスク着用の本来の目的は、咳やくしゃみをした際に飛び散る飛沫(ウイルスを含むリスクのあるしぶき)が周りの人にかかるのを防ぐことにあります。
つまり、「咳エチケット」です。

したがって、ソーシャルディスタンス(2m)の範囲内に人がいないところでは、
「マスクをしていないからウイルスに感染するのではないか」といった心配は無用です。

ただし、自分が感染している場合は、症状の有無に関係なく周囲にウイルスをまき散らすリスクが多分にあります。

熱中症予防でマスクをはずしているときに、咳やくしゃみをする際は、ティッシュやハンカチで鼻と口を覆うことをエチケットとして身につけておきたいものです。

なお、マスクを着用したときの顔の周りの温度が最も高くなるのは黒い布のマスク、一番低いのは白いマスクであることが実験で確認されています。

感染対策の面からも熱中症予防からみても、不織布の白マスクがいいようです。

エアコンで室内を冷房中も
1時間に2回の換気を

もう1点、指針の「1.暑さを避けましょう」にも、多くの疑問の声が上がっています。

指針では、「暑さを避ける」具体的な方法として、以下の5点をあげています。

① エアコンを利用するなどして、部屋の温度を調整する
② 換気扇や窓開放により換気を確保しつつ、エアコンの温度設定をこまめに調整する
③ 暑い日や時間帯は無理をしない
④ 涼しい服装にする
⑤ 急に暑くなった日などは特に注意する

新型コロナウイルス感染症を予防するためには、屋内では、エアコンにより冷房している時でも、毎時2回を目安に換気扇を回したり窓を開放して換気を確保する必要があります。

換気をすれば高温高湿の外気が入り込み、当然屋内の温度は高くなりますから、熱中症予防のためにエアコンの温度設定をこまめに調整することが必要になってくるというわけです。

「エアコンが換気してくれる」は誤解です

ところでこのエアコンの使用については、「エアコンが換気をしてくれるので窓を開けたりする必要はないだろう」と考えがちですが、これは完全な誤解です。

各種あるエアコンの中には換気機能付きのものもあるにはあるようです。

しかし、大半のエアコンには換気機能がついていませんから、「せっかく部屋が冷えたのに」などと考えずに、感染対策としての換気を励行することをお忘れなく。

水分補給に何を飲みますか

なお、熱中症対策に欠かせない「こまめな水分補給」としてのスポーツドリンクについては、カロリーオーバーや虫歯のリスクがあるという話をこちらの記事で詳しく書いています。

熱中症のシーズンがやってきた。高齢者は脱水症に陥りやすいだけに水分補給に励みたい。ただ、スポーツドリンクは糖分過多による肥満につながりやすく注意が必要だ。おすすめは飲み慣れているお茶、それもミネラルやポリフェノールが含まれる「なたまめ茶」だ。

高血圧で減塩中の方の塩分は?

また、熱中症対策として「水分や塩分をこまめに摂りましょう」とアピールされて困っている減塩治療中の高血圧患者の方も少なくないでしょう。

このような場合の「塩分の摂り方」に関する日本高血圧学会の見解をこちらの記事で紹介しています。読んでみてください。

梅雨明け直後の猛暑で熱中症リスクが高まっている。「こまめに水分と塩分の補給を」とテレビなどでもアピールしているが、高血圧で減塩中の方は「塩分はこのままでいいのか、増やすべきか」迷っているのではないだろうか。日本高血圧学会のHPにその答えを見つけた。

参考資料*¹:「新しい生活様式」における熱中症予防の注意点
参考資料*²:暑さ指数