フェイスシールド・マウスシールド単独ではコロナ対策は不十分

マスク

マウスシールドは
マスクの代わりになるのか

インフルエンザのシーズンを迎えようかというこの時期になっても、新型コロナウイルスはいっこうに収束しそうになく、同時流行の気配さえうかがえる今日この頃です。

いったん落ち着いたかに見えた新型コロナの新規感染者数が、ここ数日増加傾向に転じ、思わぬ地域でのクラスター(感染者集団)発生が報告されています。

感染対策のいっそうの徹底が求められるなかにあって、このところ街中でよく、マスク無しで、フェイスシールド*、あるいはフェイスシールドよりかなり小さなサイズで、口元と鼻先をかろうじて覆うだけのマウスシールドを着用している人をよく目にするようになりました。

マスクに比べれば、フェイスシールドもマウスシールドも息苦しくないでしょうし、蒸し暑さもかなり和らぐとは思います。

そのうえシールドを介して口元の動きもよく見えますから、表情が相手に伝わりやすいというメリットもあります。

その点が買われ、ホテルやレストラン、デパート等で働く接客業の人たち、また表情を隠したくない保育士なども好んで着用しているようです。

しかし、マスク無しで、果たして肝心のコロナ対策になっているのだろうかと、気になっていました。

*フェイスシールド(face shield)とは、顔(目、鼻、口)の粘膜をウイルスを含む飛沫から守るシールド、つまり盾(たて)のこと。
最近は、口元と鼻先だけを覆うマウスシールドが流行っているようだ。

フェイスシールドは
不織布マスク代わりにはならない

こうした疑問に、神戸市の健康局が、
「フェイスシールドやマスクシールドではコロナ対策が不十分」
「感染予防策としてフェイスシールドはマスクの代わりにはならない」
として、日常生活でマスクの着用を徹底するよう呼び掛けていることが報じられています*¹。

このように断言するのには、確かな根拠あってのことです。

世界最高の計算速度と高性能の解析能力で日本が誇るスーパーコンピューター、通称スパコン「富岳(ふがく)」をご存知でしょうか。

このスパコンによる実証実験で、フェイスシールドは不織布マスクの代わりにはならないことが確認されているのです。

この研究を実施したのは、理化学研究所や神戸大学などの研究チームです。

同研究チームは、スパコン「富岳」を使い、新型コロナウイルス感染症のより効果的な感染対策を探るため飛沫(ひまつ)飛散のシミュレーション実験を行っています。

フェイスシールド単独では
飛沫の約半分が漏れる

フェイスシールドに関する実験では、
⑴ 不織布マスクを着けた場合(顔との隙間なし)と、
⑵ フェイスシールドだけを着けた場合(鼻までシールドで覆われている)
のそれぞれについて、くしゃみや咳、発話等で口や鼻から飛び出す飛沫がどのように拡散するかシミュレーションしています*²。

その結果、不織布マスクを着用した場合では、通常の飛沫より小さい5マイクロメートル(㎛)以下のエアロゾルは約3割漏れたものの、50マイクロメートル以上の大きな飛沫は、ほぼ補足することができました*。

一方、フェイスシールドでは、エアロゾルはほぼ100%が漏れ、50マイクロメートル以上の飛沫でも約半分が漏れることが確認されているのです。

このことから、フェイスシールドやマウスシールド単独では、コロナ対策としては不十分で、フェイスシールドを着用する際にも、マスクを着用するよう奨励されているのです。

*エアロゾルと飛沫の違い
エアロゾルとは、空気中を漂う液状もしくは固形の微粒子のこと。
明確な定義はないが、一般に、粒子径が5㎛以下の小さな微粒子をエアロゾル、5㎛以上の比較的大きな微粒子を飛沫と呼んでいる。
エアロゾルは水分量が少なく軽いため滞空時間が長く、気流に乗って遠くまで拡散するが、飛沫は水分量が多く重いため、遠くに飛ばずに地面に落ちやすい。

フェイスシールドはあくまで
マスクの補助的なものと認識を

特に最近のテレビでは、マウスシールドを着けただけのタレントたちが大口を開けて笑ったり、対面、つまり向かい合っておしゃべりしている映像が、やたら多く目につきます。

テレビ局側としては、視聴者にはなかなか見えにくいアクリルパネルを設置したり、換気に配慮しているからマウスシールドでOKとの判断をしているのかもしれません。

しかし、見る側にはその辺の配慮や工夫は十分伝わりません。
結果として、「マウスシールドなら息苦しくないし、タレントがやっていておしゃれだし……」といった安易な気持ちでマウイシールドだけでコロナ対策をしたつもりになっている人が増えているのは、なんとも残念なことです。

現在のようなコロナ対策に加えてインフルエンザ対策の徹底が求められている状況にあっては、マスクなしでフェイスシールドやマウスシールドを着用するようなことは極力避けたいものです。

政府分科会の尾身茂会長も警告

実際、9月の参議院予算委員会でこの問題について質問を受けた尾身茂氏(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)は、次のように答弁しています。

「フェイスシールドには、相手の飛沫が自分の顔などに直接付着するのを防ぐ効果は期待できる。しかし、マスクと違い、他の人の飛沫を吸い込むことを完全に防ぐことはできないし、自分の飛沫の拡散を防ぐ効果もマスクほどは期待できない。フェイスシールドはあくまでもマスクの補助的なものと認識し、使用してほしい」

参考資料*¹:神戸新聞NEXT2020/9/3
参考資料*²:室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策