新型コロナウイルス感染症は
糖尿病により重症化する
新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)が続くなか、基礎疾患、つまり持病のある人がこのウイルスに感染して新型コロナウイルス肺炎などの感染症(COVID-19)に罹ると、重症化しやすいことが指摘されています。
この、重症化リスクの高い基礎疾患の一つに、心不全などの心疾患やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のような呼吸器疾患と並んで、糖尿病があげられていることはご存知でしょうか。
しかも、そのⅠ型、Ⅱ型ともに重症化する可能性があると言われています。
実際、米国CDC(疾病対策センター)が3月31日に発表したレポートでは、COVID-19が重症化して集中治療室(ICU)に入った患者で何らかの基礎疾患を抱えていたのは78%ですが、そのうち32%は糖尿病を基礎疾患とする患者だったことが報告されています。
新型コロナウイルス発祥の地とされる中国の臨床データでも、糖尿病患者のCOVID-19による致死率は心疾患患者に次いで高く、全体の致死率が3.8%だったのに対し、糖尿病患者では9.2%だったことが明らかにされています。
日本糖尿病学会が「COVID-19に関するQ&A」を公表
これらの報告を重視した日本糖尿病学会は、2月18日(4月14日に一部改訂)、国内に約1000万人以上いるとされる糖尿病患者とその予備軍、またその治療・ケアに当たる医療関係者等に向け、Q&A方式でまとめた情報を、
「新型コロナウイルス(COVID-19)への対応について(Q&A)」*¹として公表しています。
糖尿病患者が、呼吸器感染症や皮膚感染症、尿路感染症といったさまざまな感染症にかかりやすいことは既にご承知のとおりです。
そのため糖尿病の方は日頃から、感染予防には人一倍気を使っておられることと思います。
今回の、COVID-19のパンデミックといった深刻な状況を受け、新型コロナウイルスの特徴を踏まえたより慎重な感染予防策と、万が一に感染を疑った場合の対応について、日本糖尿病学会の「Q&A」をベースに、ポイントをまとめてみたいと思います。
手洗いなど手指衛生の徹底と
「密閉・密集・密接」を避ける
公表された「Q&A」では「Q」として、
「糖尿病患者が、新型コロナウイルスに関して気をつけることはありますか」
をあげています。
これに対する「A」の冒頭では、COVID-19に罹った場合、心疾患や呼吸器疾患同様、糖尿病も重症化するリスクが高いことを強調しています。
そのうえで、まずは以下2点の感染予防策の徹底を求めています。
- インフルエンザなど他の感染症同様、石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる手指衛生など、一般的な衛生対策を徹底する
- 不要不急の外出や人込みの多い場所を避ける
屋内でお互いの距離が十分に(最低でも2m)確保できない状況で一定時間を過ごすなど、「三つの密、すなわち換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、身近で会話や発声をする密接場面」を避ける
マスクの着用に期待できる感染予防効果
なお、新型コロナウイルス対策としての「マスクの着用」については、仮に自身が感染者になってしまった場合には、咳やくしゃみを介して他人にウイルスをうつさないという、いわゆる「咳エチケット」として必須です。
反対に、感染者からのウイルスを含む飛沫を防ぐうえでのマスク着用については、空中のマイクロ飛沫やエアロゾル飛沫のような小さな飛沫まで防ぐ効果は期待できないようです。
しかし、咳やくしゃみにより勢いよく吐き出される飛沫を正面で受け止めず、横に流す効果は期待できるとされています。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。
新型コロナ感染時に必要な
シックデイ対策の備えを
「Q&A」ではもう1点、新型コロナウイルスに感染して発熱や咳などの症状が現れると、血糖値が乱れやすいことに言及。
その際には、「血糖値を下げる薬の調整」など、いわゆる「シックディ(Sick day)」対策、つまり体調の変化に応じて対処できるよう万全の備えが必要であることを強調しています。
新型コロナウイルスに感染しても、およそ80%の人は、普通は2、3日で治るはずの風邪症状が1週間ほど長引いた後に軽快するといった程度の、軽症のパターンをとるようです。
一方、残り20%の、高齢者や糖尿病のような基礎疾患がある人に多いのは、風邪症状に加えて倦怠感や息苦しさを自覚するようになり、酸素吸入などの入院治療が必要となるケースです。さらに重症化すれば、ICUでの集中治療が必要となります。
とはいえ糖尿病患者では、糖尿病の程度にもよりますが、仮にCOVID-19に罹っても、血糖コントロールが良好に維持されていれば、軽症で経過することも少なくないようです。
血糖コントロールが良好でないとCOVID-19が悪化しやすい
しかし、これはCOVID-19に限ったことではありませんか、糖尿病患者が感染症に罹り、血糖コントロールの乱れた状態が続くと、感染症が悪化しやすいこともわかっています。
たとえばCOVID-19に感染して37.5度以上の発熱が続くと、発汗も多くなりますから、適正な水分補給が行われないと、脱水状態に陥るリスクがあります。
加えて、発熱や咳などの症状により食欲が低下し、いつもどおりに食事を摂ることが難しくなります。こうなると、どうしても血糖値が乱れやすく、その改善策として、「血糖を下げる薬を使用している人は、薬の調整が必要になる」というわけです。
このような場合の対応については、あなたなりの「シックディルール」を再確認しておくことが重要になってきます。
今回のような新興感染症の場合は、安全を期すために、かかりつけ医に連絡して指示を受けることをおすすめしますが、そのタイミングが遅れないように、また独自の判断で薬を調節するようなことは避けた方がいいでしょう。
なお「Q&A」では、シックディ対策、シックデイルールの詳細については、国立国際医療研究センター 糖尿病情報センターのWEBサイト*²を参照するよう奨励しています。
COVID-19を疑っても
いきなり受診しない
糖尿病患者が発熱や咳、のどの痛みといった風邪症状を自覚して「COVID-19ではないだろうか」と疑ったとき、あるいは知人が感染していたことがわかり、自分が濃厚接触者*に該当するのではないかと思われるようなときは、躊躇なく主治医なりかかりつけ医に、ありのままを相談することが大切です。
とは言え、COVID-19の感染者のなかには、無症候性感染者(無症状病原体保有者)といって、新型コロナウイルスに感染しているにもかかわらず症状がいっさい表に現れない人が少なからずいることがわかっています。
また、感染してから症状が現れるまでの、いわゆる潜伏期間が、10日以上のケースも稀ではないこともわかっています。
したがって、自分が「歩く感染源」となって感染を拡大してしまうようなことを防ぐためにも、体調の変化を自覚してCOVID-19の感染を疑った場合でも、いきなりかかりつけの病院やクリニックを受診しないように伝えておきたいものです。
まずは電話やテレビ電話で相談する
まずは電話で、もしくはオンライン診療が可能であればスマートフォンなどによるテレビ電話歩介して、かかりつけ医などに、症状の変化や新型コロナウイルスへの感染を疑う症状や出来事などについて相談し、そのうえで医師の指示に従うことが大切です。
相談内容から、かかりつけ医が新型コロナウイルスの感染が疑われると判断した場合は、医師が最寄りの「帰国者・接触者相談センター」、あるいは保健所に連絡して協議し、その結果から、感染の有無を調べるPCR検査を受けるなどの指示を受けることになります。
なお、COVID-19が収束するまでの時限的処置として、初診についてもオンライン診療が可能となっています。その詳細と、オンライン診療を受け付けている医療機関のリストは、こちらの記事を参照してください。
参考資料*¹:「新型コロナウイルス(COVID-19)への対応について(Q&A)」
参考資料*²:国立国際医療センター 糖尿病情報センター「シックディ」