難聴でも補聴器を使用している人は少ない




スズメの鳴き声

難聴者率は欧米人と大差ないが、
補聴器使用率は欧米諸国の半分以下

何十年と歳を重ねれば、否応なく身体のあちこちに不具合が生じてくることが避けられません。例を耳にとっていえば、徐々にながら両方の耳の「聞きとり」機能が劣化してきます。
いわゆる「加齢性難聴」です。

日本補聴器工業会が公表している難聴者(難聴の診断を受けている、またはおそらく自分は難聴だと思っている人)の補聴器使用に関する調査(JapanTrak 2018 調査報告)によれば、2018(平成30)年3月時点で、日本の難聴者率は11.3%(75歳以上では39.2%)で、日本同様に高齢化が進む欧米諸国と大差ない結果となっています。

ところが、難聴者の「聞きとり」機能を補強する医療機器の一つ、「補聴器」の使用率となると、欧米各国と日本とでは大きな差が見られます。

具体的な数字で言うと、欧米諸国では難聴者の30~40%が補聴器を使用しています。
ところが、日本の使用者率は難聴者のわずか14.4%、65歳以上の難聴者に限ってみても16.8%と、欧米の半分以下にとどまっているのです。

この調査では、補聴器使用者に補聴器の満足度を尋ねているのですが、この点においても他国が70~80%と高水準で「満足」と回答しているのに対し、日本では38%(大変満足、満足、やや満足)と半分程度の評価にとどまっています。

加齢性難聴は50歳頃から始まるが、
自分ではなかなか気づきにくい

超高齢化社会に突入した私たちの国における補聴器使用率が、同じく高齢化が進む欧米諸国と比較して世界的にワーストクラスであるというのは、いったいどうしてなのでしょうか。

加齢性難聴については、「老人性難聴」と呼ばれることもあるように、一般に、高齢者に起こることとして理解されています。

ところが実際は、早い人では50歳ごろから始まり、65歳前後になるとほぼ半数、そして後期高齢者と呼ばれる75歳以上になると7割以上の人が、自分では難聴を疑ってはいないものの、普通に生活するなかで「聞きとりにくさ」「聞こえにくさ」を自覚しているそうです。

別件で取材した際に耳鼻科医からたまたまこの話を聞き、加齢性難聴の症状が出てくるのが思いのほか早いことに、とても驚いたものです。

これほど多くの人が「聞くこと」に不便を感じているにも関わらず、補聴器を使っていない人が多いという背景には、難聴が痛みのような苦痛を伴わないために、自分ではなかなか気づきにくいという問題があるようです。

そのため「人と話していて聞き返すことが多くなった」「聞き間違えることが多くなった」「話す声が大きくなった」「テレビのボリウムを上げ過ぎて、よく音が大きすぎると言われるようになった」……といった無意識の変化を家族などから指摘されて、初めて自分の難聴を認識するようになるケースが多いと聞きます。

難聴は高血圧や糖尿病と並ぶ
認知症発症の危険因子として認識を

高齢者に多い加齢性難聴は、ある日突然、片耳だけが聞こえない、あるいは聞こえにくくなる「突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)」とは違い、両方の耳が長い時間をかけて徐々に聞こえが悪くなってくるのが特徴です。

この状態を放置しているとますます聞きとりが悪くなり、認知症につながるリスクがあることがかねてから指摘されています。

この点を重視し、2015(平成27)1月に厚生労働省が関係省庁と共同で策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、高血圧や糖尿病などと並び、「難聴」も認知症発症の危険因子であるとして、早期の適切な対応を求めているほどです。

あなた自身の認知症のリスクを軽減するためにも、「どうも最近聞きとりにくくなっている」あるいは「家族などからテレビの音が大きいことをよく指摘される」という方は、難聴を疑い、かかりつけ医に相談するか、耳鼻咽喉科を受診して、まずは聴力検査を受けてみることをおすすめします。

「聞きとりにくさ」を自覚したら、
まずは「補聴器相談医」の診察を

ところで、聞こえが悪いとなると、とっさに補聴器の購入を考える方もいるでしょう。
しかも最近は、街のメガネ店や補聴器販売店などから、またネット通販でも、補聴器が簡単に手に入るようになっています。

しかし、補聴器は「医療機器」です。
医療機器には、使用上の有効性や安全性を確保するために厚生労働省が定めた一定の基準があり、使用にあたってはその基準をクリアすることが求められています。

補聴器で言えば、ただ音を大きくして聞こえをよくすればいいというものではありません。
医師の処方のもとに、使う人の耳の状態に合わせて音の増幅(音を大きくする)方法を調整し、その人独自の補聴器を作り上げていきます。

幸い私たちの国では、聞きとりに問題を抱えている人が、正しい診断のもとに有効な補聴器を適正に選択して使用できるようにと、日本耳鼻咽喉科学会が一定の資格を満たした「補聴器相談医」の認定制度を設けています。

その有資格者のなかで、勤務先から公開の了解が得られた補聴器相談医の名簿が公開されていますので、これを活用してみてはいかがでしょうか。
日本耳鼻咽喉科学会認定「補聴器相談医」名簿

補聴器使用に抵抗のある方へ

補聴器については「少々聞こえにくいけど、補聴器を使うのは大げさすぎる」とか、「私はまだ補聴器を使うほど年をとっていない」ことなどを理由に、補聴器を使うことを敬遠する高齢者が少なくないと聞きます。

そういった方のために、最近は、小さな音を大きく増幅させて聞こえをよくする「集音器」が各種開発されています。
ただし、集音器は医療機器ではなく音響機器ですから、補聴器のように使う人の難聴の度合いに合わせて音響を微妙に調節することはできないことをご承知ください。

また、医療機器ではないため、購入に医師の処方は必要ありませんが、安心・安全安のために、やはり耳鼻咽喉科を受診して、「まずは集音器で様子を見たい」旨を医師に相談してみることをおすすめします。

テレビの音を聞きとりにくい方に人気の集音器