自分の歯が多い高齢者は、
健康寿命が長い
長く年月を重ねて人生の最終段階、つまり「終末期」を迎えたとき、健康に多少の問題があっても、せめて自分の身の回りのことくらいは他人に面倒をかけることなく、可能なかぎり自立した生活をしていたい――。
おそらくは、誰もがそんなふうに考えているのではないでしょうか。
この「健康な状態で長生きする」、つまり健康寿命*を延ばし全うすることを考えるうえで、興味深い研究結果が2017(平成29)年6月に報告されています。
高齢者の歯の本数追跡調査でわかったこと
その研究結果を報告したのは、東北大学大学院歯学研究科の松山祐輔歯科医師(2022年現在は東京医科歯科大学)ら研究チームです。
「高齢になって自分の歯が多く保たれている人は寿命が長いだけでなく、健康寿命(日常生活に制限のない期間)が長く、要介護でいる期間が短い」ことを、高齢者を追跡したデータの分析結果として発表しているのです*¹。
調査の対象となったのは、全国24の自治体に暮らす65歳以上の男女約7万7000人です。
いずれも健康で、おおむね自立した生活を送っており、「介護を受ける必要はないから」と、公的介護保険制度の要介護認定を受けていない高齢者です。
そのなかで健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と説明されている。
満80歳になったとき、
自分の歯が20本以上ある
高齢になっても自分の歯が健康な状態で数多く残っていれば、三度三度の食事を自分の口から、自分の歯で噛んで食べることができます。
胃や腸といった消化管に健康上問題がなければ、胃瘻(いろう)や鼻チューブを介しての人工栄養に頼る必要もないでしょう。
また、高齢者に多い「低栄養」や筋力が低下して「サルコペニア」と呼ばれるような状態に陥る心配もないといっていいでしょう。
簡単に言えば、高齢になっても多くの歯の健康が保たれていることは、即、介護予防につながるということです。
ご存知ですか、国が進める「8020運動」
ここで当然の疑問としてあがってくるのは、では「健康な歯が何本くらい残っていればいいのか」ということですが、答えは簡単です。
かねてから私たちの国では、「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)」をスローガンに、歯の健康の大切さをアピールする運動が、厚生労働省と日本歯科医師会により推進されています。
つまり「満80歳で健康な歯が20本以上残っている」というのがその答えです。
実際、松山医師ら研究チームの調査でも、たとえば85歳以上のグループで言えば、歯が20本以上残っている人は歯を全部失っている人に比べ、健康寿命が男性では92日、女性では70日、それぞれ長かったという結果が出ているそうです。
同時に介護を要した期間についても、歯が20本以上残っている人は1本も残っていない人に比べ、男性では35日少なく、女性では55日少なかったとする結果を公表しています。
1日2回のブラッシングで、
むし歯と歯周病を予防する
ところで、私たちの歯はもともと28本(親知らずも入れると32本)しかありません。
歳を重ねて80歳になったときに、このうちの20本以上が健康な状態で残っているというのは、口で言うほど簡単なことではありません。
私の「かかりつけ歯科医」によれば、歯を失う2大原因は「齲歯(むし歯)」と「歯周病(ししゅうびょう)」ですが、このどちらも毎日の口腔ケア、いわゆる「オーラルケア」を徹底して行うことにより予防できるそうです。
このオーラルケアのポイントは、歯のブラッシングにあります。
1日に最低でも2回、1回につき2、3分をメドにブラッシングを徹底して行います。
このブラッシングにより、歯垢(しこう)と呼ばれる、歯の表面に付着しているネバネバしている細菌のかたまりを完全にそぎ落として、決してため込まないことがまずは大切。
同時に、ブラッシングにより歯肉全体の血流を促すことが、齲歯や歯周病の予防につながり、「80歳になっても20本以上」を実現する最善策なのだと言います。
なお、最近になり大学病院などでは「歯内療法科」「歯内治療科」において、歯を抜かずに残すための治療が専門的に行われています。
詳しくはこちらの記事を参照してください。
すでに20本も残っていないという方も
自分の歯はすでに20本も残っていないという方もいるでしょう。
だからといって諦めるのではなく、「これ以上は自分の歯をなくさないぞ!!」という意気込みで、歯のブラッシングを徹底して行うことをおすすめします。
幸い最近は、進化した電動歯ブラシをはじめとするオーラルケアグッズが各種市販されていて、歯のブラッシングもずいぶん手軽に、しかも効果的にできるようになっています。
かかりつけの歯科医に相談のうえ、ご自分にとって使い勝手のよいものを選んで活用されてはいかがでしょうか。
電動歯ブラシを選ぶポイント
参考までに、各種あるなかから電動歯ブラシを選ぶポイントとして、私のかかりつけ歯科医は以下の点を挙げています。
- 歯垢が残りがちな奥歯の奥までブラシのヘッドが届く
- 音波振動式ならブラッシング中に唾液が飛び散る心配がない
- 歯肉にかかる振動がきつすぎない
- 軽くて持ちやすい
- タイマーが付いていてブラッシング時間がわかりやすい
毎日のオーラルケアでフレイル予防を
最近注目されている「オーラルフレイル」という言葉をご存知でしょうか。
オーラル、つまり口腔機能が衰えた状態のことですが、要介護につながりやすいこの状態を予防するには、毎日のオーラルケアが必須です。詳しくはこちらを。