昼カラオケ店が
高齢者の憩いの場に
昼間にカラオケを楽しむ、通称「昼カラ」のできる飲食店が、高齢者の憩いの場になっていることはうわさ話としては聞いていましたが、これほどの人気とは知りませんでした。
高齢者のなかには、「昼カラが唯一の生きがい」と語る声もあり、ほのぼのとした交流の場をイメージしていたのですが――。
新型コロナウイルス感染症の流行期にあるものの、昼カラオケ店の多くは、歌声が外に漏れないように四方八方締め切っていますから、全くの閉鎖空間です。
当然、換気は不十分でしょうし、スペース的にも密になりやすいでしょう。
高齢者同士が至近距離で会話を続けるなど、濃厚接触そのものですから、政府がすすめる感染対策としての「新しい生活様式」とは真逆の状況になっていると思われます。
結果として、新型コロナウイルスクラスター(感染者集団)の典型的な発生場所の1つになってしまっているのは、なんとも残念です。
1人の無症状感染者から
昼カラオケ5店舗、12人に
国立感染症研究所は、国内で新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2月以降、厚生労働省の依頼を受け、クラスターが発生した地域に対策班を派遣して対応してきました。
対応したクラスターは、すでに100件を優に超えるそうです。
この度、実践してきた対応事例を分析した結果を「クラスター事例集」*¹にまとめています。
8月13日(2020年)に公開されたこの事例集には、「院内感染クラスター」「職場会議クラスター」「スポーツジム関連クラスター」「接待を伴う飲食店クラスター」「バスツアークラスター」と並び「昼カラオケクラスター(カラオケを伴う飲食店)」が、発生リスクの高いクラスター事例として紹介されています。
この、昼カラオケを伴う飲食店におけるクラスター事例では、客が複数の店を次々と「はしご」したために、客から店のオーナーや従業員、従業員から客、さらにまたその客から別の店のオーナーや従業員、そして客へと感染が拡大しています。
なかには、1つの店舗で感染を受け、数日後に症状が出ているにもかかわらず別の店舗を利用して感染を広げた客もいたそうです。
最終的には、1人の無症状感染者から、5店舗に感染が広がり、都合12人の感染が確認されるといった大きなクラスターになっています。
3密が揃う
高齢者の昼カラオケ
このクラスターでは、感染拡大の発端(感染源)となった男性客は60代でしたが、感染を受けた客は、70代、80代を中心とする男女でした。
新型コロナウイルス感染症の特徴として、高齢者、とりわけ糖尿病や高血圧、がん、心不全、慢性呼吸器疾患といった持病で治療中だったり、透析を受けている高齢者が感染すると、重症化しやすい*ことは再三伝えられているところです。
それだけに高齢者には、いわゆる「3密」つまり密集、密接、密閉が1つでもあれば感染リスクが高まることから、なんとしても避けるように繰り返し周知が図られています。
にもかかわらずこの昼カラオケクラスターでは、換気が不十分な狭い閉鎖空間で、長時間過ごしていたことが感染拡大をもたらした要因の一つとなったようです。
加えて、マスクを着用しないまま、長時間にわたって歌い続けるといった人も多かったことが分析により明らかにされています。
会話や発声時に飛び出す唾液に
高い感染リスクが
すでにご承知のことと思いますが、新型コロナウイルス感染症の感染経路は、飛沫(ひまつ)感染と接触感染です。
主に唾液や痰、鼻水、およびそれらで汚染された手すりやドアノブなどに触った手で目や鼻、口などに触れたり、咳やくしゃみなどで飛び出す飛沫(ひまつ)が目や鼻、口などの粘膜に付着、あるいは呼吸器に直接入り込むことによって感染します。
加えて最近は、会話や発声に伴って排出される「マイクロ飛沫」と呼ばれる唾液の小さな飛沫が感染対策を考えるうえで重要であることが明らかになっています。
実際、3密(密集、密接、密閉)の1つでもある環境下での会話や大きな声、さらには荒い息遣いが生じるような状況として、ライブハウスやキャバレー、スポーツジム、立食パーティーなどでの感染例が少なからず報告されているとのこと。
当然カラオケでも、唾液によるマイクロ飛沫が発生します。
しかも歌っているときの飛沫量は、会話の十数倍であることが確認されています。
このマイクロ飛沫による感染を防ぐためには、マスクの着用が有効であることが確認されていますから、昼カラでも、歌うときはもちろんですが、歌い終わって仲間と話すときも、マスク着用、それも「不織布マスク」の着用が必須です。
「昼カラ」はいっとき休んで
「オンライン通いの場」の活用を
クラスター事例集では、昼カラオケクラスターを防ぐ個人レベルでの対策として、
マスクの着用に加え、
⑴ 長時間利用を回避する
⑵ 有症状時は店舗への出入りを控える
ことを徹底するよう呼びかけています。
⑴にある「長時間」に具体的な数値は明記されていません。
しかし、たとえば厚生労働省はマスク着用など必要な感染予防策なしで至近距離(目安として1m以内)で感染者と(無症状者を含む)15分以上の接触があれば、濃厚接触者に該当すると説明しています。
また、⑵の「有症状時」の症状としては、37.5℃以上の発熱や発熱していなくても咳、のどの痛みといった風邪あるいはインフルエンザ症状があげられます。
新型コロナウイルス感染症の流行期にある今は、感染リスクを極力避けるため、カラオケを楽しむなら極力自宅で――。
あるいは最近は地域に住む高齢者の憩いの場としての「通いの場」のオンラインバージョンも用意されていますので、そちらを活用して、「昼カラ」はひとまずお休みされるのも安全・安心と思うのですが、いかがでしょうか。
参考資料*¹:国立感染症研究所「クラスター事例集」