眼鏡型拡大鏡を老眼鏡代わりに使うのは危険

拡大鏡

眼鏡型拡大鏡(ルーペ)と
老眼鏡は違う

眼鏡のように着用して使用するタイプの拡大鏡、いわゆる「眼鏡型拡大鏡」あるいは「眼鏡型ルーペ」を、老眼鏡代わりに愛用している方が少なくないと聞きます。

この眼鏡型拡大鏡について、国民生活センターは、「視力や老眼などを矯正できるものではない」として、ホームページで使用上の注意喚起を行っています

「ルーペ」とも呼ばれる「拡大鏡」は、新聞や本を読むとか、針孔(はりあな)に糸を通すなど、手の届く程度の距離内にあるものをレンズで拡大して見るための道具です。

拡大鏡にはいくつかタイプがあるのですが、そのなかには、両手を自由に使えるように、眼鏡のようにかけて使用できるものがあり、最近ではこのタイプに人気が集まっているようです。

しかし、本来拡大鏡というのは、老眼鏡とはまったく違うものです。そのため一歩使い方を誤ると、はっきり見ることができないばかりか、歩いていて転倒したり、階段を踏み外したり、場合によっては、目のトラブルにつながりかねないおそれがあるとして、広く一般に注意を促しているのです。

国民生活センターが
眼鏡型拡大鏡をテスト

国民生活センターによれば、全国の消費者生活センターなどには、眼鏡型拡大鏡に関して、次のような相談や苦情が数多く寄せられているそうです。

  • 表示されている倍率どおりに拡大されて見えない
  • ピントが合わなかったりぼやけたりして、明瞭に見えない
  • 使用中に目がチカチカして、気分が悪くなり、吐き気を催した
  • 着用したまま歩行していて転倒し、骨折した

ちなみに、相談や苦情を寄せた方の性別は、男性44%、女性56%で、年齢がわかっている方の9割は、60歳以上だったそうです。

眼鏡型拡大鏡は
手の届く範囲内は明瞭に見える

消費者生活センターから報告を受けた国民生活センターは、インターネット通信販売や大手ショッピングモールなどでよく売れている、25銘柄の眼鏡型拡大鏡について、見え方の商品テストを実施しています。

その結果、「ものの見え方」などについて以下の点が確認されたと報告しています。

  1. 全銘柄とも、手が届く程度の距離内であればものは拡大されて明瞭に見える
  2. 全銘柄とも、焦点距離(約50㎝)以上離れている物は明瞭には見えなかった
  3. 全銘柄とも、表示されている倍率どおりには拡大されて見えなかった
  4. 全銘柄とも、表示された倍率どおりに拡大して見るためには、眼鏡型拡大鏡をかけたうえで、対象物との距離を縮める必要があった
  5. 全銘柄とも、手の届く程度の範囲内にあるものを見る場合でも、人によっては眼精疲労や複視(一つの物が二重に見える)が起きる可能性がある

適正な使用方法や注意点の眼鏡
記述がない眼鏡型拡大鏡も

加えて国民生活センターは、商品のパッケージや取扱説明書、およびインターネット通信販売サイトでの表示を調査した結果、以下の点が確認されたとしています。

  1. インターネット通信販売で購入した商品のなかに、商品のパッケージや取扱説明書に、商品名、製造または販売者名のいずれも記載されていないものがあった
  2. インターネット通信販売で購入した商品のなかに、商品のパッケージや取扱説明書、さらには販売サイトにも、使用上の注意点などが記載されていないものがあった
  3. 全商品とも、どのようにしたら表示倍率どおりに拡大して見えるようになるのか、その方法が明確に記載されていなかった
  4. 眼鏡型拡大鏡は手の届く範囲内における作業に適しているが、商品のなかには、遠くを見る際に使用しているイメージが添付されているものもあった

眼鏡型拡大鏡を
老眼鏡代わりに使用しない

以上のテストや調査の結果から、国民生活センターは、消費者に対して、以下の点に留意するよう呼び掛けています。

  1. 眼鏡型拡大鏡は手が届く範囲内のものを拡大するための道具として使う
  2. 老眼鏡代わりに使用しない
  3. 手の届く範囲外のものは見え方が通常とは異なるため、拡大鏡を着用したまま歩いたりするとに転倒や階段の踏み外しなどのリスクがある
  4. 自分の目や使用目的に合っているものを購入する
  5. 使用していて見え方や目に異常を感じた場合は使用を中止する

老眼鏡でピントを合わせてから眼鏡型拡大鏡を

また、同センターがコメントを求めた福下公子眼科専門医(東京都眼科医会・会長)は、自分の目に合っていない眼鏡型拡大鏡を使い続けることについて、こう警告しています。

「見え方に異常が生じて気持ちが悪くなったり、目がチカチカする、目がかすむ、目の奥が痛くなるなど、眼精疲労の症状が起きる可能性があります」

そのうえで、老眼の方が眼鏡型拡大鏡を使用する際は、「自分の目に合ったオーダーメイドの老眼鏡*でピントを合わせたうえで拡大鏡を重ねて使用すれば、すでにピントは合っているため、対象物にピントが合った状態で拡大して見ることができる」と説明しています。

*老眼鏡を作るときは、まず眼科専門医の診察を受けて、自分の目や使用目的(新聞などを読む時だけ使うのか、パソコン作業などで長時間使うのか)に適した眼鏡の処方を受け、その処方箋を持参して眼鏡店でオーダーメイドの老眼鏡を作成してもらえば安心です。
最寄りの眼科専門医は日本眼科学会のホームページ「一般の皆さまへ」→「眼科専門医を探す」*²で検索できます。

いずれにしても、眼鏡型拡大鏡を初めて使用するときは、かかりつけの眼科医の診察を受け、使用上のアドバイスを受けたうえで使うことをおススメします。

なお、一般的な老眼を矯正するための眼鏡、つまり老眼鏡の購入費用に健康保険は使えません。ただし、白内障などの病気の治療のために眼鏡が必要と眼科主治医が判断したときは、医療費控除の対象となります。詳しくはこちらを。

視覚機能の発達上重要な時期にある9歳未満の子の治療用眼鏡やコンタクトレンズには健康保険が使えるが、大人の近視や遠視、乱視等の眼鏡等には健康保険は適用外だ。しかし、医師が一部の疾患の治療に眼鏡等が必要と判断した場合は医療費控除を受けられる、という話を。

参考資料*¹:国民生活センター「眼鏡型の拡大鏡による見え方―視力・老眼等を矯正できるものではありません―」

参考資料*²:日本眼科学会「眼科専門医を探す」