「糖尿病」に病名変更の動き、負の印象払拭へ

血糖値

「糖尿病」と言う病名には
マイナスのイメージが

厚生労働省の推計では、予備群*を含めると全国に約2000万人の患者がいる「糖尿病」に、名称、つまり病名を変更する動きが出ています。

*糖尿病予備群とは、血糖値が正常より高いものの、糖尿病と診断されるにはまだ低い状態の人のこと。放置していると糖尿病に移行していく可能性が高いため、食事や運動などの生活習慣を見直すことがすすめられる。

糖尿病は、血液中のブドウ糖の値、すなわち血糖値を調整する「インスリン」と呼ばれるホルモンが、膵臓(すいぞう)から十分に分泌されなかったり、分泌量に問題はないもののインスリンの働きが低下して血糖値が高くなる病気です。

この病気になると尿に糖が含まれる場合があることから、1980年代の中頃から「糖尿病」と呼ばれるようになり、その名称が定着して現在に至っているものです。

しかし、糖尿病になると必ず尿に糖が出るわけではありません。また逆に、尿に糖が出ることがあっても必ずしも糖尿病というわけでもないのです。

このように病気の実態と病名に大きなズレがあるうえに、「糖尿病」という病名には、以前から「尿に糖が出るという不潔なイメージがある」といった声が患者側から上がっていました。

「糖尿病」の病名変更の動きは、このような患者の声が原動力となっているようです。

糖尿病の患者調査で
約9割が病名に抵抗感

「糖尿病」という病名については、患者の約9割が抵抗感や不快感を抱いていることが、患者や糖尿病領域で活躍する医療関係者、企業人らによって構成される日本糖尿病協会が実施した患者アンケートで明らかになっています。

糖尿病は大きくⅠ型とⅡ型に分けられるのですが、糖尿病患者の95%以上を占めるのはⅡ型糖尿病で、一般的に糖尿病と言えばⅡ型糖尿病を指していると言っていいでしょう。

子どもや青年に多く発症するⅠ型糖尿病は免疫異常によるものですが、中高年に多いⅡ型糖尿病は遺伝的な体質や過食、運動不足といった生活習慣など複数の要因が複雑にからみ合って発症するとされています。

ところが、とかく「糖尿病」という病名は「甘いものの食べ過ぎ」「だらしない」「不潔」といったマイナスイメージにつながりやすく、病名そのものが糖尿病患者に対する社会的偏見の一因になっているというのが、抵抗感や不快感の理由として挙げられているのです。

昨年(2021年)11月から同協会が始めたインターネットによる患者調査に、今年9月までに寄せられた1087人の回答をまとめたところ、回答者の90.2%が糖尿病という病名は「不快である」「抵抗がある」「少し気になる」と答えているのです。

病気の実態を
正確に表す病名に

この患者調査では、「糖尿病」という病名を「病気の実態を正確に表す言葉に変えた方がいいか」といった質問もしています。

この問いには、回答を寄せた患者の79.8%が「そう思う」と答えています。

記述式で求めた「(病名を)変えた方がいいと思う」理由としては、「排泄物の名前が入っている」のほかに、「不摂生」や「ぜいたく病」など、「だらしない生活習慣のせいで発症するイメージがある」との意見が少なからず挙げられています。

病名をめぐってはこれまでにも、「らい病」が「ハンセン病」に、「痴呆症」が「認知症」に、さらには「精神分裂病」が「統合失調症(とうごうしっちょうしょう)」に変更された例があります。

このうち「統合失調症」について言えば、患者の家族会が問題提起して変更の要望書を提出したのを受けて日本精神神経学会が議論を重ね、約9年後になんとか病名変更にこぎつけることができたという経緯があります。

「糖尿病」についても、病名変更に至るまでには関連学会や厚生労働省などとの長期にわたる議論が必要で、一朝一夕にはいかないだろうことは明らかです。

この点について日本糖尿病協会などは、1~2年後をめどに病気の実態を表す適切な病名を提案し、国や関係組織等に変更を働きかけていきたいとしています。

高齢者の糖尿病は
低血糖を起こしやすいが気づきにくい

ところで、高齢者の糖尿病は重症の低血糖を起こしやすく、そのことが認知症発症のリスクを高めたり、転倒や骨折、さらには要介護状態につながりやすいなどの特徴があり、その点を踏まえたセルフコントロールが大切です。

詳しくはこちらを読んでみてください。

糖尿病患者の約半数を高齢者が占めるなか、高齢者に特化した診療ガイドラインが作成されている。「食後の高血糖を起こしやすい」「低血糖のサインが通常と異なる」「認知機能の低下により自己管理が難しい」など、その特徴を踏まえておくことが、治療の継続には必須だ。